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第8話

 結局煜瑾は、ワッフルを半分と、20個以上あったプチシュークリームを9つ食べただけで、残りは小敏と玄紀に譲った。2人は残りをペロリと食べ切り、満足した3人は、買い物を続けることになった。 「で、玄紀のお母さまには、それでいいの?」  ヨーロッパの老舗の陶器店で、煜瑾は来年のイヤープレートを購入し、玄紀の実家である申家の屋敷に配達を頼んだ。 「ええ。私が生れる前から、母から玄紀のお母さまへはイヤープレートを贈る習慣になっていたらしくて…」  煜瑾が、1つ仕事が終わった安堵感からほっこりした笑みを浮かべると、玄紀もほんの少し頬が緩んだ。 「母はずっと煜瑾のお母さまのことを『お姉さま、お姉さま』って。今でも『唐()のお姉さまなら、こんな時、どうされるかしら』って行動の指針にされるほど、尊敬されているのです」  煜瑾自身、玄紀の母のそんな言動に覚えがあるらしく、静かに微笑んで頷いた。 「ふ~ん。じゃあ、玄紀のパパは?」  小敏の問いに、煜瑾と玄紀はちょっと困った様子で顔を見合わせた。 「ナニ?」  2人の息の合った合図に、小敏は不思議そうに問い返す。 「申家のおじ様は、毎年お花をご所望されるのです」  煜瑾が答えると、玄紀は不服そうにソッポを向いた。 「お花?」  あの厳格なビジネスマンである玄紀の父が、お花が好きというのは思わぬギャップに小敏は感じた。 「それも必ず、黄色いミモザの花を希望されるのです」  天使の心の煜瑾でさえ、難しい顔を見せることが多い玄紀の父が、可憐なミモザにこだわることに苦笑する。 「ミモザ…ねえ」  小敏は何か思う所があったらしく、そう呟きながらスマホで何かを調べ始めた。 「花言葉は、…『秘密の恋』か…」 「え!」「は?」  花言葉を調べるという自分たちにはなかった発想に、煜瑾と玄紀は驚いて声を上げた。 「ま、まさか…申家のおじ様が…」 「父が…不倫?」  素直な性格の2人が顔色を変えたのを見て、小敏は慌てた。

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