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エピソード8−①

「あちぃ〜」  誰かと一緒というわけでもなく完全な独り言だった。  金森明の自宅から一番近いコンビニまで徒歩で約七分程度。外にいたのはたったそれだけだというのにもう汗だくだった。  七月末日の真昼の太陽は容赦ない。  店内に入るとそこはもう天国だった。 (涼しい〜〜さてさて何を食べようかな)  まずは飲み物、と一番奥のドリンクコーナーに進んで行く。  途中でガラスに張り付くように中を物色している後ろ姿が見えた。 (あれあれ。なんかめっちゃ見覚えのある後ろ姿)  小柄だけどスタイルは良く、白いTシャツの上からもクロップドパンツから出る足にもしなやかな筋肉がついているのがわかる。後ろを短く刈り込んだマッシュ風の髪型。スポーツマンだと感じさせる後ろ姿だ。  うふふと我知らず笑いが漏れる。  そっと近づいて。 「だ〜いくん」  後ろから腹に手を回して軽く抱きしめる。 「うわっ」  日下部大地は明の腕の中で飛び上がるように半回転したかと思うと腕から離れて後退った。 「(かな)も……ってっ」  ドシンッと後ろのガラスにぶつかる。 「っててっっ」 「やだ、だいくん。大丈夫?」  大地は差し出された手をパシッと叩いた。 「あんた、なんなんすかっ」  キッと明を睨みつける。 (うぁお、めっちゃ睨んでくる〜) 「なんでいるんすかー」 (この子いつもこうやってオレのことキッツい顔して見てくるよね〜。ななちゃんにちょっかい出してるからなんだろうけど。それだけじゃないような気もするし。わ〜なんかゾクゾクしちゃう〜)   「何ってちょっとお昼をねー。だいくんは何してるの? あ、ひょっとしてこの辺りに住んでるのかな〜」 「……ちっ」  一瞬の後、舌打ち。 (へっ? 舌打ち?) (どうせ、この男は……)  大地はの心の奥から溢れそうになるのをどうにか抑え込む。 「俺になんか構ってないで、お昼探すのなら探してくださいよ。俺も急いでるんで。今日は七星のたんじょ……」  動揺を抑える為に喋りすぎた。しまったと思った時にはもう遅い。 「え? なになに? もしかして今日ななちゃんの誕生日なの〜〜」 「ちがっ」 「や、違くないよねぇ〜。そういえばななちゃん樹のご近所さんだって言ってたっけ。だったらここからでもそう遠くないし」  更にテンションあげてくるので一気に疲れを感じた。無視してドリンク探しを再開すると、明が離れて行くのを感じた。肩の力が抜けたことに自分でもかなり緊張していたのがわかる。 (やっと行ったか。付いて来られたら困る。アイツ、七星のこと狙ってるみたいだからな)  大地がドリンクの他に菓子を物色してからレジに向かうと丁度明が会計を済ませたところだった。彼が外に向かって行くのを見てから自分もレジに向かう。 「あ、待ってたよ〜だいくん」  会計を済ませて外に出ると、そこには……。 「なんでまだいるんすかーっ」 「え? だってななちゃんのお誕生日でしょー。一緒にお祝いしよー」 「いやっすよ!」  そうきっぱり言って足早に去ろうとするが後から付いてくる。ダッシュしようとして。 (くっこの荷物じゃ思うように走れねー) 「ついてくんなー」  というのが関の山だった。      
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