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エピソード8−②
「大くんもメイさんも今日ありがとう」
重い話を切り上げた後、七星の誕生日祝いを仕切り直した。午後六時をまわったところでお開きとなった。
「また連絡するな。夏休みの間に遊ぼ〜」
「ななちゃん、またね〜ボクとも遊ぼ〜」
明が七星に抱きつこうとするのを大地は阻止した。
「あんたはいいよっ」
「だいくん、ひどい!」
「だいくんて呼ぶなっ」
そんなお決まりのパターンに七星が楽しそうに笑う。
駐車場を抜けフェンスを回り玄関の扉向こうに七星の姿が消えるまで、大地は手を振り続けた。急な坂道を下ろうとして、ふと道を挟んで向こう側の家を見た。樹の家だ。たった四メートル程の距離。
来る時にそれが樹の家だと知った時とはまた違った心持ちで見た。
『家が近所で小学校が一緒だっただけ』
七星が言っていた言葉をまるっと鵜呑みにしていたわけじゃない。しかし今日語られたことは明が語ったことも含め、思ったよりもずっと密度の高い関係だったのだとわかった。
(あの時……金森先輩が絡んで来て、城河と七星が顔を合わせた時……あの時にもう既に嫌な予感がしたんだ)
「だいくん? 大丈夫?」
いつものにやけた顔をじゃなく、七星に見せるみたいな優しく気遣うような顔だ。
「なんでも……ないっすよ」
いつものように言い返してやろうと思ったが、それは成功せずに泣く直前のような声になってしまった。
(くそっこいつの顔見て泣きそうになるなんて……っ)
「いいよ、泣いたって」
「泣くわけないじゃないっすか」
そう言いながらももう視界は滲んでいた。
(なんなんだ、なんなんだよ。あの二人の関係は。七星はずっと城河のこと大切に想ってたみたいだし、城河だって七星に冷たくしながら金森先輩に嫉妬してるし。お互いの気持ちが繋がったら、俺勝ち目ないじゃん)
背の高い明が小柄な大地の肩を包み込むように抱き締める。自然にゆっくりと歩かせるように促した。
樹の家はもう見えない。
(悔しいけど……この人は大人だ……自分の非を謝る潔さもあるし、他人への気遣いや優しさもある。だから余計ちゃらそうにしているのが腹立つんだけどっ)
頭の中はぐちゃぐちゃで何に対して怒ってるのか、何に対して悲しんでるのかわからなくなる。ただ大粒の涙が我慢できずに溢れ始めた。
(ななちゃんも可愛いけど……この子は別の意味で可愛いなぁ。この気の強そうな子がこんなふうに泣くなんて、ぐっとくる。ななちゃんのこと好きなんだろうけど……ああ、欲しいなぁ、この子……)
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