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第27話

「そこですそこ!!」  車の後ろから酒井が指さしたのは、和風建築の一軒家。  時臣は荒々しく車をとめ、4人は車を飛び出した。  その途端『きゃあああ!』という女性の悲鳴。ブロック塀の空いた門を入り声のした場所に行くと、中年の女性が回覧板を落としてガタガタと震えていた。 「どうしました!」  酒井が警察ホルダーを見せながら近づき、女性が指差す方へ顔を向ける。  そこには庭へと入る竹のフェンスがあり、女性では背伸びしないと中は見えないが、高身長の時臣は中が見えた。瞬間中へ行こうとしたが、フェンスの扉が中から閉められている。 「クソが!」  時臣は蹴りを入れてドアを破壊し中へ入り込んだ。 「金井さん!」  金井は木から力なくぶら下がっている。  時臣はその足を抱き抱え首に負担がかからないようにすると、 「何か切るものないか!」  と自ら周りを確認すると、それを見て酒井が庭の隅の小屋へ入り、どうにか長い剪定鋏を持ってきた。 「唯希AED!」 「はい!」  ご近所の女性をケアして取り敢えず玄関の中に座らせて戻ってきた唯希は、そう言われ車に常備しているAEDを取りに走り、典孝は下ろされてくる身体を待った。 「まだ首が落ちていなかったので、時間は分かりませんがギリギリ助かるかもしれません。酒井さん、救急車を!」  ロープをハサミで切って、時臣が静かに金井を地面に横たえる間に、典孝に言われ酒井は救急車を要請した。 「心停止してます。ボス、心マできますか」  いつも少し惚けたような典孝が、ちょっとかっこいい 「ああ、講習は受けた」 「ではお願いします」  時臣が金井に跨り心臓マッサージを施し始めた頃に、一課長が手配したのか国上署の捜一メンバーがやってきた。 「令状はないが、家の中を捜索しろ。責任は俺が持つ。事件に関係ありそうなものは全て集めておけ」  酒井がそう指示を出し、メンバーが家の中へと入っていった。  時臣たちが蘇生を施しているのを見ながら酒井は一課長へ再び連絡を入れ、家宅捜査令状の申請と、金井の現状を報告する。 『絶対死なすなよ』  被疑者だからの前に、仲間だからの気持ちを込めた一課長のその言葉が酒井の胸に響いた。 「金井さん!金井さん戻ってこい!」  胸を強く押しながら時臣は声をかけ続ける。  典孝は血圧計を腕に巻き、定期的に測り、唯希はAEDを開けていつでも行ける準備をしていた。 「金井さん!戻れ!金井さん!」 「一度AEDかけてみます」  典孝が唯希が用意したAEDからパッド等を取り出し、説明書を見ずに体に貼って行く。 「行きます、離れて」  典孝がスイッチを押すと、金井の身体が大きく跳ねた。  直ぐに聴診器を当てた典孝が首を振る。  時臣はもう一度跨り心臓マッサージを繰り返し、典孝は血圧を調べながらも時々人工呼吸を施していた。  数分それを続け、もう一度AEDをすることに。  金井の身体が跳ね、典孝が心臓を確認すると今度は 「心拍確認できました…」  ほっとしたように典孝が呟き、その周りも胸を撫で下ろした。  横たわる金井の脇で、大きく息をついている時臣に酒井が近づき 「ありがとうございました。そしてお疲れ様でした」  と頭を下げる。 「何言ってんだよ、お前に礼を言われる筋合いねえよ」  ひー、きつかったわ!と顎を上げていると、頬に冷たいものが当たった。 「お疲れ様です」  唯希がアクエリアスをもって微笑んでいた。 「お!サンキュー!」 「はい典孝も。かっこよかったわよ」 「え、今気づいたんですか?」  典孝にも同じものを渡し、そう言われたことに 「はい!たった今気づきました!!!」  と返してから、 「ついでに酒井さんにも」  と酒井にも渡し、金井のそばに膝をついた。 「よかった…金井さん…ん?」  唯希はついた膝を上げて 「ここの地面…なんだか他より柔らかい気がする…」  そう言われて、ペットボトルを煽っていた時臣も体を起こし、金井の周囲を確認する。  横たわった金井が、ほんの少しだけ沈んでいた。 「なんだ?」  時臣が酒井の体の下に指を入れて手前に引くと指が引っかかる。 「ここは…一度掘ってあるな…」  そう、偶然ではあるが、金井の体は菜穂たちが埋められた長さの上にそのまま横たえられていたのだ。そこに時臣が跨り心臓マッサージという上から押すような動作をしたものだから身体が少しめり込んだのだろう。 「え?掘ってある?」  酒井も指を入れて確認すると、 「本当だ…なにかやったのかな」  そんな話の間に救急車が漸く到着し、救急隊員が金井を囲んだ。それに寄り添い典孝が経緯を説明している。 「金井さんが病院に運ばれたら、あの場所確認しよう」  時臣にそう言われて酒井はうなずいた。  救急車に金井が乗せられ、典孝と捜査員2名が付き添って病院へ出発する。  家の中は捜査員がさまざまなものを居間のちゃぶ台に置き、真っ先に確認された遺書とノートは酒井へ手渡されていた。 「金井さん…色々抱え込んでたんですね…」  ノートをパラパラとした時、出てきたもの等を見てなんとも言えない顔で酒井が呟き、時臣も唯希もこれまでにない事に複雑な顔をするしかなかった。  そして家宅捜索を終えた捜査員が、件の庭の土の柔らかい場所を掘って行くと 「うぁっくさ…」  ブルーシートに行き付き、それを確認した直後匂いで中身を察した捜査員は言葉を止めた。 「主任、この匂いは多分…」  ブルーシートの中は押して知るべしだろう…  時臣はサマージャケットの右腕で口元を覆い、唯希はハンカチでやはり顔半分を覆うと、捜査員がブルーシートを捲った中を確認した。  そこには抱き合うような男女2人の遺体。  夏場だったので腐乱しかけているが、頭髪で金井菜穂と近藤智史だということはわかった。  絶望の顔で酒井が舌打ちし、時臣と唯希もどうしてこうなったのかわからない事態に顔を歪め、そして手を合わせた。

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