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「お、まっ……」  やめろ、と言う代わりに祥真は展の腕をつかむが、力が入らず制止の意味をなさない。  仕方なしに力なく首を横に振ってみるが、駄目だった。展は止まらない。 「祥真、無理しなくていいんだよ」  自分の番、とばかりに展が余裕そうに笑む。悔しさに顔をしかめてしまうが、しかめたところで快感が逃げていくわけでもない。  腹立たしさに、展の首に腕を伸ばし縋りつき、かぷかぷと首筋にかみつく。 「くすぐったいよ、祥真」 「くっそ……」  勝算が見つからない。  ここまで自分が快楽に弱いとは、ここまで展が我慢強かったとは、思いもしなかった。  だがしかし、ここで負けるわけにはいかないのだ。負けたほうには勝ったほうの言うことを聞かねばならないという罰ゲームが待っている。  可愛い恋人のお願いの一つや二つくらい、普段でも聞いてあげたくはあるのだが、こんな勝負の果てに得る権利でのお願いだ。絶対にろくなことではない。  とはいえ、すでに三回も果てた身では、展を押し返すほどの力はないし、先ほどのように主導権を握るほどの余裕もない。  猶予はあと二回。 「……てん」 「なあに?」 「ちゅーしようぜ」  それはほぼ投げやりと言っても過言ではない賭けだった。  展の性感帯の中で、口内がダントツの感度だ。こっちが本気を出してキスをすれば、ぐずぐずにできる自信はある。けれども、展ほどでなくとも口の中が性感帯なのはこちらも同じ。今の状況では、残り二回もあっけなく迎えてしまいそうだった。  しかし、このままうだうだしていてもきっと二度の絶頂を迎えるだろう。ならば試すのも愚策というほどではないはずだ。……はずなのだ! 「……いいよ」  少し警戒したようだったが、展は口付けてくる。  その瞬間を見計らい、祥真は展の頭を両手で抑え、舌を滑り込ませる。歯茎をなぞり、上あごの内側をなめ、展の舌を絡めとる。二人の唇の隙間から、余裕なさげな展の喘ぎが漏れる。  薄っすらと祥真が目を開けてみれば、随分と快楽におぼれている展の顔があった。 「……っん、しょ……ま、ま、て……んぐっ」  口を放し、逃げようとした展に追撃をかける。逃がしてなるものか。  展の口を攻めるのに夢中になっていると、急な下半身への刺激に、対応できなかった。  祥真の行動により、負けそうになった展が、再び動き出したのだ。キスをする体制だと体が余計に密着し、展の腹と祥真の腹の間で、祥真の熱が刺激される。すでに己が吐き出した欲のせいで、すべりもいい。くらくらとする快感に、どうにかなってしまいそうだ。 「あっ、あっ、やだ、や――っ、くぅ!」  四度目ともなれば、流石に精液の量も知れている。それでも、その量に反比例するかのように快楽は募っていく。祥真の腰は、がくがくと揺れる。  もう、どうにでもなれ、畜生め。  投げやりになった祥真は、再び展へと深く口付ける。今度はもう、放さない。  噛みつくような、おざなりで先ほどよりも乱雑なキス。けれども、陥落寸前な展をおとすには、十分だったようだ。  祥真が五度目の、最後のチャンスをなくすと同時に、腹の奥に熱が広がっていくのを感じる。展が荒く息を吐いた。力尽きた展が、のしかかってくる。つぶされるほどではないが、思い。けれどそれをはねのける余力は残っていない。 「しょ、勝負は」 「第一声が、それ、かよ……」  二人して、ぜえぜえと息を吐く。からかって笑う余裕もない。ずいぶんとがっついたセックスに、今更ながら羞恥の心がわいてくる。 「同時だろ」 「同時とか、初めてじゃない……」  言われてみれば。何度となく肌を重ねてはきたが、ここまで同時に達することはなかったように思う。  力の入らない腕を何とか持ち上げ、祥真は張り付いた己が髪をかきあげる。 「同時だし、勝者の権利はノーカンな」 「ええ……」  展は不満そうな声を上げたが、抗議する力は残っていないようだ。力なく横へと寝返りを打つだけにとどまった。  展が寝ころんだ先に顔を軽く向けながら、祥真はちなみに、と言った。 「ちなみに、お前は勝ったら何を望んだんだ」 「大学さぼって一日セックス」 「うわあ……」  負けなくてよかった、と祥真は心の奥底から思った。二時間少しの行為ですらここまで体力を消耗したのだ。一日中、とか絶対無理だわ、と心の中で呟いた。 「次は負けないよ」 「次あるのかよ」 「だって、クーラー直るの二週間かかるっていうし」  その言葉に二の句が継げなくなってしまった。  二週間。長い。割と頻繁にヤる間柄、二週間しない、というのはやや厳しい。我慢はできても、解禁した日の反動が大きそうだ。かといって、祥真の部屋には冷房器具がない。 「次は勝つからね」  自信たっぷりに言う展に、祥真は何も返せなかった。  きっと本当に、次は負けてしまうのだろうという確信が、心の隅にあったのだから。

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