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エピソード11−①
なるべくゆっくりめに近づこうと思ったんだ。
急激に近づき過ぎてまた自分が暴走しないように。
だから昼休みに彼奴らと一緒に過ごすとしても少し離れたところにいて、会話と言えば明が話を振ってきた時だけ。
そんな感じに。
(それなのに! 今のこの状況はどういうことなんだ!)
今日はクリスマスイブ。そして、ロマンチックにもちらちらと雪が降り出した。
「ホワイトクリスマスだね」
なんて七星が可愛いことを言っている。
相変わらず手が冷たいらしくて、急いで帰らなきゃ風邪引かす、そう思ったんだ。
(だからって、手を繋ぐことないだろっ、俺! 子どもの頃と違うのに)
こんな状況でどきどきしないわけがない。
これ以上暴走しないように自分を律する。
それもこれも皆、彼奴――明の企みのせいだ!
世間はクリスマスイブで賑わっている。
しかし俺はがっつりバイトに入っているので関係ない。いや、関係なくはない。めちゃくちゃ予約も入っていて忙しい。
もうすぐ五時半になる。そろそろ予約の客が来る頃だ。
(……この予約なんか変なんだよな。名前も連絡先も書いてなくて。人数と部屋番号だけが書いてある)
予約表を見ながらうーんと唸る。
そんなふうに考えていた時、ちょうど扉が開いた。
(笑顔、笑顔)
心の中で唱える。幼ない頃あれだけ馬鹿みたいに笑っていた俺は今は笑顔が苦手だ。客を出迎える時にはいつもこうやって唱えて準備をする。
正直自分でどんな顔をしているのかわからないまま振り返る。
「いらっしゃいま…………」
しかし、皆まで言えず固まった。
「……あ、いっくん」
目の前にいたのはまさかの七星。それからその後ろには。
「五時半に予約してるんですけど〜」
にやにや笑いながら明がいた。
(やられた!)
しかもそれだけじゃなかった。
ひたすらスタッフとして接し退勤時間になったらさっさと帰ろう、そう思っていた。
「樹くん上がっていいよ」
「え? まだ九時ですよ」
俺は店長の言葉を訝しく思った。俺の退勤時間は十時だ。まだ客もいるし、片付けもある。
「あ、二階三号室寄って行って」
「えっ」
二階三号室といえば七星たちのいる部屋だ。
「どういうことです?」
「ごめんね〜樹くんの一時間分の時給、明持ちで頼まれちゃったんだ〜」
顔の前で両手を合わせながら、明と同じような口調で言う。
(やられたっ。くそっカナの奴)
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