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第13話 ※

13  相神に手を引かれるまま、蓮は相神の家を訪れた。夏に来て以来だから、どれ位振りだろうか。もうこの家を訪れることはないのだと、蓮は諦めていた。それほど親密な関係になることはないのだと。  相神に促され、部屋へと入る。前回来た時はここまで緊張していなかったように思うが、ハッキリとは思い出せない。  相神の母親に案内されるがまま通された部屋で、相神は眠っていた。あの変わらない綺麗な寝顔は、今でもハッキリと覚えている。 「相神の部屋って本しかないですね」  緊張を隠すように部屋へと視線を向ける。すると相神は部屋の奥へと移動し、そこにある襖をスッと開いた。 「ここは書庫代わりに使っている。俺の部屋はこの奥だ」  開いた襖の向こうは書庫代わりだと言うこの部屋とは違い洋室になっていて、部屋には机とベッドが置かれている。思わずベッドに目が行き、変に意識して緊張が走った。 「蓮」  呼ばれた名前に誘われるように一歩、また一歩と相神に近づく。  傍まで行くと足を止め、相神を見上げた。頭一つ離れた高さにある相神の顔。同じ男なのにここまでハッキリと身長に違いがあるのは悔しくもあったが、この大きな身体に抱きしめられる気持ち良さを知ってしまった所為か、逆にこの身長差も嬉しく感じてしまう。  相神の顔が近づき、蓮は応えるように目を閉じた。ジッと相神の顔を見つめていたのをキスの催促だと勘違いされたのかも知れない。そう思うと少し恥ずかしくなる。だが、実際相神とキスしたかったのは確かで、それ以上のことも望んでこの部屋にいるのだから、初めから誘っているのとそう変わらない。  先に相神に惚れたのは自分だし、そういう対象として見ていた。いくら可愛いと周りから言われていても、蓮だって男に変わりはないのだから性に対する欲求はそれなりにある。相神との行為を思い出し、自身を慰めもした。ただ相神に対して抱きたいではなく、抱かれたいと感じただけ。純粋に相神尋という男に抱かれたい。そう強く思った。  触れた唇から自分の欲求全てが伝わってしまえばいいのにと、夢想的なことすら考えてしまう。  触れるだけのキスが啄ばむようなキスへと変わる。薄く唇を開くとヌルッと相神の舌が侵入してきた。  お互いの舌先を突き合うように触れさせたかと思うと、歯列をなぞるように舌が這い、舌の付け根を舐められる。口内を蹂躙するように動き回った後、漸く相神の舌が糸を引きながら出て行く。口角から溢れた唾液が顎を伝い、離れる間際、相神の舌がそれを拭うように舐めていく。  蕩けたように蓮の身体から力が抜け、崩れ落ちた。寸でのところで相神に支えられ、そのままベッドへと寝かされる。二人分の体重を受けたベッドがギシリと音を立てた。  先刻の激しいキスとは打って変わって、ゆっくりとした動作で髪を梳いていく。ジッと見つめてくる瞳は既に艶めいていて、色気が漂っていた。ストイックに見える相神が自分に対して欲情している。その事実が蓮は嬉しかった。 「先輩…」 「名前、呼べよ」  欲情で掠れた声が耳を擽る。 「…ひ…尋?」  促されるまま蓮は相神の名前を口にする。初めて呼ぶ名前はなんだか擽ったい。 「名前、呼ばれるの嫌いなのかと思ってました」 「お前ならいい」  それはまるで特別だと言われているようで、蓮は思わず笑みがこぼれた。 「尋…好き」  言いながら相神の首に腕を回し、引き寄せると、近づいた相神の唇に自分のそれで触れた。  柔らかくて温かな唇。それを舌でなぞると相神の口が開き、舌を吸い込むように絡め取られた。