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第25話 メタモルフォーゼ
ほどなくして、いちばん気持ちいいコマンドをねだってくる。ナカはチョコを足さずとも滑りがよく、真王の絶頂が近いのが察された。
夕夜も、そのおねだりを待っていた。
真王に尽くされ尽くすのが何よりの悦びだ。
「ちゃんとぜんぶおれんとこに持ってきたら、飲み干して、褒めてやる。『来い 』」
「ん、俺、夕夜さんにはいい子だから、できるよ。召し上がれ……っ!」
真王が啼き叫び、最奥で果てる。
夕夜の本能の下に馳せ参じ、温かくいやらしい夕夜のための一杯を差し出す。そのグラスには底がない。
「ふ、あああぁ、っ、美味い……」
夕夜はつま先を反らし、断続的に痙攣した。噎せ返るほどの幸福に浸る。
これまで、自分の中で男が達しても「支配された」と悦びきれなかった。しかし今、「一滴残さずおれが受け止めた」という独占欲が満たされる。
プレイで、気持ちよくなれた。
「すげえ、『よかった 』」
甘い涙の跡の残る顔に頬擦りして、労う。くたくただが、このままずっと深いところでつながっていたい。
「俺も褒められながらすんの良過ぎて、中出ししちゃった。精液もチョコも、流そ」
「破れ鍋だから、平気だ」
「いや腹痛くなるって」
真王は夕夜の望みを知ってか知らずか、性器を抜かずに夕夜を抱え上げた。
よろめく素振りもなく、浴室へ移動する。
「待て 」とコマンドを出しても、たぶん効かない。ダイナミクスが満たされてパラメータ値が安定し、サブに戻った感覚がある。
「サブってこんな感じなんだな。コマンド出される側経験したし、次はスイッチなしのプレイもうまくできる気がするわ。普段ドムの俺でもサブスペース入れただろ、夕夜さんにもあの気持ちよさ味わわせてあげたい」
真王もドムに戻ったのだろう。気の早い話をしながら、夕夜を浴槽の縁に下ろす。
「ぁ、」
名残惜しくも結合が解けた。
とぷりと、後腔から甘い白濁が流れ出る。その感触にまだ敏感な身体が反応し、熱っぽい息を吐く。
「……もっかいしてえ」
真王がシャワーヘッドをゴトッと落とした。夕夜が素直だと気味が悪いか?
「しよ。しよう。プレイ? セックス? 俺、ドムでもサブでも夕夜さんのパートナーになるわ。夕夜さんはどっちがいい?」
かと思うと、上擦った声で問われた。
夕夜は体力回復も兼ねて思案する。
コマンドを使って、支配し支配されるのではなく、愛し愛されたいという欲求を満たし合うのがプレイだと知った。
ふつうのサブなら、「このドム限定でサブらしくできる」のが運命と言える。
でもスイッチの夕夜にとっては、スイッチできて、どちらのパラメータも満たせる――まるごと愛し合える男こそが運命の相手だ。
プレイしたくてスイッチできた。スイッチできたから、戻ってもプレイできる。
愛されているから愛することを許される。愛しているから愛を受け入れられる。
また褒め倒すのもいいし、彼限定で素直になってやる気もある。
両方、叶えられる。そんな運命のパートナーが、目の前にいる。
自主的に「待て」する真王に、妖艶に笑いかける。わかりきっている答えを告げた。
「真王がいい」
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