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:Profile

 水谷晃一(みずたにこういち)、十八歳。  英文科、一回生。  自分がゲイだと気づいたのは、中学一年生のとき。  同じクラスの女子が読んでたマンガをなにげに借りて読んだとき、それは甘々の胸キュンラブストーリーで、主人公の女の子にはちっとも興味がなかったのに、相手役の先輩に一撃だった。  かっこいい……、と夢中になって、けっこう面白いじゃんなんて言って最終巻まで貸してもらった。  マンガを貸してくれた女子はその後やたらとベタベタしてきたのだけれど、おれの頭の中はマンガに出てきた先輩でいっぱいだった。  これは、憧れなんていうものではないかもしれない。  そう思ったのは、ついにお互いの気持ちを確認しあった主人公と先輩の、夕陽を背にしたムードたっぷりのキスシーンを目にしたときだ。  まっすぐに向けられる先輩の熱いまなざしに、主人公の女の子の胸の高鳴りとか、つないだ手が汗ばみそうなほどの緊張とか、すべてがまるで自分のことみたいに感じたのだ。  小さいころから背が低くて線が細くて、色白で女の子みたいでかわいいなんてよく言われていた。同級生の男子からはそれでからかわれたりもした。たぶん一般的な男子なら恥ずかしいようなことなんだと思う。でも、あんまり気にはならなかった。  かわいいのって、よくない?  むさいとかごついより、全然よくない?  そう思ってたから。  もちろん、口に出しては言わない。からかってくる同級生の男子なんかにはそんなこと、一ミリも理解できやしないに決まってる。  別に、女の子になりたいとかではなかった。スカートに憧れたり、自分の体に違和感を持ったりとかもない。  ただ、あの少女マンガの主人公みたいな恋がしてみたいと思った。  出会ってときめいて、ちょっとずつ距離を、物理的にも心情的にも詰めていって、ここぞというところで告白しようとしたら、相手のほうから告白されて、クライマックスは当然、夕陽をバックにチューだ。  でもあたりまえだけど、現実はマンガみたいにうまくはいかない。  だって、どんなに色白でかわいくてもおれは男で、男の先輩はやっぱり女の子が好きなんだ。どんなにがんばっても、少女マンガみたいな超ド直球の学園ラブストーリーはおれにとって、宇宙のはてくらい遠くの出来事だった。  というわけで、おれが恋愛のお相手と出会うのはやっぱりもっぱら、そういう場所になってしまうのだった。

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