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上
「ほら、展 、無理するなって。イけるイける、頑張れ頑張れ」
艶々とした、男にしてはやや長めの金髪が揺れる。展、と呼ばれた男の上にまたがり、一定の間隔で腰を上げたり落としたり。汗をかき、彼のほほに金髪がへばりつく。表情はどこか馬鹿にしたような、へらりとした笑みを浮かべていた。
「も、やぁ……しょーま、祥真 っ」
犯されているのはどちらなのか分からなくなるような、情けなくも甘ったるい声を展が上げた。息を荒げ、必死に声を抑える。
許容範囲を超えそうなほどの快感を逃すべく、ぎゅっとシーツを握っていた展だったが、その手を放し、のろのろと祥真の中心へ手を伸ばす。
やや硬度を失った彼のものを柔く握り、上下へとしごく。興奮で手が震え、うまく力が入らないが、無駄ではない。みるみる祥真のものは熱を帯び、硬さを取り戻しつつある。
祥真の余裕の笑みが崩れ始める。
「く、そっ……、あっ、ま、そこ、だ、めっ」
鈴口のあたりに指を立て、強めにいじれば、形勢は逆転する。祥真は完全に腰の動きを止め、爪を噛み、体をよじる。快感から、逃れるために。
「は、はは、祥真、さっきまでの威勢はどうしたの」
余裕を持ち始め、上体を起こした展に押し倒される。
ぐり、と奥深い場所へたどり着くよう、杭を打ち込まれた。
「や、ば、だめ、そこ、は……っ、んぅ!」
もう体を重ねた回数は数えきれないほど。祥真の弱点など、きっと展は知り尽くしている。
二、三度、深く穿つと、祥真はやや薄い精を吐き出した。
「あ、は……っ、はぁっ……」
肩を震わせながら、祥真は深呼吸して呼吸を整えようとしていた。そんなところにもう一度、強く腰を打ち付ければ、一際高い声を上げ、再び欲を吐く。
「ず、ずる……」
「あと二回だよ。ほら、頑張って」
べろ、と祥真の首筋を舐めると、大げさな程に跳ねる。かぷかぷと甘噛みをすれば、そのたびに小さな吐息を漏らした。
「んのっ……! 絶対、負けるか……!」
「僕だって、負けないよ」
互いに、相手を挑発するような笑みを浮かべる。
ことの始まりは一時間前にさかのぼる――。
□■□ □■□
「クーラー壊れたぁ?」
何のために来たのか、という言葉をすんでのところで祥真は飲み込んだ。涼みに、というのが、一人暮らしである展の部屋へと来た一番の目的だとしても、それをあけすけに言うのは駄目な気がした。遠慮ない言い合いができるとしても、恋人がただ遊びにやってきたと思っている展にそれを言うのはためらわれる。
じっとりと蒸すうなじに風を通すべく、祥真は襟足の髪を持ち上げるように、後頭部をガシガシと乱雑にかいた。
「アイスならあるよ」
「アイス、アイスねえ……」
今から大学や図書館に行って冷房環境に浸る、というのも昼間ならできたが、今はもう日が落ちかけている。今夜は熱帯夜になりそうだから、わざわざ来たというのに。
「はあ、じゃあそれでいいわ。とりあえず突っ立ってるのもあれだし、中入れて」
「うん、いらっしゃい」
展に招き入れられ、玄関へと足を踏み入れる。
――と。
「てーんー?」
扉と鍵を閉めるなり、展が背後から抱き着いてくる。くそ、こんなんだったら後ろ手で絞めとくべきだったか、と祥真は後悔するが、もう遅い。
祥真より数センチ背の高い展は、祥真の肩にぐりぐりと額を押し付けてくる。
「暑いんだけど」
「そうだね。祥真の肌とべっとりくっついて、変な気分」
変な気分、というのは言葉通りの意味ではなく、発情している、と言ったほうがよさげな状態になってしまっているのだということは、なんとなく察せられた。
普段ならばこのままキスでもしてことに及ぶのだか、いかんせん暑い。とてつもなく暑い。正直、大好きな恋人との触れ合いが不快に感じてきてしまうほどには暑い。
祥真は展の頭をわし掴むと、己が肩から引きはがした。
「今日は、ヤダ」
「なんで」
後ろを向けば、眉を垂れ下げた展がいた。しょんぼり、という言葉がとてもよく似合う表情だ。
「暑いから。お前、遅いじゃん」
遅い、というのは言わずもがな。遅漏、というやつである。
普段なら、各段気にもしないのだが、今日は別だ。このくそ暑い中、いつまでもヤっていたら頭がおかしくなりそうだ。
「僕は遅くないよ。祥真が早いんじゃない」
少しムッときたようで、顔をしかめながら展が言った。確かに祥真は早い。展が遅漏なら、祥真は早漏、といったところだろうか。
その言い草に、祥真はカチン、と来てしまう。
「はぁ? いや早くねーし。お前が遅いだけだろ」
「僕が一回出すまでに、五回は出すんじゃない?」
「いやそれはない」
「あるよ」
「ない!」
ある、ない、の言い争い。そうして、出た勝負はどちらが言い出したのか。
快感でドロドロに溶けた頭では、もう思い出せない。
展は一回、祥真は五回。先にイったほうが負けである、なんてくだらない勝負を言い出したのは、はたしてどちらだったか――。
□■□ □■□
結局、ヤる羽目になってしまった、と息を整えながら祥真は思う。
「は、ぁ……っん……ふ、ぅ」
息を整えようとしても全然整わない。だから暑い中ヤるのは嫌だったのだ、と心の中で独り言つ。暑いと、どう頑張っても快感の熱が消えない。いつまでもくすぶっていて、ほんの少しの刺激でまたすぐに火をともす。
すでに三回もイってしまった。あと二回、耐えなければ祥真の負けである。負けたほうは勝ったほうの言うことをなんでもきく、という子供っぽい条件付きだ。
どうしたものか、と考える祥真だったが、当然、展は待ってくれない。
「ひぃ、ああっ!」
ぐり、と屹立を再び動かし始める。
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