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:Especially Holy Night(2)
頬が冷たくて、ぴりぴりする。
でもそれもどこか、心地よい。
「晃一!」
呼び声に振り返ると、雪の瞬く暗い中、そこだけ青空が開いたみたいに、いつものコートを翻して意中の人が駆けてくる。
まっすぐ、おれに向かってくる。
来てくれた。
それだけで、胸の内がじんわりと温かくなる。雪の寒さなんか全然気にならなくなる。
おれの前に立つなり、青は声を荒らげた。
「おまえ何してんだよ、いつからいた? バカじゃねえのか。こんなところで」
顔を合わせた早々、そんなことを言わなくてもいいんじゃないかと思う。
「バカって言った」
「あたりまえだ。風邪ひくだろ。さっさとどっか入るぞ」
「待ってよ」
強引に連れていかれそうになるのを、足を踏んばって抵抗する。でも、その強引さは、ちょっと嬉しくもある。
「ちょっとだけ。ここがいいんだ」
だって、とっても少女マンガっぽい。ちょっと寒いけど、噴水の音がして、ちょうど雪なんかも降り出したし。
「なんだよ、いったい。早くしろよ」
「うん、あのさ」
マンガのラストシーン。クライマックスだ。
もちろんおれは、少女マンガの主人公ほど素直にはなれないけれど。
「おれ、告白とかされたこと、ないんだよね」
「は?」
「青、ある?」
「まあ、あるけど」
いけしゃあしゃあと言う。青のそういうところ、好き、と思う。
「おれ、一回告白とかされてみたいんだよね」
ぽかん、と、青はした。
まあそうだろうなあと思う。いきなり呼び出して、何言ってんだこいつ、って感じ。でもそういう青の顔もまた、好きだなあと思う。
「ねえ、してよ。告白」
しばし憮然とした青は、両手をコートのポケットにつっこむと、いつもの人を食ったような笑みを浮かべた。
「じゃあおまえ、告白するほうはしたことはあんの?」
え? とおれはひるむ。
「ない、けど」
「じゃ、一回くらい告白とかしてみろよ」
「えーっ」
まさかの反撃だった。
自分から告白する。そんな展開は予想してなかった。
本当はしてほしかったんだけど、確かに広内にも、自分が好きって言ってないのに言ってもらいたいなんてずるい、とは言われたし。こうなったら言うしかないのかな。
戸惑っていたら、ぶは、と青が吹き出した。愉快そうに笑い声をたてる。
「うっそ。いいよ。してやるよ。おれのほうが年上だしな」
その笑い顔に、思わず見とれた。なんかほんと、いい男すぎて怖いくらい。
ポケットに手を入れたまま、青がおれの真正面に立つ。ちょっと、というかすごく、ドキドキする。二人の間を、吐く息の白い靄が遮って心底ジャマだと思う。
晃一、と青がおれを呼ぶ。
「おれさあ、なんかもう、おまえのことかわいくってしょうがない。顔見なかったら落ち着かないくらい、好き。だからさ、おれとつき合ってくんない?」
青の目が、ひどく優しい。
あ、なんか涙出そう。
こんな嬉しいんだ。好きって言われんの。
泣きそうで、にやけそうで、絶対今変な顔してるからあんまり見られたくないけど、返事はしなくちゃいけないからその顔のまま、青を見上げた。
「しょうがないなあ。そんなに言うなら、つき合ってあげてもいいよ」
「なんだそれ」
青はポケットから出した両手でフードごと、おれの頬を挟んだ。
「じゃ、謹んでつき合っていただこうかな」
言葉と一緒に顔が近づいてきて、気がついたらくちびるが触れていた。
まるで子どもみたいな軽いキス。
青の、おれのすごく好きな顔が間近にある。
「……こんなとこで何してんだよ」
「大丈夫だよ。おまえかわいいから女の子にしか見えない」
はからずも、中学校のときからの目標が達成された。
夕陽をバックに、ではなかったけれど。
「おれ、もうちょっと大人のキスがいい」
「よし、じゃあさっさとあったかいとこ行くぞ」
肩を抱かれ、拉致されるみたいに連れてゆかれる。
頬がすごく熱かった。ぴたりとくっついた青の体温が、コートごしに伝わってくるような錯覚さえした。
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