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第77話(※R18)
アルフォルトは、ずっと考えていた。
ライノアと、どうしたいか、どうなりたいのか。
「······明日国へ帰るライノアに、こんなお願いはするべきじゃないって、わかってる」
瞼を閉じれば、自分の心臓の音がやけに耳に響いた。
アルフォルトの「好き」とライノアの「好き」は違うのだと、いつだったかライノアは言っていた。
好意の違いなんて、とアルフォルトは思ったが、キスをして、身体に触れて、ライノアが言う「好き」の意味を理解した。
最初は戸惑うばかりだったのに、いつしかアルフォルトから触れたい、と思うようになっていた。
自分に欲情するライノアを知り、たまらなく嬉しいのだと気づいた。
その感情が、恋だと知ってしまった。
だから──。
「僕を抱いて。ライノアを、僕に刻みつけて······忘れないように」
ライノアが自分のものだった確かな証が欲しい。
それがどれだけ我儘で、傲慢な願いなのかわかっている。
でも、アルフォルトは望まずにはいられなかった。
ライノアが今どんな顔をしているのか、俯いているアルフォルトにはわからない。
もしかしたらもう、ライノアは自分の事など好きじゃないかもしれない。
国へ帰るから、と感情に折り合いをつけているかもしれない。
返事がない事を不安に思い、繋いでいた手が震えそうになる。
沈黙に耐えられず、おそるおそる顔を上げると──ライノアが、深くため息を吐いた。
思わずビクっと肩を震わせた次の瞬間、アルフォルトはライノアの腕の中にいた。
「······ライノア?」
「······人の気も知らないで」
「ご、ごめん」
やはり迷惑だっただろうかと素直に謝れば、ライノアはさらに強く抱き締めてきた。
「さっきまで、このまま私達は王子と従者という関係のままお別れするべきなのだと、ずっと自分に言い聞かせていました。──ちょっと、今更な気もするんですけどね」
思わず赤面したアルフォルトに、ライノアは苦笑いした。
ただの主従関係にしては、深いところまで触れ合い過ぎている。
「貴方はこれから、もっと沢山の人と出会い、世界が広がる。もしかしたら今後、身を焦がす程の恋に落ちるかもしれない。──そしたら初めてを、どうしてあの時許してしまったんだと、後悔するかもしれない」
どこか堪えたように、ライノアは呟いた。
「私という枷は、無い方がいい」
なんで今更そんな事を言うんだ、とアルフォルトは思う。
好きだと最初に言ったのも、この気持ちに気づかせたのも、全部ライノアだ。
──そこまで考えて、アルフォルトは気づいた。
(僕、まだライノアに気持ち伝えてないじゃないか)
どうしてその事に気づかなかったのだろうと、アルフォルトは自分に呆れた。
「だから、アルフォルト」
なおも言い募るライノアを制し、アルフォルトはじっと見つめた。
「好きだよ、ライノア」
見開かれた蒼い瞳に、自分が映り込む。
「僕は、ライノアが好きだ。この世の誰よりも好きだし、これからもずっと好き。離れても、どこにいても、ライノアの事だけが好き」
自分の気持ちを、言葉に乗せて伝える。少しでも多く、この気持ちを理解して貰う為に。
「ライノアに抱かれたいと思うのは、僕の意思で······この先絶対に後悔しないと約束する。だから──」
この後の言葉は、紡げなかった。
それは拒否されたからではなく、ライノアの唇が、アルフォルトの唇を塞いだからだった。
唇が離れると、ライノアの熱く揺らめく瞳と目が合う。
今、ライノアの目には自分しか映っていない。自分だけ見つめる眼差しが、切なげに細められた。
「私も、好きです。アルフォルト」
再び口付けたライノアを、アルフォルトは強く抱き締めた。
「······ふっ、ぁ」
全身に口付けを落とされる度、アルフォルトの身体が跳ねる。
ライノアの手で一糸まとわぬ姿にされたアルフォルトは、恥ずかしくてつい顔を手で覆った。
