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第1話
〔この話は先に出した「おじさんとの夏休み」のシリーズものとなります。読んでいなくてもわかる様にしたつもりですが、もしわからない様でしたらブログの方に登場人物まとめておきましたのでご利用ください。では本編お楽しみください〕
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「桜の下には…とはいうが、柿の木の下もオツだろう?」
地面に線香をたて、男は手を合わせた。
家の庭には桜の木がないから、仕方なく柿の木の下へ埋めた。
「お前たちがずっと一緒にいられるように…したから…永遠に仲良くするんだぞ」
微笑んで一輪の白い薔薇を線香の脇に刺し
「お父さんもすぐに行くからな」
そう呟いて男は立ち上がり、家の中へと戻って行った。
鬱蒼と茂った木々が風で揺れ、その音にすら怯えながら篠田悠馬とその友達畑田貴一 と後藤夏 は身を寄せ合いながら先にある苔生した洋館へと向かっている。
昨年の夏休みに、大学受験の一環で東京の塾に行くため時臣の家に預けられた(預かられた?)悠馬は、時臣の母校であるKO大受験枠まで成績を上げたものの、結果追いつかず、それでも上京したいがために東京の大学を受け、今では時臣の家に居候をして大学生活を満喫していたのだ。
KOだったら家に住まわせるという条件を出していた時臣だったが、可愛い甥っ子がそれなりに頑張ってなんとか進学を果たし、しかも一人暮らしは危ないというおじ馬鹿炸裂で自宅を提供することにした。
そんな悠馬が、大学一年の夏の終わりに大学で知り合った友人と一緒に心スポへと足を運んだのは、3人で心霊系YouTubeでもやってみようかと話が盛り上がったからだった。
実際幽霊を見たこともない悠馬は今の所霊が怖いということは一切なく、大学の思い出にそれもいいかな程度の思いつきなのである。
そして、実際行ってみてそれができるかどうか試そうと思ってここに来たのだ。
「なあ、止めようぜ。流石に怖いよ…」
ネットでも有名な都内郊外の心霊スポットにやってきていたのだが、屋敷に行くまでも、壊れた木造りの門やフェンスがキィキィと風に揺れ、脛まで覆われるような草をかき分ける時点で気持ちがダダ下がる。
そして、心許ないスマホのライトでうっすらと照らされる洋館は、蔦なのか草なのかが壁を這い回り、ぽっかりとある窓の中は真っ暗で、じっとみつめているとそれだけで誰かと目が合いそうな錯覚まで起こりそうだ。
その洋館は、噂では何十年も前に一家心中のあった洋館で、日本に移住して日本人の奥さんと子供と暮らしていた男性が、不治の病を患ったせいでノイローゼになり起こした事件らしい。
その男性は家族を殺めた後自害しており、自分の病のせいで家族を殺めた後悔からその家に執着し霊となって彷徨っているという。そう言う話だ。
「うん…ちょっと怖いな…でもせっかくここまで来たんだし、建物の中くらいは覗いていこうぜ」
怖がる貴一に腕を掴まれている悠馬が、その手をしっかり握ってー覗くだけーと言い聞かせて歩を進める。
「おおおおお俺もうYouTubeやんなくてもいい…帰ろうぜえ」
貴一が2人の腕を半ば引っ張るように尻込みをしているが、
「中をちょっと覗くだけだからさ。俺だって踏み込む勇気はないよ。中見るだけだから」
「うんうん、家ん中探検は俺も無理だけど、ここまで来たら中くらいは見てこうぜ貴一」
夏も腕を引っ張られてはいるがそのまま貴一を引っ張るようにして、スマホのライトを頼りに屋敷の入り口まで辿り着いた。
「うわぁ…迫力あるなぁ…」
一家心中の家と聞いてやってきたのだから、雰囲気だけでもめちゃめちゃ怖い。 木造りの重そうな扉は苔むして、草が絡まっているのを見ると流石に開ける気にはなれない。
「こ…ここまできた勇気だけ自分で称えて帰ろう?」
貴一は2人の後ろで引けた腰のまま、悠馬の腕の間からドアを見つめる。
「木だからかな、これ苔じゃなくてカビなんじゃ…あれ?ドア…開く…」
苔に触れようとドアに手を当てた悠馬が『キィ』と音をたてるドアを押した。
「うぇぇぇっやめようよぉ…」
真っ暗な扉の中はスマホのライトも遠くまでは届かず、2mほど先の床を照らすだけだ。
「お邪魔しまぁす…」
貴一は3人のなかで1番背が低い。見た目が女性っぽいわけではないが色々と今回のように尻込みすることも多いので、知り合ってまだ半年程度だが、悠馬と夏は扱いを覚えてしまった。
「入らないって言ったじゃんかあ〜。お邪魔しないぞ!帰ろう〜」
騒ぐ貴一に
「判った、じゃあ俺と夏で行ってくるから、お前ドアの前で待ってて」
夏が振り向いてライトで顔を照らしてそういうと
「それも怖いからやだ。一緒に行くよ!でもその辺までだからな奥まで行くなよ」 まあよくいる『チョロい』やつ。
「判ってるって、俺らだって怖くないわけじゃないし…幽霊よりも人いたらやだなって思う。ドア開いてたし」
辺りを照らして悠馬が言う。
「それも怖い…」
