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第1話
列車の窓から見える景色が、田んぼと電線に変わった。いつ来てもこの田園風景は変わらない。所々、新しい建物はあるけれど、俺が住んでいる街よりもかなり田舎だ。
俺に冷凍みかんを渡しながら、母さんが上機嫌に話す。
「郁真 、勘治 くんは今年もおみこし担ぐんだって」
「そっか~。俺、今年も楽しみにしてたんだ」
隣で父さんも、冷凍みかんをむきながら、懐かしい故郷を思ってか、目を細めている。
「父さんの若かったころはな、青年団の人数も多くて賑やかだったが…。年々、人数が減っているらしい」
少子化に加え、都会に出て行く若者。田舎は年寄りばかりになって、夏祭りのおみこしを担ぐのも、四、五十代の人が多い。
その中で、七歳年上で今年二十三歳の、いとこの勘治兄ちゃんは、青年団で頑張っている。村の消防士として地域の安全を守りながら、ボランティア活動までしている。
背が高くて肌が浅黒く、体つきもガッシリしていて、俺のヒーローなんだ。縁日の射的はうまいし、蝉取りだってザリガニ釣りだって。
憧れの勘治兄ちゃんに会うため、毎年八月の夏祭りの季節には、田舎に帰る。もう十六にもなれば、友達と遊びに行くかバイトに明け暮れるけど、俺はこの時期、両親とともに田園風景の広がるこの地に来るんだ。
「まあ、よう来たね。さあさ、暑いでしょ、中に入って」
いつもハイトーンな声の伯母さんの出迎えを受けて、俺たちは縁側のある部屋で冷たい麦茶と冷たいスイカでもてなされる。
「義姉さん、香澄 ちゃんは、お元気?」
「元気よぉ。電話で十キロも太ったって言ってたわ。臨月だから、今年は来れないって」
風鈴の音、庭の朝顔、毎年変わらない光景だ。夕方になると、なんとこの辺りでは、豆腐屋さんがラッパを鳴らして通るんだ。トラックで走りながら、だけど。
「伯母さん、勘治兄ちゃんは?」
「勘治ねえ、昨日は夜勤だったのよ。少し仮眠を取ってるから、夕食には顔を出すわ」
消防士だもんな、大変だろうな。火事の中、人を救助する兄ちゃんの姿を想像して、ますますヒーローだなって思った。
夕食は、伯母さんと母さんがご馳走を作ってくれた。伯父さんも加わり、賑やかな時間になる。勘治兄ちゃんのお姉さんの香澄姉ちゃんは、出産間近だから残念ながら来られないそうだ。
障子が開いて、鴨居すれすれなんじゃないか、ってほどに背が高い勘治兄ちゃんが現れた。
「こんばんは、叔父さん、叔母さん」
兄ちゃんがぺこりと頭を下げる。俺の両親も兄ちゃんに挨拶する。
「久しぶりだな、郁真!」
タンクトップ姿の兄ちゃんは、肌がよく灼けていて、腕や胸も筋肉質で、バミューダパンツから伸びた脚も、下腿三頭筋がくっきりでカッコいい。
兄ちゃんは、俺の向かい側にドカッと腰を下ろし、あぐらをかいた。
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