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エピソード11−② 

 店長は明の叔父で、ここ『BITTER SWEET』のバイトを紹介してくれたのも明だ。長いつき合いだが明の詳しい家庭環境を実は知らない。それでも実の親よりも店長のことを慕っているのはわかる。そして店長も明のことを息子か弟のように思っていることも。  明のにやにや顔が浮かぶ。  俺はちっと軽く舌打ちをすると「お疲れっしたー」と言って更衣室に向かった。  俺は一時間自棄のように飲み食いして、ついでに明の誕生日を祝ってやった。十時で終了し、今度こそ自転車で……と思ったら。  七星が一人じゃ危ないから一緒にバスで帰れと明が言うのだ。 「男だから平気だろ」  あっさり俺が答えると、心なしか七星の顔が悲しげに見えた。  それに追い打ちをかけて。 「何言ってんの。今時は男のコも危ないんだよぉ。特にななちゃんみたいな可愛くて、弱々しそうな感じのコは」 (どういう意味で危ないって言ってんだ)  明が言っている意味はともかくとして、確かにバス停から家まで灯りは余りなく、治安は悪い方ではないが世の中何が起きるかわからない。 (万が一あとで後悔するようなことが起きたら……) 「んー……わかった」  俺がそう言うとそれはそれで七星は複雑な顔をした。 (嫌だったのか?)  バス停に向かう間もバスを待っている間も何も喋らず、七星はずっと俺の後ろに立っていた。やっぱり一緒に帰るのが嫌だったんじゃないかと思うと、ちりっと胸が焼けるような気がした。  バスに乗り込み俺がわざわざ二人席に座ったというのに、七星は通路を挟んだ隣の席に座ろうとした。さすがにそれにはかっとなった。 「なんでそっち」  つい吐き捨てるように言うと七星の腕を引っ張って自分の横に座らせた。勢いでお互いの頭ががつんとぶつかり、そこで俺ははっとする。 (また、やりすぎた)  気不味くなって窓の外に顔を向けた。 「……ごめんね」  小さい声で謝る七星。 「……平気」 (ナナは悪くないのに……)  自分が情けなくなる。  それでも、触れ合う部分に七星の温かさを感じて、こんな俺を許してくれてるような気になって…………。 「……いっくん、いっくん。もう着くよ」  七星の声が遠くから聞こえるような気がした。 (ナナ……何処に……)  そこで意識が浮上した。 (あ、そうだ。俺、七星とバスに……)  ものすごく近くに七星の顔があり、自分が七星の肩に凭れかかって寝ていたことに気づく。 「わっごめんっ」  慌てて離れても心臓が煩い。俺は照れ隠しに自分の髪を弄った。  バスを降りると、雪……。  七星の冷たい手を握り足早に歩く。  まさかこんな状況になるとは。 (でも……) (これは、クリスマスプレゼントじゃなかろうか。ナナとまたこんなふうに……例え、今だけだとしても) (絶対彼奴には言わないが。カナに感謝だな)  俺は暗い道を急いで歩きながらも、この道が何処までも続けばいいのにと思った。     
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