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第6話※
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今まで、相神の前でここまで素直になったことはなかった。だから素直に答えてしまっている自分がなんとなく気恥ずかしくて、蓮は思わず視線を逸らしてしまう。だが腕を掴まれ、引かれたかと思うと、相神のその広い胸の中にいた。鼻を擽る、春のような柔らかな匂いに満たされる。こんなにも近くで相神の匂いに包まれ、思わず幸せってこんな気分のことを言うのだろうと感じた。
「うわっ」
そんな気分に浸っていると、抱きしめられたままの状態で抱えられる。何をされるのかと蓮は当惑した。
「ちょ、え!?」
横向きに抱え直され、まるで女の子のような扱いに顔が赤くなっていく。
「先輩?」
顔を見やるが、相神の平素と変わりを見せない表情からはその意図は汲み取れず、無言のままソファへと降ろされた。そのまま覆いかぶさるように押し倒され、蓮はそこでやっと悟った。
この先を望まれている。あぁ、このままこの男に抱かれるのだ、と。
鋭い目つきに喰われてしまうのではないかという錯覚まで覚えてしまうほど猛々しい男。
両腕を掴まれ、押さえ込まれたまま一気に顔が近づいたと思った瞬間唇が触れ、息まで呑まれそうなほど激しいキスだ。その唇がゆっくり口から頬、頬から耳へと移動し、刺激する。初めて触れられ、恥ずかしいような擽ったいような感覚に襲われる。
「ん…っ」
相神の舌が耳の穴に触れ、熱い息がかかった。くちゅ…と脳に直接響くような刺激から逃げるように首を竦ませるが、全く逃げられていない。
「やっ…ぁ」
味わったことのない感覚に、整ったはずの息が徐々に乱れ始める。耳たぶを食まれ、まるで挿入を思わせるかのように舌が穴の中へ出入りした。その度にくちゅっくちゅっと湿った音が耳を犯す。かと思えば耳介に軽く歯を立てられ、ぞくりと粟立った。
どれくらい経っただろうか。満足したように耳への刺激が終わったかと思うと、唇はそのまま首を伝っていく。ちゅっと吸い付くように触れたかと思うと、撫でるように舌先が這う。掴まれた腕が放されたことに気づかないほど、蓮は相神の触れる愛撫全てに感じていた。
相神がどういう思いでこんな行動を取ったのか分からないが、蓮は今この瞬間、相神の全てを感じていたかった。何も考えず、ただ夢中でいたかった。
いつの間にか解かれたネクタイと外されたシャツのボタン。そこに隠されていた華奢な上半身が相神の手により肌蹴られ、その眼前に晒されている。鎖骨に触れ、食むような愛撫。
「あ…んっ」
思わず漏れる平素と違う声に蓮は羞恥を覚え、それを隠すように手で口を押さえた。しかしそれを見た相神は悪戯な笑みを浮かべると、噛んだり舐めたりを繰り返し、そこを何度も強く吸った。そんなところで快感を得るなど思ってなかった蓮は、唯々、驚きでその快感に流されまいと耐える。
暫くして満足したのか、相神が顔を上げ笑みを見せる。初めて見るその妖艶な笑みに、蓮の体はカァッと熱くなった。ちゅっと軽く唇に触れると、胸元に相神の顔が沈んでいく。
「あっ」
立ち上がり始めた胸の突起を摘まれると、それだけで声が漏れてしまう。先端を摘んでは離し、摘んでは離しを繰り返されると、そこは硬くしこり始めた。
「勃ってる」
自分の体がどんな状態になっているのか言葉で伝えられ、あまりの羞恥に堪らず赤面してしまう。まさか、言葉にされることがこんな恥ずかしいとは思ってもみなかった。
「やだっ」
「何が? 気持ちいいくせに…」