すかさずアルフォルトの手を絡め取ると、頭の上に纏めて緩く押さえ付けてくる。
「隠さないで······乱れる貴方の顔、ちゃんと見せて」
耳元で低く囁かれ、アルフォルトは肩を竦める。
(ライノアが、ライノアじゃないみたいだ)
普段とは少し違う強引なライノアに、いつも以上に心臓がドキドキする。
「んっ」
首筋を強く吸われ、鎖骨を食まれ、熱い舌がアルフォルトの薄い胸を辿る。触られてもいないのに、硬くなった胸の飾りを舌先で転がされると、アルフォルトは堪らずライノアの頭を押し戻そうとし──しかし、上手く力が入らず、まるで縋るように頭を抱え込んでしまう。
「ゃだ、そんな······何も出な、いのに、······ぁあっ」
一際強く吸われ歯を立てられると、唇から高い声が零れる。
空いているもう片方を指先で撫でられ、徐に爪で引っ掻かくように刺激されて、アルフォルトの身体が跳ねた。ようやく解放された乳首は、執拗に吸われたせいで赤くぷっくりとしていて、唾液で濡れた様が堪らなく淫靡に見える。
涙目で睨むと、ライノアは「可愛い」と呟いて唇を重ねてきた。
舌を絡め取られ、お互いの唾液が混ざり合う。飲み込み切れなかった唾液が唇の端から零れ、その感触にすら身体が甘く震えた。
「んぅ、ふ······っあっ!?」
肌を辿る指先が少しづつ下がっていく。脇腹を撫で、足の付け根を擽られ、アルフォルトは思わぬ刺激に唇を離した。
「それ、やだ······くすぐったいッ、ぁっ」
足の付け根を執拗に撫でる指先は、もどかしい刺激でアルフォルトを苛む。無意識に頭を振ると、ライノアは耳元で囁いた。
「擽ったい、だけじゃないでしょう?」
「······ライノアの、いじわる」
アルフォルトに睨まれ、苦笑いしたライノアは身体を少し離し、纏っていたシャツを脱ぎ捨て──鍛え抜かれた身体が顕になり、アルフォルトは思わずコクリ、と喉を鳴らした。
(綺麗な、身体)
左肩の古傷も、身体中にある細かい傷も、全てがライノアが生きてきた証のようで、アルフォルトは思わず指を伸ばした。
肩の傷を撫で、鍛えられて綺麗に割れた腹筋をなぞると、ライノアがピクっと身体を揺らして笑う。
「ルト、擽ったいです」
「······綺麗に筋肉がついてる」
「そんなに情熱的に見つめるなんて、アルフォルト、いやらしいですね」
ニヤリ、と笑うライノアの言葉に、アルフォルトは赤面した。
「なっ······そんなつもりは」
「まぁ、これから私はもっといやらしい事、ルトにするんですけど」
あわあわと慌てるアルフォルトの額に口付けたライノアは、アルフォルトの膝頭を掴むと左右に開いた。
「え、ちょっとライノアっ!?何す······ひぁっ?!」
羞恥に非難の声を上げた途端、反応していたアルフォルトの昂りが、熱いものに包まれた。
「やだっ······そんなとこ、ぁ······ぁあッ」
舌で愛撫される初めての感覚に、背筋を突き抜けるような快感が沸き起こる。
裏筋を辿るように舌が這い、内腿が震えた。
舌先で先端の窪みを刺激され、逃げ場のない快感に翻弄される。ライノアの口に、自分のが含まれているという事実だけで頭がどうにかなりそうだった。
丁寧に奉仕するライノアと目が合い、顔から火が出そうな程恥ずかしくて、アルフォルトは涙をボロボロと零しながら、シーツを強く握りしめた。
「だめぇッ······もぅ離し、ッ~~ぁああ─────」
一際強く吸われ、アルフォルトは頭が真っ白になる。堪え方もわからず、呆気なく達した。口の中で弾けた欲望を、ライノアはあろう事かそのまま飲み込む。喉仏が上下し、ライノアは口の端に残った精液を舌で舐めた。
そのまま口付けようと再びアルフォルトに覆いかぶさり──何かに気づいたライノアは、サイドテーブルに置かれた水差しを手に取ると口をゆすいでいた。
上手く動かない身体で見つめていると、ライノアは少し気まずそうに苦笑いした。
「······流石にそのまま口付けるのは嫌かな、と思いまして」
「······ッ、じゃあ、飲まなきゃいいじゃん!!」
