5 / 10
第5話
「あ、酒井さんですか?私わかります〜?小宮です。小宮唯希。はい、お久しぶりです〜」
特に高い声ではないが、完璧に女性の声での電話でソファで寝入っていた悠馬は目を覚ました。
ダイニングで唯希 が誰かに電話をしている。
「今朝方は、ボスの甥っ子がお世話になりました〜。いいええ、こちらは何もできずに」
ーえ?俺関係?ー
目は覚ましたものの、内容が気になって寝たふりしながら話を伺う。
「それでね?ちょっとお伺いしたいことがあってお電話したんですよう…あ、そうそうそれのこと、聞いてもいいです?」
向こうも唯希が連絡をとって来た意味合いはわかっているのだろう。
「え〜?そこをなんとか!悪用なんてしませんから。じゃあこっちのことも明かします、そうしたらいいですか?え〜お願いしますぅちょっとですよ?身元と名前だけでいいですから〜〜。今回ね、恩師を探して欲しいって依頼で…お母さんと一緒に高校生のお嬢さんが依頼にいらして…片っ端から当たってるんです。今回のそちらの仏様がお名前違えばそれはそれでこちらはデータ消しますし〜、ええ、はい。こっちの事情は今お話ししましたよね?え?勝手に話した?そちらが聞くって言いましたよね、ええ、言いました。だから言ったのに…こんな依頼のこと言ったとバレたらボスに何言われるか…戦利品あれば怒られません。で?身元とお名前は」
よくもこんなに舌が回るなってくらいベラベラと捲し立て、向こうも圧倒されてなかなか話せないんじゃないかなってくらい、唯希はマシンガントークをかました。
「本当ですか?はい、もちろん誰にも。こちらの仕事に関係なければポイですよポイ!はい…あ、大丈夫ですよはい」
スマホを耳に挟んで、キーボードで打ち込んでゆく。
「はい、ありがとうございました。大変助かりました。いえいえ。ではまたよろしくおねがいします〜」
またそう捲し立てて、それでは〜とスマホを切った。
内容は自分に関係なかったようで、悠馬はソファの上に起き出し
「すごいもの見た」
と、向きを変えてソファに寄りかかる。
「あら、おはよう」
画面を見つめて、悠馬を見ずに何かを入力してゆく。
「たくさん喋る星人が夢に出てきた」
寝起きでぼーっとした顔で呟くようにそう言って目を瞑った。
「変な宇宙人の夢見たのね。御愁傷様」
悠馬の嫌味なんかは通用しないのだ。
それよりも唯希 はいつになく真面目な顔で入力した画面を見つめ、ん〜と声を上げた。
「こんなうまい話ってあるのかな」
と、そう呟いた時に
「なんか上手い話でも出てきたか?」
奥から時臣が現れ、キッチンでグラスに水を汲み一気に飲み干す。
「あら、起きたんですね……ボス、なんか着てください」
上半身裸で現れた時臣に、ダイニングの椅子にかかっていた夏物のジャケットを放り投げ、プンスカと画面に見入る。
「男同士じゃねえかよ〜いいじゃん暑いんだよ」
「胸筋触っていいですか?」
隙あれば時臣の胸筋を触ってくる唯希が、『そう言う目』で時臣を見た。
「着てくるわ…」
変な脅しに乗せられた時臣は一旦部屋に戻り、ことさらゆったりとしたアロハを着込んで戻ってきた。
「で、うまい話って?」
またビールを持ち出して、唯希の後ろからパソコンを覗き込み
「あ?」
と声をあげる。
「ね?うまい話すぎるでしょう?」
画面には依頼書と、たった今仕入れた情報が2分割されて表示されていた。
そのどちらともに書かれた名前が、『近藤智史』今回の行方不明の人物だ。
「国上市の捜一の酒井さんに連絡してみたら教えてくれました。昨夜の遺体の名前。すんなりと、優しく」
電話のやりとりを聞いていた悠馬はー嘘つき居 るーと今だぼんやりした頭でつぶやく。
「出来過ぎだな…。まさかと思ってたけど…」
「まあ、本当に偶然でしょうけれどね。悠馬が心霊探検に行くなんてことは、誰にもわからないことだったんだし」
唯希はそのまま依頼書を表示させ、『近藤智史』さんが8月21日の深夜に遺体で発見されたことを記載して行った。
「へえ〜随分あっさりと終わったもんだな。じゃあこれを依頼者に連絡して、この件は終了ってことで」
一個仕事が減った〜と自分のデスクとしているリビングの片隅のテーブルへ向かい、時臣は自分のパソコンの電源を入れる。
「しかしまあ、なんでこんなに人探しの依頼が多いのかねえ…」
「事務所によっては浮気調査が多かったりするじゃないですか。うちはたまたま人探しが得意だと認識されてるんですよ」
唯希がパソコンで今回の一件をまとめながら言っていると、手元の仕事用スマホがメールを告げた。
「なんだろ」
開いてみると、さっき電話をしていた酒井だ。
「んん?」
そこには
『ここまで教えたらもう少し情報送っておきます。念の為、ご依頼者様に顔の確認もしていただくといいですよ』
と書かれた後に2枚ほどの画像の添付と、近藤智史の身元が書かれていた。
ーお人好しねえーなどと言いながら送られてきた画像と書類を確認。その身元は、住所から職場まで唯希が知っているものと同じものだったが画像が…
「ボス、これ…」
唯希は立ち上がって、やや小走りに時臣の下へスマホを持っていく。
「ん〜?」
タバコを咥えて何気なしにスマホを受け取り、そこに写された画像を見て眉を片方上げた。
ともだちにシェアしよう!