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第2話
「郁真、高校の勉強はどうだ?」
兄ちゃんはビールを飲みながら、俺に聞く。
「去年、受験勉強は勘治兄ちゃんに教えてもらったからよかったけど、入学してからが難しーんだ。無理数の証明とか」
「宿題持って来てるなら、後で教えてやるぞ」
「うん、持って来てる! ありがと、兄ちゃん」
伯母さん特製のぬか漬けやら唐揚げやらを頬張り、俺はずっと兄ちゃんと話してた。父さんも伯父さんも、飲むときはご飯を食べずおかずばかりだけど、兄ちゃんは大きな茶碗で飯をかきこむ。ビール飲んで唐揚げ食べて、ぬか漬けのキュウリやナスをご飯に乗せて、ワシワシとかっ食らう。兄ちゃんの食べ方は、漢 って感じがする。
「郁真、明日の祭り、行くよな?」
「うん、それが楽しみで来たんだ」
射的も焼きとうもろこしもいいけど、俺が一番楽しみなのは、兄ちゃんがおみこしを担ぐとこ。神社を出発し、威勢のいい声で、鉢巻とふんどし連中が周囲を一周する。
これぞ男の世界!
…まあ、俺は見てるだけだけど。
翌朝、朝食後すぐに勘治兄ちゃんに連れられて、神社まで来た。縁日の屋台はあるけど、まだシートがかぶせられて準備中だ。
「実は、郁真に頼みがあるんだ」
そう言われて引っ張られた先は、神社の社務所。二十畳ほどの畳敷きの部屋に長机と座布団、大きなアルミのヤカンに、丸っぽい湯のみがたくさん。数人の男性がいる。
「おはようございまーす」
兄ちゃんの挨拶に、中の男性全員がにこやかに挨拶する。
「勘治、その子か?」
四角い顔に角刈り、体つきも柔道の選手みたいにどっしりしていて、全体的に四角っぽい。失礼だけど“下駄”ってアダナがつきそうな男性が、俺に向かって微笑みかける。
「はい、青年団の助っ人です!」
勘治兄ちゃんは、俺の肩を勢いよく叩く。
「そうかそうか~。いやあ、よかった。青年団だけだと、人数が少なくてな」
“下駄さん”は、首にかけたタオルで額の汗をぬぐう。
「体力仕事だけど、お昼は神社からスタミナ弁当が出るからな、それで力つけるんだぞ」
今度は“下駄さん”から肩を叩かれる。
頭の上にクエスチョンマークしか出ない俺は、兄ちゃんを見上げた。
「郁真、お前も今日のみこしを担ぐんだ」
みこし…。
みこしって、えーと…。
えええーっ!
俺がふんどし締めるのー?!
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