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第5話 まやかし命脈コレクター②
頭の中を整理して、直桜は顔を上げた。
「あのさ、最初にマヤさんが紡いでた言葉、アレって天磐舟 って反社に関わる命脈だったりする?」
マヤが振り返り、直桜に歩み寄った。
間近で直桜を見上げる。
直桜より背は低いのに、迫力があり過ぎて気圧される。
「七支刀 って石上 神社の御神体だし、石上神社の宮司って確か物部の血筋だったよね? 物部って饒速日の流れを汲んでるなって思って。だとしたら、そこに伊吹山の鬼とか角ある蛇とかが繋がるのかなって。保輔の鬼の力とか円くんや智颯の能力開化とかも必要なのかなって、思って」
あまりに怖くて考えていたことをツラツラと一気に話してしまった。
マヤが直桜の顔を掴んで、また胸に抱いた。
「紡ぐって、いいわ。とても馴染む言葉だわ。好きよ」
「え? そこ?」
抱き締められたまま思わず叫んでしまった。
護がいつ引き剥がそうかと構えているのが、横目に見えた。
「繋がりそうなの、でも足りないわ。見つからない命脈もいくつかある。大事な人を死なせたくなければ、見付けなくてはいけない。穢れた神力より早く」
直桜はマヤを見上げた。
「マヤさんの言葉は、まるで予言みたいだ。マヤさんには、先の未来が視えているの?」
マヤが腕の中の直桜を見下ろした。
直桜の顔を持ち挙げて、額に口付けた。
ドキリとして固まる。護が顔を蒼白にしているのが分かった。
マヤの中から、何かが流れ込んでくる。濃い霊力が脳に像を繋ぐ。
(なんだ、コレ。まるで映画でも見ているみたいな)
伊吹山の鬼と思われる男の周りに集まる妖怪たちの姿。その中には角ある蛇の一族、土蜘蛛、八咫烏などがいた。あの中に稜巳もいるのだろうか。
直桜が夢の中で見た、穢れた神力を扱う集団。数人の男たちが、神社のような場所で何かの儀式をしている。炎のように動く金色の神力に死んだ妖怪を投げ込んで神力を穢している。
突然、自分の姿が見えた。自分とも智颯とも映る男が惟神であることは間違いない。狂気じみた顔で手にしているのは、護であり、円の首だ。穢れた神力に呑まれて仲間を殺す自分や智颯の姿だ。
マヤの唇が離れても、直桜は動けなかった。
「わかったかしら。命脈が足りないの。今のままだと、貴方が視た未来に繋がる。だから、あの絵を完成させなければいけないの。彼らの準備が整うより早く」
直桜の腕を摩って、護が声を掛けた。
「何が視えたのですか? 教えてください」
言葉にするのも、おぞましい。けれど、話さないといけない。
「俺と智颯が、穢れた神力に呑まれて、護や円くんや、仲間を、殺す未来」
全員が蒼白な顔で息を飲んだ。
「化野さん、鬼の力、鍛えてよ。円に足りひん力、はよ探さな、あかん」
保輔の一言で、全員の顔が上がった。
護が、ぎこちなく頷いた。
「そう、ですね。のんびり構えていていい状況では、なさそうですね」
「足りないものは取ってきなさい。見つかれば命脈が一つ、繋がる。眠ったままの力も目を覚ます」
マヤが円に寄った。
服を引っ張ってマヤが円に顔を寄せた。
「早く目覚めて、繋がりなさい。お前は眷族になるために生まれてきたのだから」
「俺、が? 智颯君の、ってこと、ですか?」
マヤが手を離すと、円がよろけた。
その様子を気にすることなく、マヤの目が智颯に向いた。
「でも、まだダメね。眷族を得るには弱すぎる」
弱い、という言葉に、智颯の表情が強張った。
マヤが左手を上げた。本棚から古い本がユラユラと飛んできて、マヤの手に収まった。
マヤの手の中で、本がページを開く。
「古来、眷族を得るべき惟神は、神との強い繋がりを有した。信頼は何よりの結びになる」
マヤの目が直桜に向く。
「神との繋がり、か。俺も清人も神喰いとか神結びとか魂重とか、確かに繋がりは強いかもしれないけど」
現在、眷族を得ている惟神は直桜と清人だけだ。
「神降ろしじゃダメってことなんでしょうか」
智颯の言葉に覇気がない。
元々、自信がない智颯には、マヤの言葉が痛かったんだろう。
「でも、無理に魂重すればいいかって言うと、そうじゃない気がするよ」
直桜の言葉に、智颯が唇を噛んで俯いた。
「神との繋がり方は、いくつもある。惟神の数だけあると言ってもいい。知らないだけよ」
マヤの意味深な瞳が智颯に向く。
智颯の俯いた顔は、上がらない。
「今やるべきことを纏めると、俺の鬼の力の強化と、円の眠ってる力の開発、智颯君のレベルアップやな。できることからやろうや。取って来い言うとったやろ。どっかに落ちてんの? 円の命脈」
保輔が大変分かりやすく纏めて質問してくれた。
「保輔、凄いね。前向き」
直桜が絶望的な未来を告げた後も、最初に声を上げてくれたのは保輔だった。
「俺にとっては普通やで。今までが立ち止まったり後ろ向いたりできる人生やなかったってだけや。誰も守ってくれへんのに、そないしたら即死や。生きるための癖やんな」
保輔が当然のように言い放った言葉に、後ろに立っていた智颯と円が顔を上げたのが見えた。
「そっか。だから保輔は、頑張るんだね。仲間を死なせないために」
「いや、自分のためやで」
直桜は保輔を抱き締めた。
保輔が照れた声で言った台詞が、可愛かった。
bugsのメンバーだった子たちの話を聞いていれば、今まで保輔がどれだけ矢面に立って一人で抱えてきたかは、よくわかる。
保輔を抱き締める直桜を護も咎めなかった。
「北の方で天狗が困っている。何かが暴れている。そこに一つ、命脈の欠片が落ちている」
マヤが、机の上に置いた本を指さした。
宙に浮いた本を墨が受け取る。
「栃木県北部の天狗の山ですね。妖怪が暴れているようです。この事件の鎮静に五人で向かわれるとよろしいかと存じます」
「どれが命脈の欠片なのかは、わからないんだね」
直桜の問いに、マヤが円を指さした。
「その子が気付くわ。気が付けなければ、命脈は繋がらない」
指さされた円が怯えて顔を引き攣らせていた。
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