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第14話

14 「本当は、僕だって不安なんですよ」  口を尖らせながら、拗ねたような口調で蓮が呟いた。 「不安な奴があんな好き好き言ってくるかよ」 「本当ですって…全く、猜疑心の塊みたいな人ですねぇ」  蓮はわざとらしく溜息を漏らす。 「何事にも慎重なだけだ」 「はいはい、そうですね。石橋を鋼鉄のハンマーで叩いて渡らないと安心出来ないような性格ですもんね」 「お前は生まれながらの八方美人だろ」 「でも、好きなのは先輩だけですよ」 「っ」  瞬間、相神の顔が赤くなる。何気ない言い争いの中で呟く本音が、こんなにも甘く聞こえるものなのかと、言った蓮自身すら赤面した。 「僕の名前、ハスって字なんですけど、ハスの花言葉って知ってます?」  恥ずかしさを追いやるように一度コホンと咳を吐き、話を戻す。 「確か……雄弁とか清らかな心、だろ?」  昔読んだ本でも思い出しているのか、視線を上に向けながら相神は答えた。 「それもあるんですけど…離れゆく愛って言葉もあるんですよ……だから、いつか先輩が離れて行っちゃうんじゃないかって」  不安なんだと蓮は話した。相神じゃなくても不安に感じるんだと。 「俺は…猜疑心も強いが、執着心も独占欲も強いんだ。離せって言っても誰が離してやるもんか。やっと、俺だけのモノだって分かったのに」  不安を抱えて擦れ違ってしまったが、今はこうして一緒にいることが出来るんだと、不安に思うことはないんだと言い聞かせるように、お互いを抱きしめる。二人の間には目には見えなくても確りとした愛情があるのだと。 「独占欲は男の本能だろ?」  相神が口角を上げながら不遜気味に笑う。 「そうなんですか?」  聞いたことがないと言うように蓮は眉を顰め、首を傾げた。相神が何か企んでいる気がして仕方がない。 「性欲も男の本能だ」  そう言いながら相神の手が臀部を這う。止める間も無く、ツプッと指が侵入し、掻き回すように中で動き回る。グイグイと内壁を刺激される感覚に、蓮は嫌でも反応しそうになる。 「や…っも、無理ぃっ」  力ない抵抗に、するりと呆気なく指が出て行く。同時に中からとろりとした液体が漏れ出た。 「流石に慣れてない身体にそう何度もやんねぇよ。俺のを出しただけ」  その言葉に相神の精液が中に出されていたことを思い出した。そんなこと一つを嬉しく感じ、掻き出されてしまったことを残念に思ってしまう。  こんなことで一喜一憂する自分もまた、末期だとしか思えない。  濡れた指先を相神がティッシュで拭おうとするのを制し、蓮はその指に舌を這わせ、舐め取っていく。それを相神は驚きながらも、口端を上げ見ていた。 「やっぱ、エロいな」  そのまま相神の唇へと口付ける。 「僕、本当は、先輩は梨那が好きなんじゃないかって思ってて…何で女に生まれなかったんだろうって悩んでたんです……でも、僕に生まれて良かった」  蓮は純粋にそう思うことが出来た。相神の気持ちが分かったからこそ、そう思えた。 「お前はお前で良いんだよ……お前こそ、本当に兎川とは何もないんだな?」  ポンと頭の上に相神の大きな手が乗せられる。ゆっくりした動作のそれが心地いい。 「ないです。先輩だけ…ナツにも、ちゃんと言いました」 「そっか…」  そう言いながら、相神は頭を撫で続けてくれる。 「そういえば…尋は僕のどこを好きになってくれたんですか?」  そんな甘い雰囲気の中、蓮は疑問に感じていたことを口にした。 「反抗的なところ?」 「は?」  だがそんな予想もしていなかった答えに、蓮は思わず呆気に取られる。 「あ、セックスの時だけ素直になるところなんかは可愛いな」  開いた口が塞がらないとはこのことか、と蓮は身を持って感じた。 「ちょ、先輩なんてムッツリじゃないですかっ!」 「俺は相手がお前だからエロいんだよ…てか、俺に話しかけてくる物好きなんかいなかったからなぁ…俺にここまで愛情くれる奴なんて、お前くらいだよ」  蓮は慌てて憎まれ口を叩くが、そんな憎まれ口も相神が漏らす本音の前じゃ子どもの口喧嘩よりも幼いものに思える。 「先輩…素直だと、何だか気持ち悪いですね」  嬉しいはずなのに素直にそう言われると恥ずかしくて、蓮は軽口を返した。 「何だとっ」 「冗談です」  相神の言葉に愛おしさが増していく。これ以上ないくらい好きだと思っていたのに、上限なく愛しさが増していく。積もっていく。  大事にしたい。もっと、もっと一緒にいたい。 「ありがとう、尋…」  不安で、不安で…それでもやっぱり好きで、大好きで、だから信じたくて。それでも怖くて、向き合えなくて、逃げて、傷つけて…傷ついた。  遠回りしたけれど、やっと手に入れた。  世界で一番愛しい君へ。  これからもずっと、ずっと……。

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