そういえば、前に触れられた時もアルフォルトの出したものを舐めていた事を思い出す。荒い呼吸のまま睨んだアルフォルトの頭を撫でて、ライノアは鼻先に口付けを落とした。
「······人間って、食べた物が身体を作るっていうじゃないですか」
「ん?」
「だから、今ので私の身体を······なんでもないです」
急に何を言い出すのかと訝しむアルフォルトに、ライノアは何かを言いかけて辞めた。
アルフォルトも深くは考えない事にした。
それから──。
「ねえ。もしかして、僕を抱くの躊躇ってる?」
ライノアの言動に、アルフォルトは先程から感じてる違和感の正体に気づく。
「······ここまで来て気づいたんですけど、潤滑油的な物を用意してなかったので······初めてなら、尚更必要かと」
少し困ったように笑うライノアに、アルフォルトは少し俯いて──ベッド脇のサイドチェストを指差した。
「······引き出し、開けて」
言われるままに、ライノアは引き出しを開け──目を見開いた。
「······その、ちゃんと用意して、貰ったから」
消え入りそうな声で、アルフォルトは顔を真っ赤にした。
ライノアが手にしたのは、身体を繋げる時に使う香油で、昼間の内に用意して貰った。
メリアンヌやレンに頼むのは何だか恥ずかしくて、アルフォルトはどうしようかと悩みに悩んで、シェーンに事情を話して用意して貰った。それでも顔から火が出そうな程、アルフォルトは恥ずかしかったが、優秀なメイドは顔色ひとつ変えずに準備してくれた。
「つ、使って、ソレ」
震える声で促すと、ライノアは何故か納得した顔で香油を見つめた。
小さな小瓶にはいったそれは、ほんの少しだけ媚薬の成分が入っている、らしい。
「······なるほど。だからシェーンから一日中殺意を感じてた訳ですね」
「なにか言った?」
「いえ、なんでもないですよ」
ライノアは苦笑いすると──アルフォルトを見つめた。
「怖くなったら、遠慮せずに言ってください。すぐにやめますから」
トラウマの事を考えてくれているのだろう。どこまでも優しく気遣ってくれるライノアの手をそっと握った。
「······怖くない、と言ったら嘘になる。でも」
言葉を区切り、ライノアの蒼い瞳を見つめた。
「ライノアなら、大丈夫」
微笑めば、ライノアは目を眇めて頷いた。
蓋を開けて、手のひらに香油をたっぷり取ると、アルフォルトの蕾に指先で触れた。
「ぁ、······ぅ、んッ」
人に触れられる事のない秘めた場所は、硬く閉ざされていて、香油を塗り込むように指で解される。
何度か往復すると、つぷっと指先が蕾の中へと入り込んだ。
「ぅ、ぁ······んんっ」
「痛くないですか?」
「んっ、痛くは、ないんだ、けど······変な感じ」
身体の中をまさぐる様な異物感に眉を寄せる。
一度引き抜かれた指に再び香油を足し、再び奥へと指を進める。抜き差しされる度に、ぐちゅぐちゅと濡れた音がし、アルフォルトは羞恥心に目を瞑った。
何度か同じ事を繰り返し、ライノアの指が二本に増えた時、それは起こった。
「あッ······」
長い指が胎の中のある一点に触れた瞬間、背筋を突き抜けるような快感がアルフォルトを襲った。
「ここが、ルトの良い所なんですね」
どこかホッとした顔でライノアが呟くと、見つけ出したその一点を集中的に刺激しはじめた。
「なに、が、······ゃ、ぁああっ、だ、めっ」
初めて中で味わう快感に、アルフォルトは戸惑う。昔襲われた時は、ただただ痛かった記憶しか無く、ライノアに抱かれたい反面、痛みに対する恐怖は拭えないでいた。
それなのに、今アルフォルトの中で蠢く指は、腰が砕けそうな程の快感を与えてくる。
触られてもいないのに、再び反応し反り返った昂りが、アルフォルトの下腹部に当たり、先走りの蜜を零していた。
「ぁあッ······ぅ、あ······ッそこばっかり、ゃだ」
ライノアの指に翻弄され、アルフォルトは声を抑える事も出来ない。
強すぎる快楽に視界がチカチカと明滅し、早く解放されたくて──ふと、ライノアの指がずるりとアルフォルトの中から引き抜かれる。