ギュッと押しつぶし、コリコリと捏ねるように刺激したかと思うと、労わるように舌でチロチロと舐めてくる。
「ぁっ…や、……ん」
少しずつ理性を奪うかのような刺激に、せめて声だけは漏らさぬようにと必死に口を押さえるが、耐え切れない快感に、確実に蓮の理性は飲まれていく。
「あ…」
相神の手がそっと確かめるようにズボンの上から蓮のものへと触れた。その感覚に体がビクリとなるが、そこは確実に主張していて、見なくても己のそれが勃起していることが分かった。いつから勃っていたかなんてハッキリしたことはもう分からない。だが、相神にキスされた時には反応したようにそこが熱かった。
ベルトを外され、チャックがジーッと音を立てる。寛げられ、取り出された自身の先端は既に湿り気を帯びていた。独特の臭いが鼻につく。
「ふ…んぁ」
直に触れられると喜ぶようにピクッと揺れ、包み込むように握り上下に擦られるとジワリと先端から蜜が溢れた。それを掬うように相神の舌が伸びる。
「ひゃっ…や、ぁんんっ」
その舌の感触が強い刺激となり、声が溢れ出る。
「もっと声出せ」
相神の息は荒々しく、声も艶かしくて、その顔が見えなくても興奮しているのが伝わってくる。竿全体を舌が這い回り、少し被っている皮を捲るように指が動きだしたかと思うと、現れた亀頭を舌先で小刻みに刺激し始めた。
「や、ダメ! むいちゃ、やっ」
初めはそっと優しく、触れるか触れないか際どく、もどかしささえ感じるような刺激だったが、徐々にツンツンと舌先で突くような刺激に変わり、舌全体で舐め上げ始める。残っていた先端の皮を舌先で優しく剥かれると、ただでさえ敏感な部分に与えられる刺激が一気に背筋を駆け上がった。
「あぁ! やぁ! せんぱっ、止めて! 止めて、それ……っ」
そんな蓮の様子を見てニヤリと笑ったかと思うと、相神はその敏感な先端を銜え込んだ。そして先端にある窪みに舌先を潜り込ませ、まるでそこを捲ろうとするように動かし始める。
「だ、めっ、だめ! そんなにしたら……っめくっちゃ、だめっ! 入っちゃ、やぁ」
途端、今度は抉るように舌先を侵入させた。ねっとりとした口内に包まれ、先端からは留まることなく先走りの液が溢れている。相神の口からは止むことなくぬちゃねちゃと濡れた音が漏れていた。荒い息を吐くたび、その音が耳を犯す。
「やぁ! だめ……でるっ…も、でるっ……う…ぁあ」
同時に蓮が溢した液と相神の唾液により濡れた竿の部分を擦られ、今まで感じたことのない刺激に、あっと言う間に蓮は達してしまった。
「ぁっはあ…んん、はぁ」
射精の余韻に息を弾ませる。出してしまった開放感に呆然と頭が働かない。ふと腹部に視線を向けるが、そこは濡れた痕跡はなく、ズボンや下着にもかかった跡はない。どうして、と考える間もなく射精の瞬間まで相神に刺激されていたことを思い出し、慌てて相神を見やると、僅かだがその口端に白い液体が付いていた。
「ま…ちょ、そんな……の、飲んだんですか!?」
行き着いた答えのあまりの衝撃に蓮は唖然となった。相神が、不味いな、と呟いたことで頭が真っ白になっていく。気絶した方がマシだと思えるほどの羞恥心に襲われたが、そう簡単に意識は飛んでくれない。
「気絶なんてすんなよ。まだ終わりじゃねぇ」
そう言って不遜に微笑んだ相神は、蓮のズボンと下着を床に落とすと、その奥まった場所にある蕾へと指を這わせていく。
「え? あ、そこはっ」
相神が今から何をしようとしているのか察し、蓮は慌てて制するようにその手を掴んだ。しかし、それは何の制止にもならず、指はなぞるように動いたり、中に入ろうと蕾を押したりしている。