先刻のキスとは反対に相神の口内で舌を好きなように遊ばれる。  逃げようと引いた舌を逃げられないよう軽く噛まれ、噛んだまま舌先で嬲られ、相神の口内にいるはずなのに、まるで自らの口内を侵されているような錯覚に襲われる。  飲み込みきれず溜まった唾液が頬を伝っていく。段々と舌が痺れ始めた。 「はぁ…ふ……っん」  堪らず荒い息が漏れると、名残惜しげに唇を舐め、相神が離れた。同時に大きく息を吸い込む。舌先はいまだ痺れたまま。  自らの口角を一舐めする相神の動作が艶かしい。それに触発されるように蓮の中心が熱を持った。相神に抱かれた時の感覚が蘇る。  自分と同じ男に抱かれる恥ずかしさと、好きな人と抱き合う喜び。全身を引き裂くような痛みと包まれるような安心感、そして満たされていく心。  セックスという行為が、例え拷問のように辛いものであったとしても、蓮は相神に抱かれたかった。今すぐ相神に抱かれたくなった。 「抱いて…尋、僕を抱いて」  相神の顔を両手で包む。  全て相神に捧げると誓った。  心は既に相神のモノ。 「尋、改めて僕を…僕の身体も相神のモノにして」  それだけ伝えると、然も儀式の一環であるかの如く、蓮は相神の唇に触れるだけのキスを送った。 「あっ…んはぁ……ふ…んっ…」  全身を相神の舌や指が這い回る。触れられたところ全てが性感帯にでもなったかのように蓮は相神の愛撫全てに感じていた。漏れる艶めいた声が自分のものだと分かっていても止める術が分からず、掌で覆い隠すように塞ぐ。それでも次から次へと鼻から声が漏れていく。 「聞かせろ」  相神に両腕を捕らえられ、顔の両脇へと縫いつけるように押さえつけられた。 「エロい顔」  自分が今どんな顔をしているかなんて分からない。でもそう言った相神も十分いやらしい顔をしている。 「相神の顔もヤラシイ」 「ヤラシイことしてるからな」  後孔に熱いものが触れた。触れたそこが熱に侵されていくような感覚を覚える。  これから相神のものが自分の中に入ってくるのだと思うと、期待と不安で局部がヒクヒクと蠢動する。  入ってくる瞬間広げられていく痛みと、奥まで貫かれ何度も律動する相神のものによって与えられる快感。その先に見る絶頂を考えると更に期待が高まった。 「ヒクついてる…触れただけなのに吸い付いてくるぞ。そんなにこれが欲しいのか?」  自分でも分かっていることを改めて言葉にされ、蓮は顔を赤く染めた。相神が焦らすように自身の屹立した熱で蕾を突く。 「や、言わないで…」  羞恥心に顔を逸らすと食いつく勢いで相神が首筋に吸い付いた。 「ああ…」 「お前は俺のモノだ」  吸い付いた場所を指でなぞりながら相神が呟く。きっと言い訳できないほどハッキリとした印を付けられたに違いない。嬉しそうにほくそ笑む相神の顔がそれを物語っていた。 「…うん」  蓮が頷くとヒクつく蕾に相神が入り込んできた。 「ぐ…っ……ふぁ…っう…」  痛みに身体が強張っていく。 「っ…大、丈夫…か?」  どんなに意地悪なことを言われようが、されようが、労ってくれる相神の言葉が嬉しくて、蓮は必死で笑顔を返した。繋がった嬉しさが増し、涙がこぼれていく。 「好き…尋が好き」  身体の痛みなんてどうでも良かった。確かに痛みはあるが、それも相神と繋がった証だと思うと嬉しくて仕方がなかった。  挿入途中だった相神のものが一気に押し入ってくる。 「ん、あ゛ぁ……っ」  その全てが収まると蓮は相神の背に腕を回し、抱きついた。抱きつくことでもっと相神を感じることが出来るような気がした。  ゆっくりとした動作で相神が奥を突き始める。 「あ、待って、まだ…」 「もう待てない」 「んっ…はぁ゛……っあ」  有無を言わせず最奥を突かれ、自然と声が漏れ出る。