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第24話

 酒井の話はこうだ。 『今日の午前中11時頃に、我々は影山のアパート付近の奥様方を訪ねて行ったんですよ。この間唯希さんに言われた、影山を見張ってて女性が出入りしてたのを観ていたご婦人方ですね。そこで、見かけた女性というのはこの子かって写真を見せたら、はっきりとそうだと言ってくれました。影山が怪しい分、清楚な菜穂が部屋に出入りしているのが不思議だったらしくて、隠れながら顔までしっかり見たと言うので間違いはないと言ってくれました』 ーどこもおばちゃんはたくましいなぁーと、時臣は心の隅で思いながらも、次第に核心へと近づく現状に鳥肌が立つ。 『そしてですね、奥様方から8月中ごろに中年というかちょっと老年に差し掛かり位の男性が彷徨(うろつ)いてたと聞いたんです。この辺じゃ見ない人だから、警察に言おうかどうか相談してる間に来なくなったらしいんですが、我々ちょっと思うところがありまして、手持ちの金井さんの写真を見せたんですね。そうしたらこの人だってことになりまして』  金井さんの写真ねえ…こいつら、俺たちに言ってないことあんな…と時臣は直感でそう感じた。  が、とりあえずは気にしない体で 「金井さんが影山をなぁ…あ、こっちもな、グランドホテルに金井菜穂が行っていたかの調査に来てるんだが、こっちは少し薄めだけど、閉め出されてドアを叩いていた女性が菜穂に似ていたという証言を得た。菜穂の彼氏が冷たい男だと言うのは言ってあるだろ、それイコール近藤とは限らないからなんとも言えないが、常宿にしてたことは事実なんでまあ、十中八九は…と考えてはいる」 『マジっすか。じゃあ、それが本当なら金井菜穂は近藤と影山2人と面識があったと言うことになるんですね。あ、まあ近藤は同じ会社ですけど』 「そうなるな…ちょっと、余計に混乱するが…」 『篠田さん、俺明日そちらに伺います。言ってなかった情報出します』 「あると思ってたわ…わかった、洗いざらい吐いてもらう」 『すみませんでした。では明日午前中内に伺いますので、よろしくおねがいします』 「この間からなんか変だと思ったんだよな。抱えてるデータに金井さんのものが入ってたり、今日も金井さんの写真持ってたって言ってただろ」 「ああ、そういえば、菜穂さんの履歴書の住所すぐに金井さんのところだって断定してましたもんね」 「多分、その辺の何かを持ってるんだろうな。まあなんにしろ明日だ」  唯希はーはいーと言って並んで歩き出す。 「ねえボス?」 「ん?」 「私の後つけてきました?」  今日はおばさま方を任せてくれたと思って意気揚々とやって来た唯希だ。 「気づかなかっただろ〜。て言うか、パワフルなおばさま方にどう対抗するのか見たくてね。やられてたねえ〜」  ニヤニヤと笑う時臣をー興味本位ですか!?ーと少し腕をこづいてやる。 「ま、お前も俺んとこ来て何年だ、3年くらいか?そろそろ任せてもいいこともあるだろうな。今日は過保護だったか?」 「3年半ですね、付き合いはもう4.5年経ちますけど。過保護というよりは、『俺がいるから安心して行ってこい』って言って欲しかったですぅ〜」  任せてもらえなかったことに少々憤りはしたが、助かったことは事実なので良しとする。 「そんなこと俺も言ってみてえや」 「言ってください!」 「やだよ!」  そんなやりとりの中、浜松町駅はもう目の前だった。  次朝、唯希が事務所に到着と同時に、酒井から連絡が入り今から署を出るから10時過ぎくらいには着く予定だと言う。  時臣もすでに起きて、自分のデスクで昨日のデータを頭に入れているようだ。 「酒井さん、10時絡みで来るそうです」 「ん、わかった」  画面から目を離さずにそう言う時臣に、唯希はコーヒーを淹れるためにキッチンへ立った。 「悠馬〜、朝ごはん食べたの?」  昨日今日は何もない日だと言っていたので、寝ているのだろう。  一応バゲットをトースターに放り込み、軽く卵とハムもフライパンで焼き始める。 「ボスも食べますよね」 「ああ」  なんと今日は返事の短いことか。酒井が隠していたことが気になるのだろう。  しかし今回の一件は随分わかりにくいことが多い。  一つ真実を見つけても一個一個点でしかなく、なかなか線にならない。 「おはよぉ〜、パン食べるよ〜」  大欠伸をしながらボサボサの髪もそのままに悠馬が部屋から出てきた。 「これからお客さん来るから、部屋にいるなりどこか行くなりできる?」 「ん〜〜…ここに来るの?じゃあ部屋にいる。レポートまとめなきゃだし」 「わかった」  チンッとトースターが鳴り、唯希は大きめのお皿にバゲットとスクランブルエッグとハムをのせて悠馬の前に置いた。 「飲み物は自分でやってね。ボスもパンでいいですか?」 「ん〜…飯ないの?」 「あるんですけど、温め直しになります。それにおかずがスクランブルエッグとハムだけだし」 「ああ、じゃあパンでいいや」  よっと言って立ち上がり、悠馬が座る隣に座り込む。 「レポートか。頑張ってるな」 「書けば単位くれるって言うからさ、そう言うのはやっとかないとね」  なんとまあ都合のいいレポートだよ、と苦笑してテーブルの上の新聞を広げた。 「いやだねえ…神経すり減るニュースばっかりだ」  嫌な顔をして新聞をテーブルに戻すタイミングで、ワンプレートの朝食が前に置かれた。  そして牛乳が2人の前に置かれて 「悠馬は本当動かないわね。飲み物いらなかった?」 「…要ります…」 「自分でやるように」  人差し指で示されて、パンを咥えてふぁい…と小さくお返事をする。 「お客さんて、依頼の人?だったらこっちには来ないか。だれ?」  悠馬はなんとなくこの探偵業に少しだけ興味を持っている。それがわかっているので、話せることは割と話している2人だ。 「警察の人よ。今回の一件は色々噛み合ったり噛み合わなかったりしてて難しいから、警察と手を組んでるの」 「へえ〜そういうこともあるんだね」 「ま、警察(やつら)と仲良くしておけば、俺の仕事にも有利な時もあるしな」  いただきますと言ってパンをかじり、牛乳を口にする。その後すぐに時臣の前には落としたてのコーヒーが運ばれた。 「あ、俺に…m」  唯希に睨まれて、悠馬は渋々立ち上がって自分のカップにポットからコーヒーを注いで戻った。

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