貴一の腰がよりひいてしまった。
洋風な造りなのか、ドアを開けてすぐの部屋はもうリビングのようで、ダイニングテーブルが置いてあり、その右手の奥の方に応接セットが腰くらいの窓の下に設えてあった。
応接セットの脇の壁には暖炉があり、その上に写真たてのようなものが見えるが、この場所からでは写真の内容は見て取れない。
「ここのご主人外国の人って言ってたもんな…作りが日本風じゃなくて面白い」
悠馬が先頭を切って歩き、ゆっくりの歩みではあるが徐々に中へと入り込んでゆく。
「向こうはキッチンなんかな、カウンターが見える。なんか出てきたらやだから近寄らないようにしよう」
夏がそういうと貴一が
「だからもう入ったからいいじゃん〜覗いたよちゃんと」
「そうだな…あまり長居も…」
夏がそう言った時だった。
ギィ〜という音がダイニングテーブルの向こう側で聞こえてきた。いや、カウンターの向こうだ。
「なになになになんの音」
「こえええ〜帰ろうぜ。やばいよ」
夏と貴一が完全に尻込みしている中、悠馬がその音のした方、ダイニングテーブルの向こうへととライトを向けると、そこにはロッキングチェアがあるのが見えた…のだが、そこに、人が座っているのが見えた。
「ヒィッ!」
貴一の喉から悲鳴のような声が鳴り、夏も後退りしてはいたが一応身構えて立ってはいた。しかし油断すると腰が抜けそうだ。
「なんでお前そんな冷静????」
言われた悠馬はその人影にライトを当て、じいっとそれを見つめている。
「いや、動かないから人形かなと思ってさ…」
幽霊信じないのはいいけど、お前神経ないんじゃないの?ーまで言われながら悠馬は少しずつそれに近づきライトを当ててゆく。
「動いたらもっと怖いだろ!ほらもう行こうぜ!人形なら人形でいいからさ!もう俺やだよ〜〜」
と流石に限界になった貴一が叫んだ瞬間、再びカウンターの向こうから
バタン!
と扉の閉まる音がして、それに声を上げかけた瞬間に椅子に座っていた人影が椅子からすべり落ち、割と大きな音を立てて床に転がったのだ
「ぎゃああああああ!」
「ひいいいいぃぃぃぃいいい」
「うわあああああ」
3人は入り口に向かって走り出しドアを抜けバタンと閉める。
「ななになにななににいいいまああのなあななになになにい??追いかけてこないよな?来ないよな?」
貴一はもう体の震えで言葉にならないし、夏も声にならない声でハフハフと息を整えようとするが、飛び出そうな心臓の音と動きで顔も青くなっている。
流石の悠馬も、ドアを抑えて息を荒げーなんっだいまのーと開きはしないだろうが、貴一がー追ってこないよなーと叫んでいるのでそれが怖くて取っ手を離せない。
「でもあれ…人間だったよな…?人形じゃなかった気がする…」
思い起こすように悠馬がいう。確かに人形が倒れ込む音ではなかった。
「え、人だったらもっとやばくね?生きてた?生きてたのかな!でも重い人形ってのもないこともさ…ないんじゃ…」
夏が人ではないことを否定しようと躍起になるが、自分で聞いた音や落ち方を思い出すほどに自信がなくなってゆく。警察案件なのかも…と身が震えた。
「でもなんで急に落ちてきたんだよ。それがおっかねえよぉ」
両腕を自分を抱きしめるようにして、貴一は足踏みをする。
「落ちた理由なんかは…俺らが入った時に風が入って、あれってゆらゆらする椅子だろ?あれが揺れたとか、色々想像はつくけどさ…」
やはり人だった場合…結構まずいのでは…
「もう一度見にいくか…?」
そういう悠馬に夏と貴一は2人一斉に首をフルフルっと横に震わせ、絶対やだ!と声を合わせた。
流石に悠馬も人だったとしても嫌だなと思い直し、3人は取り敢えずここから離れることにする。
時臣に借りた車に乗り込んで、3人はやっと一息ついた。
「どえらく怖かったな…でもあれが人だった場合…と考えるとさ」
助手席に座った夏が、正面の暗闇を見つめながらそういうと
「やっぱり通報した方いがいいのかな…」
と、悠馬も思案顔。
「俺ら第一発見者ってやつになるのか?」
「死体って決めつけるなよ〜怖いよ!」
後部座席の貴一も、怖いのか体半分を前にのめり込ませている。
「でも生きてたとしたってさ…一体いつから…えええ」
考えれば考えるほど怖くなってゆく。
悠馬も幽霊ではなく人かもとなると、怖さが増してきたらしい。
「一応…警察に連絡しておくか…今何時だろ」
スマホを見たついでに時間を見ると23時28分。
「結構いい時間なんだな。取り敢えずここからは離れよう」
免許取得6か月の悠馬は、狭い林道の様な道でなんとか方向転換し、大通りに出ることを目指した。
そして大通りにあったコンビニによりこむと、その駐車場で110番をする事にする。
「なんて言えばいい?110番するの初めてだよ」
スマホを持って夏が2人の顔を見た。
「でもさ、人形だった場合怒られるかな…」
「でもでも人だったらさあ…放っておくわけにも…」
検討の結果本当のことを全て話すことにして、夏が代表で110番を押した。
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