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第10話
「じゃあ、それがおば様の誕生日とかじゃなくて、クリスマスプレゼントなのは、なぜだろう?」
今度は小敏が小首を傾げた。
「それは、もちろん普通の花束ではなく、クリスマスリースだからですよ」
煜瑾が訳知り顔でニッコリした。
「クリスマスリース?」
「ええ。申家のおじ様には、毎年ミモザのお花で作ったクリスマスリースをお贈りすることになっているのです。私はずっとミモザのお花にこだわっていらっしゃるのだと思いましたが、おそらくは『ミモザのクリスマスリース』に意味があるのですよ」
煜瑾の言葉に、玄紀はぼんやり考えた。
母が上海の暮らしに飽きて北京の実家に戻ったのは、玄紀が高校生になった頃だ。それまでも事あるごとに上海の家を空けては北京の祖父の大邸宅に戻っていた母ではあったけれど、もう戻らないと言ったのはあの頃だった。
そして、父が唐家からのクリスマスプレゼントにミモザのリースを希望するようになったのも、その頃だったのではないだろうか。
高校生の玄紀には、互いにクリスマスにはプレゼントを交換する習慣のある両家で、父が急に花を贈るように求めたのが、何か恥ずかしく思えた。
母が上海から去り、華やぎの欠けた自宅を少しでもクリスマスらしくしたいという思いだったのか、それともそれ以上の意味があったのか…。今まで玄紀はそんなことを考えたことも無かった。
「おじ様とおば様の間に、ミモザのクリスマスリースの秘密があるのかもね」
小敏が言うと、煜瑾も大きく頷いた。
物心ついた時には、母は1人息子である玄紀に関心が無かった。買い物や旅行やパーティーばかりで家を空けることが多かった。父もまだ仕事一辺倒の人であり、玄紀の将来の夢も関心が無いと思っていた。
北京の政治家の娘と、上海の富豪の息子の政略結婚で生まれた自分は、愛されなくてもしかたがないのだ、と玄紀はいつの頃からか諦めていた。
でも、もしかするとそうではなかったのかもしれない。
「ねえ、玄紀。今年のクリスマスは、親子3人でいろいろお話してみたらどうかな?」
「そうですよ、おじ様とおば様がお揃いになるクリスマスだなんて、何年ぶりでしょう。玄紀からおじ様とおば様にいろいろお話を伺ういい機会です」
小敏と煜瑾に背中を押されるように言われ、葛藤を抱きながらも、今年のクリスマスは何かが変わるかもしれない、と思う玄紀だった。
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