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第7話
「唯希、近藤さんの売人の件潰れた」
「あ、はいわかりました。飛田さん情報です?」
「そう。まあ言い分を信じるわけじゃねえけど、もっともなこと言われたんで納得したわ。まあ頭の隅にでも残しておくだけでいい感じかな」
「了解です」
唯希はパソコンの中の近藤のデータを書き直した。
しかし…。暫くはその顔色の悪い画像で聞き込みをするしかなかったが、この顔で身元が割れるとは思えない。
どこかでまともな画像手に入らねえかな…
身元の全てが判らない、この偽近藤の調査をしなきゃならないのが一気に憂鬱になってきた。
近藤の社員証を持っていた以上、どこかで近藤と絡んでいるはずだから。
「解決したと思ったんだけどなぁ…近藤さん がまだどこかにいる可能性がある以上、依頼者に伝えられねえし」
タバコを引き寄せ咥えて椅子に寄りかかる。時臣の癖のある前髪が目にかかり、それを鬱陶しそうに払って画面の画像を睨みつけた。
「さて、どこから攻めていこうか…」
しかしそれはひょんな所から、きっかけがやってきた。
唯希と交代で、取り敢えず錦糸町や新橋、蒲田辺りの飲み屋で聞き込みを始めてほぼ1週間。途方に暮れかけていたある日の昼、13時に予約していたという依頼者がやって来る。
依頼者との最初の話は、いつも第2アシスタントの典孝が行うのだが、典孝は実際は非常勤なので休みが多い。
今日は唯希が依頼者と会うことになった。
今回もまた例に漏れず人探しの依頼だったが、その依頼者が持ってきた写真を見て唯希は固まってしまう。
それは、今時臣と2人で東京中の飲み屋やパチ屋を回らないとなのかも知れないとまで思わせているあの、偽近藤その人だったからだ。
「え…と、この方をお探しなんですね。失礼ですが、先ほど記載していただいた書類を見ますと、お姉さまで、いらっしゃる…」
唯希の前に座っているのは、歳のころは30前半から後半に入ったばかりくらいの妙齢の女性だった。
身なりも良く、ハイブランドというわけではないが、自分に合ったスーツを着て、髪も綺麗に結い上げていて靴もピカピカである。
「はい、姉です。弟は昔から素行が悪く、一人暮らしをさせてはいるものの、家族で見張るように生活していたのですが、ここ1週間ほど姿が見えなくなって…。2、3日置きに私が掃除に出向いているのですが、2回部屋に入ってみても生活した形跡がなくて…。警察にも行こうと思ったのですが、弟が見つかったらすぐに逮捕なんてことになっても困るので、まずはこちらに…と思いまして」
家の恥ずかしい部分を晒すのは抵抗があるのだろう、終始ハンカチで口元を抑えてその女性は話していた。
こちらとしては、もうすでに亡くなっていることがわかっているため気にはならなかったが、普通成人男性が1週間程度部屋を開けたところでこんなに心配はしないだろう。
そこからも本当にしっかりと見守っていたことが感じ取れた。
唯希はこの人がもう亡くなっていることを、今ここで伝えていいものか判断がつかず時臣の指示を仰ぐことにする。
「わかりました。では少しお待ちください。まずはリラックスするためにお茶お持ちしますね」
「ありがとうございます」
由梨子は丁寧に頭を下げ、口元のハンカチを膝の上に戻した。
唯希はにっこりしながら事務所のドアを閉め、ゆっくり早歩きで廊下左手の奥のドアへと入っていく。
「ボス〜〜大変な事が〜〜」
ダイニングで件 の偽近藤 の捜査をどう進めようかとコーヒーで頭を起こしていた時臣が
「なんですか〜〜たいへんなことって〜〜」
と唯希の声を真似て返答してきたが、ーそれどころじゃないんですーと唯希は今きた女性の依頼書と、持ち込みの写真を時臣に差し出した。
「こいつ!」
もう一個の椅子にあげていた足を下ろし、唯希の顔を見上げる。
「今、その人を探してほしいってお姉さんという方が見えてます。わたしお茶入れていくので…ああちょうどいいですねコーヒーが落ちてる、これ貰います。これと一緒にボスも来てくださいよ。亡くなってる事お伝えしなきゃじゃないですか…」
時臣は依頼書に目を通しながら、一方で写真も見比べる。
確かにあの、酒井がくれた画像の人物に酷似していた。しかし決めつけも良くない。亡くなったことを伝える前にしっかり話も聞かなければならないな、と時臣は気を締めた。
急ぎながら大きな花が描かれたカップとソーサーを用意しコーヒーを注いで、小さな豆皿に個包装のクッキーを一つ入れたものをトレイに乗せる唯希はー行きますよーと、言いにくい事を言いに行く覚悟の顔で振り返り、時臣はその後ろへ、偽近藤に関する書類やデータを提示するパソコンを持って続いた。
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