摩擦と相神の熱でそこが痛いのかどうかも分からなくなる。襞がめくれる感覚を存外気持ちよく感じ、最奥を抉じ開けるように抉られ、何とも言えないものが全身に広がっていく。 「う゛!? ぁあ゛っ」  足を抱え上げるように担がれ、中を突く角度が変わり、思わぬ嬌声が漏れる。全身に電気が走ったような、耐えられない痺れを感じた。蓮自身のものから我慢出来ずに液が溢れ出す。相神は一瞬驚いた表情をしたが、直ぐ何か悟ったように口角を上げた。 「今のとこ、良かったのか?」 「何、恥ずかしいこと言ってるんですかっ」  必死に言い返しながらも、蓮は達してしまいそうな感覚に自身をギュッと握り締めた。 「別に俺しか見てないんだからいいだろ。お前をイかせたいんだよ……目一杯な」 「ちょ、恥ずかしいこと言わないでって、や…動いちゃっ…ん…あ、はぁあ」  相神は更に、獰猛な動きで内壁を擦り上げる。単調な動きだけでなく、内部の隅々まで擦り上げるように角度を変え、早く深く突いたかと思えばゆっくりと焦らすように入り口付近を擦る。 「俺しか、見て、ないんだからっ…恥ずかしく、ないだろっ」 「や、ぁ……っ相神だから恥ずかしっ…見ちゃ、やぁ」  耐え切れない快感に、蓮は両腕を眼前でクロスさせ、顔を覆うように隠した。こんなにも感じ、乱れきった顔を相神に見せたくなかった。 「蓮」 「やっ」 「キス、したい」  そう言われ、蓮は怖ず怖ずと片腕だけ解いた。すると、チュッと唇に相神のそれが触れる。 「これだと…触れるだけだな」  触れるだけのキスしか出来ない、と相神が不満を漏らす。確かにそれだけのキスでは蓮も満足出来ないが、それでも涙に濡れ紅潮し、くしゃくしゃになっているであろう顔は見られたくない。 「蓮、キスしてたら、顔なんて見えない…かも」  そう言われ、漸く蓮は残りの腕を退け、キスを待つように目を閉じた。相神の唇が触れてきて、舌が絡まる。ゆっくりと律動も再開し、吐息に混じって喘ぎ声が漏れていく。 「ふ…っ…ん、んはぁ…ん」  上からなのか、下からなのか分からないくらい、くちゅ、ぬちゅっ、と混ざり合った濡れた粘着質な音が鼓膜を刺激する。 「ふっ…蓮、可愛い」  その掠れた声に蓮は薄っすらと目を開く。舌を絡めながら、恍惚をした蓮の顔をジッと眺める相神の瞳と交わった。 「見ないって、ぁ、約束っ」  嘘吐き、と非難するが、相神は悪びれる様子もなく口を開く。 「見ないとは言ってない。見えないかもって言ったんだ」 「や、もぅ…っ屁理屈っ!」  相神の言葉に蓮は頭を振って抗った。 「可愛い……普段もこんなに素直ならいいのになっ」  しかし、蓮のそんな抵抗すら気にも留めず、寧ろ嬉々とした表情を見せそう言うと、相神は蓮の奥をこれでもかというほど突き上げた。 「やぁああ゛あ゛っもぅっや、出るっ…イ゛クッぅ」  その後、何も言えなくなるほど中を突かれ、蓮自身にも弾くような刺激を与えられ、蓮は呆気なく果てた。飛び散る精液が腹にかかり、更に絞り出すかのように擦られ、いつまでも射精が続くような感覚に襲われる。 「はぁああ……っんゃあ」 「くっ…出すぞっ」  全身に震えが走ると同時に、中にある相神のものも弾けた。熱い液体が内壁に叩きつけられる感覚を生々しく感じる。  荒い息を吐きながら、相神の唇が触れてくる。その背に腕を回し、しがみ付くように抱きついた。 「好き…」 「あぁ…俺もだ」  二人ベッドの中で抱き合いながら、睦言を紡ぐように見つめ合う。確りと相神の腕の中に抱きしめられ、蓮はもう一度その唇に触れた。

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