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エピソード12−②

「お客様? 何? 同伴か」  店長はどうでもよいことを言った。 「どうは……?」  七星の反応を見るとどうやら何のことかわからないらしい。 (わからなくていい!!)  しかし店長には言葉に気をつけて貰わねば。 「高校生に言う言葉か」  俺は吐き捨てるように言った。普通だったら店長にこんな口の利き方をしたらクビにだってされかねない。俺がこんなふうに言えるのも彼が明の叔父だからだ。そして店長は明に顔もなんとなく似ているが、性格はそれ以上によく似ているのだ。こんな口の利き方をしても全く気にしないというのはわかっている。  俺はとりあえず両隣に誰もいないカウンターに座らせた。 (誰かに話しかけられでもしたら困るからな)  自分は上着と買ってきた品物を置きに行く為この場を離れなくてはならない。  七星と店長を見比べて。 (こっちも心配だな、なにしろカナの叔父さんだからなっ) 「ナナ――店長には気をつけて。カナの叔父さんだから」  七星にしか聞こえないような声で忠告した。  その意味が七星にわかったかどうかは不明ではあるが。  七星に俺の忠告が通じていないことがわかった。二人はカウンター越しに何か話をしているようだった。 (いや、ナナは悪くない! 店長が強引に話し掛けてるだけだろ。ナナが自分から初めて会う人間に話し掛ける筈ない――なんか、カナの時を思い出すなぁ。彼奴も強引に話し掛けに行ってたっけ)  しかし見ていると笑い合っている。七星も別に作った笑顔とかではなく自然に微笑んでいるという感じで、俺はもやっとした。  小走りに二人に近づいた。 「何やってんすか。ナナ、相手にしなくていいから」 「樹くん、ひどいっ」なんていう店長の言葉には答えず「手ぇ出さないでくださいよ」とはっきり牽制した。 「何言ってるの? いっくん」  七星は本当に何もわかっていないようだ。わからないならわからないほうがいい。  (いいんだ、ナナはそのままで。昔のままの……俺のナナで……)  また欲が出そうになった自分に嫌気が差し、ついぴしゃりと言ってしまった。 「ナナはわからなくていい」  嫌な思いをさせてしまったかも知れない。  その詫び、というのは言い訳で本当はもう少しナナと一緒にいたかったのかも知れない。  恐らく帰ろうと立ち上がり掛けた七星を引き止めた。自分が退勤する時間まで待たせ「一緒に帰ろう」と言った。  七星は酷く驚いた顔をしたが返事がなく、俺は急に不安になった。 (やっぱり……俺といるのは……嫌とか……?) 「つっても、駅までだけど……嫌か?」  俺らしくもない弱々しい声音だ。七星の表情を伺う。 (やだって言われたら立ち直れねぇなぁ……)  七星は慌てたように首を横に振った。 「ううん。嬉しい」  満面の笑み。  どきんと心臓が波打つ。 (またそんな可愛い顔すんなよ)  そんな気持ちが顔に出ないようにきゅっと引き締めて、視線を反らした。  ただ黙って歩いているだけだったけど。  この道がずっと続けばいいと思った。  しかし駅まではそう遠くはない。少し先に駅が見えて来た時、俺は心の中で溜息を吐いた。 (今日バスで来れば良かった……)      

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