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第22話
時臣と唯希は、IKENOを出た足で酒井に連絡を取り、
「今からそっち向かうけど、酒井さんは署にいるの?」
唯希がかけてていたが、酒井は
『今出先ですけど、すぐに戻れますよ。なんですか?』
ときいてくるので
「新しい情報を共有しようと思って」
『そういうことなら戻ります。お待ちします』
忙しいのかすぐに電話は切られ、唯希はあっちもなんか動いてますね、とスマホをしまう。
IKENOは国上市にある会社なので、署まではすぐだ。
どこにいるかは聞いてはいないが、署で待つのは嫌だったのでちょっと休憩をし、飲み物などを買い込んで署へついた。
スタバのコーヒーを持って入ってゆくと、迎えた酒井がーずるいーと笑う
「ここのコーヒーまずいんだもん。でも溶けてるかもだけど酒井さんのも買ってきたよ。アフォガートフラペチーノ」
ありがとーと喜んで紙バッグを受け取るが、いうほど溶けてはなく嬉しそうに以前案内された部屋へ通してくれた。
「今日はどんな情報を?」
もうパソコンを持ち込んで、情報情報とウハウハしている酒井に
「ちょっとその前に話しておかなきゃならん事があるんだ」
時臣が身を乗り出して少し声のトーンを下げた。
「今日渡す情報は署内でも捜一だけの管理にしてほしい。そして他言無用で余計なことは一切しないと約束してくれ」
「そんな重要な話ですか?」
つられて酒井も声が小さくなる。
「聞けばわかるわよ。びっくりするから」
「唯希、まだ確証はないんだから」
時臣にたしなめられ、ーそうでしたーと舌を出す唯希も可愛いなと酒井は見惚れる。
「でな、俺たちは今日近藤の勤め先のIKENOへ行ってきた。なんか変わったことなどないかなと、藁をも掴む思いで行ったんだが、そこで課長さんが教えてくれたんだよ。近藤が無断欠勤を始めたその日に、女子社員が1人病気になり父親が退職願いをしてきたと」
それだけを聞くと、大したことではなさそうなのだが、その女子社員は…と、もらった画像と履歴書を撮影した画像をiPadに表示して酒井に見せた。
「え…これ…」
酒井も驚いた顔をして画面と時臣を交互に見る。
「まあ、なんてことはないことなんだけどな。その日に偶然女子社員が重めな病気になって親父さんが連絡を入れてきた…それだけのことなんだけど。その女子社員引っかかるだろ?金井菜穂…でその顔立ち」
「金井さんにそっくりっすね。いや可愛いけど」
唯希はその画面をエアドロで酒井へ送るため、iPadを自分へ向けた。
酒井は送られた画像を見て、へえ…としばし眺め、住所も自分のパソコンのファイルを調べてみたら金井と一緒だと言った。
時臣は片眉を上げた。金井さんのデータを持っているだと…?少し怪しんだが、なんともないように話を継ぐ。
「ああ、じゃあこの金井菜穂さんが金井さんの娘であることはもう決まったな。それで、この金井菜穂さんにはどうやら付き合ってた男がいるらしくてな…それが誰なのかは、会社の中にいる友人にも明かさなかったらしいんだよ」
その情報を入力しながら酒井は、
「めっちゃ薄いですけど、その子が影山の女だった可能性もあるって事っすね」
まあその可能性があるっていうだけのことだが、なんでも調べてみるに越したことはない。
「付き合ってた男っていうのが、またかなりひどい男でね、金井菜穂さんをまるで物の様に扱ってる様なやつでさ!もし影山が付き合ってた人ならそこからなんか出そうなのよね」
未だ憤慨している唯希は、菜穂の同僚から聞いた話を酒井にも聞かせてくる。
「うわ…まるでデリヘル扱いっすね」
ドン引きな顔で酒井が口元を歪めると、時臣も
「デリヘルなら金もらえるけど、そうじゃねえからなぁ…」
とやはり渋い顔をする。
「ちょっと!そう言う言葉使わないでもらえます?酒井さんも!もし仮に金井さんに事情聴取とかする事になっても、そう言う言葉絶対に使っちゃダメだからね」
金井菜穂の恋人(?)の話は唯希には非常にムカつく事で、心に引っかかったらしかった。
酒井はーしませんよう〜ーと手を合わせて唯希に謝り、話を変えようとさきほどまでいた所の話をし始めた。
「うちもね、さっきまで影山の部屋を徹底捜索してたんすよ。女の影と、殺されなければならなかった理由を探さないとですしね」
酒井はパソコンに部屋の様子を映し出し、それを唯希のiPadへと送信した。
唯希の画面を覗き込んだ時臣は、男の一人暮らしにしては綺麗にしている印象だが、由梨子が週に一度掃除に行っていると言うのを思い出した。
「なんか出たのか?」
「もうね、畳の目、ラグの毛一本一本、排水溝の奥底まで徹底的にさらって、影山の金髪以外の髪を押収できました。その中にこの金井菜穂さんのものがあれば、影山の女がこの人だと断定できますね」
「サンプルは?」
そう意気込んではいるが、金井菜穂のものだと知るにはまず金井菜穂のサンプルが必要なはずだ。
「あ…」
はぁ…酒井はため息をつく。酒井という男は使えるはずの男なのだが、どこかが一本抜けている。
「そっかあ…いくらDNA検査したって、ただの誰かのDNAってことになっちゃいますね…」
「今はまだ金井さんには言えないんだぞ。殺された男と自分の娘が付き合ってたなんてのはまだ推測でしかないんだからな。病気のことだって聞いてみたいが、いまはまだ時期じゃない。定年も近いんだ…もっと確実になってからだっていいだろう。サンプルはもらえねえな」
「金井さんの頭髪か、飲み終わったカップに付着した唾液とかで親子関係を検査したらいいんじゃないの?」
唯希の提案は真っ当だった。
2人は、あ、その手もあるな!と唯希を見た。
ボスだって抜けてるところはありますからね、と言いたくもなる。
「まあそれで親子関係が出なかったら、また振り出しなんだけどな」
へっと笑って、時臣は背もたれに寄りかかる。
「でも一応やってみます。署内なんで、なんとかしますよ」
「できれば唾液がいいのよね。菜穂の方は仕方ないけど、金井さんの方はできたらカップがのぞましいわね。髪の毛は確率低いのよ〜」
検事時代にそれで揉めたこともあったくらいだ。
「わかりました」
それはメモ用紙に書き留める。
「気をつけろよ。仮にも本庁の捜一出身だ。おかしなことすればすぐに勘付く」
「それも了解です。ほんと刑事って厄介ですよねえ」
お前も刑事だろ、と本気で突っ込みたくなる。本当に酒井という男は…。
「て言うか、今思い出したんだけど…」
唯希が唐突に言い出す。
「その金井菜穂の画像を、酒井さんが前に言ってた近所のおば…主婦の皆さんに見て貰った方が早いんじゃない?」
酒井の手が止まり目が点になる。時臣も
「そんなことあったな。そっちの方が手っ取り早いわ」
と笑う。
まあ結局は、取り敢えずDNA検査は執り行うこととして、ご近所の主婦さんにはシュークリームの一つも持って、再度聞き込みにもいくこととなった。
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