「何だ、駄目なのか?」
どうなんだ、と問い詰めるようなその瞳に、蓮は言いたかったはずの言葉を発せず、飲み込むように黙ってしまった。
「駄目と言うか…」
「何だ、もうナツとヤッたあとか」
「なっ!? そんなわけないじゃないですか!」
蔑むような相神の言葉に、蓮は思わず顔を上げ、声を荒げてしまう。
こんな状況でどうしてこの男はそんなことが言えるのか。ナツは何も関係ないと話したばかりなのに…。
信じてもらえないことが悔しくて涙が溢れてきた。
「っ本当に相神だけ…信じてよ」
溢れた涙はあっと言う間に蓮の頬を伝っていく。
相神だけが好きだ。
相神だけが欲しい。
相神とだけセックスしたい。
蓮は必死にそう訴えた。
「…わかってる」
相神にギュッと抱きしめられ、蓮は胸が苦しくなった。
なんて意地悪なんだろう。でも……それでも、本当にこの人が好きだ。この気持ちは、偽れそうもない。
心の底からそう感じた。
相神が己の指を一本口に含み、舐め上げる。その艶めかしい様子を、蓮は無意識ながら、物欲しそうに見つめた。
「あ……くっ…っ」
唾液でしっとりと濡れた指先。それが蕾に宛がわれ、ゆっくりと入ってくる。その感覚にえもいわれぬ何かを感じるが、それが何なのか分からない。快感なのか、不快感なのか、それすら曖昧だった。中を擦るような動きと異物感に何とか耐えようと、ギュッと目を閉じた。異物感に耐えようとすればするほど中を意識してしまい、動くたびギュッギュッと指を締め付けてしまう。慣れない感覚に息も徐々に上がり、胸が苦しい。喘ぐように息を吐くと、ちゅっと相神の唇が触れた。その労わるような口付けに涙がこぼれる。
「はぁ…はぁ…」
大きく息を吐くと中の違和感が幾分か楽になる。それを図ったかのように相神が指を増やした。一体どれくらいの時間が経ったのだろう。慣らす行為がこんなにも時間がかかるとは思ってもいなかった。
何度も何度も内壁を指が擦っていく。なかなか慣れない感覚に、蓮は自分の体が段々恨めしく思え始めた。今漸く二本の指を受け入れることが出来ている。あとどれだけ時間をかければ相神自身を受け入れられるのだろう。熱で惚けた頭にそんなことばかり浮かんできた。
「ああっ…やっ」
一瞬、グッと突かれた内部から全身に痺れるような快感が走っていく。思いがけないほどの気持ち良さに、堪らず蓮の口から嬌声が漏れた。漏らすつもりのない声が、開いた口から言葉にならない言葉で快感を伝える。その蓮の嬌声に相神が嬉しそうに口端を上げ、今しがた突いた場所を再び突いてきた。
「やっ…あ、あ、あぁ…だめ、そこっ……ダメっ」
続けざまに与えられる刺激に耐え切れないほどの快感が全身を襲い、まるで自分の体じゃないようで怖くなった。自分じゃどうすることも出来ない感覚に流されそうになり、縋るように相神の腕を掴む。
喜々とした表情を見せる相神は、それでいてどこかいやらしさが見て取れて、早くこの男が欲しいと蓮は思った。
「っも…や、せんぱっぃ……いれ、てぇ」
蓮は甘えるような声で相神が欲しいと強請った。それに相神が口付けで答える。一気に指が抜かれると、相神自身が宛がわれ、その凶暴な熱を孕んだ先端が侵入してくる。その熱さに身体の内側から溶かされてしまうような錯覚を覚えた。
「っ……く、ぁ」
指とは全く異なる太さに身体が裂かれるような痛みに襲われ、それでも尚侵入を図る熱に全身が強張っていく。
「れ…んっ」
その声に呼ばれるように相神を見上げれば、そこには熱に浮かされ、顔を歪める相神の顔。その切羽詰ったような顔と声に、今相神自身が入ってきているのだと、受け入れているのだと感じ、蓮は嬉しさに涙が溢れた。この痛みこそ、相神を受け入れている証拠なのだと。次々とこぼれ始めた涙は、止めることが出来ない。
