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エピソード10
校門から校舎までを歩いていると、いつも通り明が後ろからやって来る。
「おはよー」
「はよ」
そしていつも通り隣で始まるくだらない話を、聞くでもなしに聞いていた。
妙に周りが騒 めいているなぁと思ったら背後で、
「いっくん」
という声がした。
(ナナ?!)
声ははっきりとしていていつもと何か様子が違うのを感じた。しかし、俺は振り向かなかった。
(俺に近づくなって言ったのに)
「ななちゃん」
明が変わりに振り向いて名前を呼ぶ。
(お前が『なな』って呼ぶなっつーの)
両方に憤りを覚える。
「いっくんっっ! 僕、こんな傷なんか、全然気にしてないんだからーーっっ!!」
そんな叫びにも近い声と共に背中をバシンッと叩かれた。
「ってっ」
それはめちゃ痛くて思わず口から零れてしまう。
(はっ? いったい何が)
勿論七星の言ったことは聞き取れたし、背中を思いっきり叩かれたのはわかってる。しかしまさか七星がそういうことをしてくるとは、という点で軽く混乱していた。
隣で揶揄うように明が口笛を吹いた。
周囲が騒めく。校舎へ向かう生徒も立ち止まって見てる。このまま放っておくわけにはいかない。
俺はやっと振り返り「ナナ」と呼んだ。
(え……)
七星の額に釘付けになる。
サイドは綺麗にカットされて──恐らく前髪は眉辺りに揃えられているはず。はっきりわからないのは、なんだか妙に可愛いスリーピン二つで真ん中分けにされているからだ。
思わず吹き出しそうになるのをどうにか堪えた。
「ほんとだよ? 全然気にしてないんだ」
七星は目を逸らさずに言った。この間『気にしていない』と言ったことを証明したかったのだろう。髪で隠れていない額には痛々しい傷跡が見えている。
(こんな人前で……勇気いったろうに……これも俺の為? この傷のことは気にしていないから俺にも気にするなという……俺が罪悪感を持つなと)
泣きたい気持ちになる。
「馬鹿だなぁ……」
(こんなことまでして……)
俺はピンを一つ一つ外して、ぎゅっと握られている七星の手の中に入れた。
(こんなにきつく握って)
きっとすごく緊張しているんだろう。それこそ一大決心しての行動に違いない。
俺は七星の前髪をそっと梳かして下ろした。
(ああ……昔のナナだ……)
「ナナ……だな。昔と同じ髪型だ……」
俺は酷く優しい気持ちになった。
一瞬だけ、何もかも許されたような。
そんな気持ちになった。
だからと言って、すぐに元通りに戻れる筈もなく、でも少しだけ七星に近づいてもいいのかな、なんていう気持ちが芽生え始めていた。
(ほんと……身勝手だな……)
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