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第24話 good night

 真王がうっとり目を細める。 「そう、らしい」  はじめて感じる気持ちよさに、戦慄く。  これはセックスにはない。プレイを通して精神にも性感帯を刻まれているかのようだ。 「いいこと知った。いっぱい褒めさせてあげるから、コマンドちょうだい」  真王の昂揚した顔に「愛させて」と書いてある。夕夜も「この男こそ」と思って許す。 「てめえの愛、『くれてみろ(present)』」 「任せて。俺じゃないとだめにしてあげる」  真王が腰を引く。結合部に隙間ができるのをさみしいと思う暇もなく、どちゅっと突き上げられた。  身体が満たされる。 「言う、じゃ……ぁ、ねえ、か」  お仕置きの反動か、真王の腰つきは容赦ない。上反りした性器で、腹側の性感帯も奥のくびれもまとめて擦られる。  夕夜は悶えて暴れてファウンテンタワーを倒さないよう、真王の首にしがみついた。 「……いい、とこ、当たる、っ」  夕夜が耳元で漏らす声が、そのままご褒美になっているのだろう。真王は悦んで尻尾を振るみたいに、ますます腰を振りたくる。 「そ、『当たり』だから。やっと見つけた。俺の愛を美味しく食ってくれる人。あのときあっためてくれて、ありがと……」 「見つけたは、こっちの、台詞だ」  最初の触れ合いの感触だけは憶えている様子の真王と、目が合う。二度と逸らさない誓いとして、微笑み合う。  心も満たされる。  手加減なしの愛をぶつけられると、無性に嬉しい。とめどない快楽が全身を駆け巡る。 「ね、美味いっしょ」  真王は横に手を伸ばしてチョコを掬い、夕夜の赤い唇に滴らせた。ぱくりと齧りつく。  夕夜も貪り返す。真王はチョコ以上に甘い。煙草では味わえない、本物の甘さだ。  ただ甘いのではなく、どこまでも甘い。  ハードでないとプレイじゃないというなら、特大の愛を隙間なくひっきりなしに、まっすぐ自分にのみ向けさせるのも、結構な暴虐だ。  夕夜の求めに忠実に応える真王に、ぞくぞくする。 「……はぁ、『もっと(more)』」  真王はそのコマンドを待っていたとばかりに動き方を変えた。奥を捏ねるように骨盤を蠢かす。  いつものローションより粘度の高いチョコが、どちゅぱちゅっと大きな音を生む。真王の鍛えた腹筋に夕夜の性器が擦られる。内外からの刺激に歓喜の悲鳴を上げた。 「あ、ぁ、止まるな……~っ」  真王が律動しながら、満足げに笑う。 「プレイでコマンド出すのは()れるほうって思い込んでたけど、抱くことでもコマンドに応えられんだな……。俺、生まれてはじめてプレイ愉しいって思ってる。夕夜さんは?」 「挿れてて、わから、ねえか?」  夕夜は踵で真王の尻を蹴った。  途端、内壁がきゅうきゅう収縮して、気を失いかける。蹴った振動が性感に変換されたせいじゃない。  脳イキ、いやパラメータイキだ。 「わかるよ。あんたが俺のちんこ好きなだけじゃなくて、一緒に愉しんでるからこうなってるって。コマンド出すの気持ちよさそうで、よかった。俺、特別なスイッチで、よかった……」  真王の性器も、普段より強く脈打っている。  特殊な道具や行為を繰り出さないといつものセックスみたいだが、ちゃんとプレイだ。  冬の夜に裸にもかかわらず滲む汗を拭う。 「[Good Knight(おれのいい子)]。愉しませてやるから、『愉しませてみな(attract)』」  望むようにさせると、胸が躍る。褒めると感じる。  ダイナミクスも、満たされる。  身体の快楽に精神の充足が上乗せされて、死ぬほど心地いい。  真王がコートでなく身体で覆い被さってきて、夕夜をもっと熱くさせる。絶えず揺さぶられ、背中の作業台も冷たく感じない。 「あ、ぁ、……あっ、真王……まおっ」  もはや名前を呼ぶしかできなくなる。  一方の真王は恍惚とした表情で、そんな夕夜の痴態を見つめている。 「なあ、これ、サブスペースってやつ?」 「さあな……おれは入ったこと、ねえ、」 「パートナーに……夕夜さんに、まるごと愛されてるって感じ、だよ」 「自分とおれしか感じねえなら、そうだろ」 「へへ。んじゃそういうことにしよ。おわ待って?」  「俺の女王サマ大好き」と書いてある頬に、ほろりと涙が伝った。  大きな目に、欲情と崇愛と歓びの涙がとめどなく溢れる。涙も大粒で、甘い匂いがした。  眉じりはやはりへんにゃり下がっていて何でも許してやりたくなるし、しゃくりあげる唇には噛みつきたくなる。泣いているのに雄っぽい。  こんな泣き顔ができる男は、真王しかいない。 「止まんないんだけど」  真王はばつが悪そうにする。  でも夕夜には、彼が寂しいのでも苦しいのでもやるせないのでもないとちゃんと伝わっている。 「満たされてんだろ。出しっぱなしにしとけ。……ただし、そのそそる泣き顔は、おれの前だけにしろ」 「それも、コマンド?」  夕夜は返事代わりに、真王の涙をぺろりと舐め取った。  もう「泣いてない」とは言わせない。存分に泣いて啼けばいい。  一度は生きる世界が違うと思ったのに、同じ世界どころか、ふたりだけの世界(スペース)にいる。  ふたりだからできるプレイに没頭した。まだ愛させてくれる? もっと愛していい? と真王が伺いを立てては、夕夜が許す。夕夜がどこまでも誰よりも愛してみせろと挑発する度、真王が応える。 「ひゃ、う、こんなの、知らねえ……」 「夕夜さんも、声、慎まなくていーよ」  真王は夕夜の嬌声によって力を補充するかのようだ。「attract」のコマンドに忠実に腰を遣い、夕夜の身体も精神もダイナミクスも満たす。 「……ね、一緒に、イいきたい」

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