いつからこんなに泣き虫になったのだろうか。
「蓮…大丈夫か?」
初めて呼ばれる名前に胸の奥がドクッと脈打つ。甘く掠れた声に名前を呼ばれ、頭の中が溶けていくような錯覚を覚えた。心地よい声色と耳にかかる息。名前を呼ばれることがこんなにも特別に想えるのだと初めて知った。
「…んで…呼んで……名前、もっと」
もっと、もっと、その名前を呼んで欲しかった。名前を呼ばれることで更に相神に近づくことが出来る気がして、蓮は嬉しかった。
「蓮……蓮っ」
名前を呼びながら相神が更に奥へ入ってくる。
「ああっ!」
一気に熱が突きあがってきた。途端、相神の下腹部が開かれた蓮の局部へと触れ、その感触に、これ以上ないくらい相神の全てが入ったのだと感じた。蓮は、相神の全てを受け入れることが出来て嬉しかった。相神に愛されているようで嬉しかった。
指が中を押し広げていた時と同じように蓮は大きく息を吐く。
「んんっ……ぁ…はぁ……おっき、い」
自分の意思に関係なくきゅっきゅっと窄まり、尚も誘い込むように蠢く蕾がゆっくりと、だが確実に蓮の身体に快感をもたらし始めた。
「あ、はぁ…っあ」
無意識に漏れる吐息をそのままに、蓮はその濡れた瞳で相神を見上げた。途端、艶めく顔を見せた相神が顔中に口付けを降らせる。その動作に蓮の中の相神への愛しさが増した。
「動くぞ」
拒否することを許さぬ口調で相神が言い放つが、今の蓮に拒否する気など毛頭ない。今の、というよりも、初めからそんな気が起こるはずがなかった。蓮は純粋に、今まで感じたことのない相神の熱をもっと感じたかった。
「っ……ぁん」
ゆっくりと中に納まった相神が動きだし、内壁を刺激し始める。抜かれる瞬間、内臓ごと持っていかれそうな感覚に、思わず蕾に力が入った。
「っ…きつっ」
相神の顔が苦痛で歪む。だが、その蕾を緩められるほど蓮に余裕はなく、歯を食いしばり、その感覚をひたすら耐えた。
緩やかに動き始めた熱を持った肉棒は、その存在をありありと主張するように脈打ち、蓮の蕾を限界まで開かせるほどの太さで内壁を擦っていく。出ては入り、入っては出る。
今まで暴かれたことのない蕾の奥が、熱に溶かされ、擦られ、その形を覚えようと絡みつく。
限界まで開かれた蕾はジクジクと熱を持ったように疼いた。
「はぁ、はぁ……あ…さが、みっ」
何度も何度も注挿を繰り返され、痛みはいつの間にか違う感覚へと摩り替わり、その声にも甘さが増した。徐々に動きも激しくなっていく。その激しい相神の動きに着いていけず、蓮は何かに掴まろうと必死に腕を彷徨わせた。空を掻く蓮の腕。その腕を相神に掴まれ、その広い背中へと回される。それはまるで、しがみ付いていろ、と言っているようで。相神がどんな表情をしているのか、涙で滲んだ視界では分からなかったが、蓮は必死にしがみ付き、激しい揺れと刺激に意識を持っていかれないよう必死に耐えた。
相神の動きに合わせるかのように蓮の腰も揺れ、その細くしなやかな足は相神の腰へとまとわり付くように絡まっている。相神のものが蓮の奥をより一層抉るように穿った。
「はぁ…ぁっ……ああ」
涙と共にこぼれる蓮の嬌声。
「っく…」
何度か早い注挿を繰り返した後、蓮の中で何かが弾けた。熱いものがじんわりと中を侵食する。それを感じると蓮は満足したように意識を手放した。
「…きだ」
意識を手放す直前、耳元で荒い息と共に相神の掠れた声が聞こえた気がした。
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