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:Especially Holy Night(1)

 いつのまにか、雪が降り出している。  噴水のある広場は、聖夜といってもライトアップされているわけでもなく、雪がちらついて寒さが増すと訪れる人はほとんどいなくなる。  水音さえなければ雪の落ちてくる音が聞こえそうなくらい、空気が澄んでいる。  公園の中にある広場におれはいた。  ついこないだ、青と別れた公園だ。  とっておきの、フードと裾にファーのついた真っ白なポンチョコートを着ている。おれの可愛さを存分に引き立ててくれる勝負服だ。  外灯の下に立っていると、光の当たっていない暗いところにちらちらと落ちてゆく雪の粒がよく見えた。  吐く息は、たちどころに白く烟って霧散する。手袋をしているけど指先がかじかんでいる。耳が冷たくなって、フードをかぶった。  こんなふうに寒い夜に、噴水のそばで一人で待っていたことを思い出す。  同じ、クリスマスイブだった。約束の時間になっても彼氏はなかなか来なくて、連絡をしても通じず、いつまで待っていればいいかわからなかった。きっともうすぐ来る、もうすぐ、暗がりの中から現れる。そう信じて、時間ばかりがどんどん過ぎた。  何か、あったのかもしれない。連絡ができない状態なのかもしれない。  そんな心配をしてはみたけれど、きっとそうじゃないだろうとも思っていた。フラれることは時間の問題だと、うすうす気づいてはいたのだ。  でもせめて、この夜くらいはちゃんと来てくれるんじゃないかと、かすかな期待をしていたのだ。  結局、深夜を過ぎても彼氏は来なかった。それ以降、全部ブロックされて連絡はつかなくなった。  クリスマスイブに一人でいると、嫌な思い出が蘇るから嫌だった。誰でもいいから一緒にいてほしかった。  でも今は、誰でもいいわけじゃない。  おれはただ一人を待っている。  ここへ来る直前、おれは池田さんを訪ねていた。電話をしたらひどく騒がしいから、訊くとクリスマスイベントに来ているという。例の、青が言っていたイベントだった。  青がまだ来ていないのを確認して、おれはそこへ行き、池田さんを会場の外へ呼び出した。 「よお。今日はやけにかわいいじゃねえか」 「それはいつものことだけどさ。それより、池田さんに確認しておきたいことがあるんだけど」 「何」 「青って、セフレとかいるかな」  おれの質問に、池田さんはめんくらったみたいに表情を固めた。 「……なんだそれ。いねえだろ、そんなもん」 「ほんと?」 「そんなややこしいことにしかならなそうなもん、めんどくさいだけだって、あいつなら言うだろうな」 「浮気とか、しそうじゃない?」 「だから、何だよその質問」 「いいから。池田さん、青のことよく知ってるんでしょ。池田さんから見て、青って、浮気とかしそうにない?」 「浮気するくらいなら、つき合ってるやつと別れる、つってたことあったな。前に」 「そっか」  池田さんが言うなら、大丈夫かもしれない。  直接青に訊けって広内は言ってたけれど、青の答えを信用できないかもしれないのが嫌で、どうしても訊く勇気が出なかったのだ。 「わかった。じゃ、青が来たら、伝言お願いしていいかな」  こないだの公園の噴水のところで待ってる。  それだけを伝えてもらうよう頼んだ。  青が、何時に来るのかはわからない。だから時間は指定しなかった。  たいしてタイプでもなかったあいつのために、何時間も待てたのだ。  むりやり待っていたあのときと違って、おれは今、自分がそうしたくて待っている。  だから平気。何時になっても。  もしかして、青はもうおれに愛想をつかしちゃったかもしれないけれど。  それでも、好きな人をこうして待っているのは少し、幸福だった。  

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