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:Especially Holy Night(3) ※
青の部屋のベッドの中は、どこもかしこも青の匂いがして、頭がくらくらしそうになる。
考えてみれば、酔ってない状態で青と抱き合うのは初めてだった。
おれ、寒いのだめなんだよ。そう言って青は、素早くタクシーに乗りこんだ。
青のマンションまでは半時間ほどで着き、冷えた体を熱いシャワーで温めるとようやく人心地ついた。メシどうする? なんて青が訊くので、ベッドに引きずりこんだのはおれのほうだ。
「積極的なの、好きだなー」
一度着たスウェットを脱ぎ捨てて、青が覆いかぶさってくる。おれは着替えなんか持ってなかったからバスタオル一枚で、脱ぐ手間は必要なかった。
「大人のキス、したい?」
意地悪な青の問いにも、もうためらわない。
「したい」
合わさったくちびるからはすぐに、青の舌が侵入してきた。粘膜が絡みあうと、体温が徐々に上昇してゆく。ほどなくして、身体の中心も熱を持ってゆく。
なんだか、青の愛撫がいつもより丁寧で、濃厚で、念入りだった。おかげで、熱くなる身体が先へ進めないのがもどかしくてたまらない。
息が上がったところに深く口づけられて、感覚が曖昧になる。酔ってもいないのに頭がぼうっとする。酩酊するってこういうことだろうか。中心に指を絡められると、疼きが鮮明になる。青の手のひら全体に包まれると、すでに固くなっていたそれはすぐに張りつめた。でも青は意地悪だから、簡単には解放させてくれない。
抗議する代わりに、絶え絶えの息の中で訊く。
「青、おれのこと、好き?」
耳元に、青の甘い声がする。
「言ってほしい?」
「うん」
「好きだよ。おまえだけが」
そんなことくらいで、簡単に幸せになる。
その言葉を信じても大丈夫だと、今ならちゃんと思えることが嬉しかった。
「おまえは?」
「え?」
「おまえはどうなんだよ」
ぺろりと、青がおれの上くちびるを舐めた。
「言えよ」
「青、好き」
よくできました。そんな声とともに口づけられて、青の指がおれの中に侵入してきた。これも今までと違って、やけに時間をかけてほぐされ、じっくりと広げられてゆく。
「……あ、ぁ……」
好きどうしって、こんななんだ。
今まで生きてきた、まだそんなに長くない人生の中で、初めて実感した気がする。
好きな人と抱き合うってこんなに気持ちいいんだ。
身体中を熱がかけめぐり、意識はどこか遠いところに行ってしまった。感覚だけに支配される。
「あ……、青、もう……」
「うん。おれも限界。入れるな」
熱いものが後ろにあたり、ゆっくりと入ってくる。その先に来る覚えのある快感を期待して、おれはゆっくり深く呼吸した。
「あ、忘れてた」
突然、大事なところで青が動きを止める。焦らされて、思わず腰が揺れてしまう。
「な、……なに」
「悪い。夢中になって忘れてた」
「え?」
耳元で、おれの腰をとろかせる青の甘く低い声がする。
「ハッピーバースデー。今日誕生日なんだってな。池田に聞いた」
あ。
そうだった。すっかり忘れてた。
「今日はおまえの特別な日だったんだな」
そう言って頬にキスを落としてくれるのは嬉しいけれど、今はそれどころじゃない。
「それは……後でいいから」
「ん?」
「早く、動いて」
承知しました。そうやってふざけながら青は、この特別な聖なる夜に、おれの欲しいものを全部、ちゃんとくれたのだった。
ー 了 ー
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