「っ、なん、で······?」
いつの間にか三本に増やされていた指を咥え込んでいた蕾は、突如喪失感に見舞われる。中途半端に解放されたせいで、快楽の果てが行き場を失い、アルフォルトは軽くパニックになっていた。
(苦しい、はやくどうにか、して······っ)
涙目でライノアを見つめれば──ライノアの目は情欲に揺らめいていて、アルフォルトの鼓動はさらに速くなる。
ライノアは深く息を吐くと、ズボンのフロントを寛げ、すっかり反応しきって反り返る昂りを取り出していた。
見るからに凶暴そうなソレに、思わず息を詰めていると、蕾に先端が触れた。
「······力を、抜いてて下さいね」
そう呟くと、アルフォルトの足を抱え、ライノアはぐっと腰を進めてきた。
「······あっ······いっ、」
熱い先端が後孔を押し広げるように、ゆっくりと入り込む。慣らされたとはいえ、本来異物を受け入れる器官ではないそこはとても狭く、身体を引き裂かれそうな痛みにアルフォルトは悲鳴をあげた。
「ぅぐっ、······ぃ、た······ッ」
ボロボロと涙目を零すアルフォルトの頬を、ライノアの指がなでる。
「っ······すいません、痛い、ですよね」
深く息を吐き出すライノアも、おそらく苦痛を感じているのだろう。
腰を進める度に痛みが押し寄せ、シーツを握る手に力が籠る。
「っぅ、······~~ッ」
呼吸もままならないアルフォルトを痛ましげに見つめ、ライノアは言った。
「······待って下さい、今抜きますから」
そっと身体を離そうとしたライノアに気づき、アルフォルトは咄嗟に腕を掴んだ。
「や、だめっ······やめないで」
「しかし、貴方が辛そうだ」
涙を拭うライノアに、アルフォルトは首を振った。
きっと、やめてと言ったら、ライノアはすぐにやめてくれる。中途半端になっても、責める事もせず、身体を気遣ってくれるだろう。だから、どんなに苦しくても「やめて」とは言えない。
──それに。
「痛い、けど······ライノアがくれる痛みなら、嬉しい」
身体を引き裂かれそうな痛みは、確かに辛いがそれ以上に、ライノアに与えられているとのだと思えば、痛みすら愛しく思える。
涙目のまま微笑めば、ライノアは低く唸り──貪るようにアルフォルトに口付けた。
「んんっ·····ふ、ぁ」
ようやく解放されると、ライノアは眉間に皺を寄せてアルフォルトを見つめる。
「······らい、のあ?」
「······貴方が煽るから──辞めてって泣き叫んでも、もう辞めてあげられなくなりました」
そう言うと、痛みですっかり萎えたアルフォルトの性器に手を伸ばし、ゆっくりと扱き始めた。
「ひぁっ、んっ」
先ほどまで快楽の余韻の中にいた昂りは、すぐに硬さを取り戻して、ライノアの与える刺激に翻弄される。
「あ、ぁっ······」
「······そう、気持ちいい方に意識を持って行ってください」
アルフォルトの昂りを刺激しながら、ライノアはゆっくりと腰を進めた。
自分も苦しい筈なのに、ライノアは無理やり貫く事はしなかった。
じりじりと、アルフォルトを犯す熱が、無意識に呼吸を早くする。身体の中で脈打つ自分以外の存在を、アルフォルトは胎の中で感じた。
「······ルト、息をゆっくり吐いて」
「······っ、はぁ、あ」
一番太い所を飲み込むと、その後は然程抵抗もなく、ようやくライノアの全てを受け入れる。
(全部、入った······)
指とは比べ物にならない圧迫感に、アルフォルトは深く息を吐きだした。
アルフォルトの汗で張り付いた前髪を指先で梳いて、額に、頬に、唇に。ライノアは次々と口付けを落としていく。
擽ったくて思わず笑うと、ライノアも微笑んで──瞬きと共に、涙を零した。
ライノアの涙なんて、見たのはいつ以来だろうか。
「······ライノア」
「あの日、私を拾ってくれてありがとう、アルフォルト。貴方の傍で生きられて、私は幸せでした」
ずぶ濡れで、痩せっぽちで傷だらけの子供だったあの日のライノアは、もうどこにもいない。
「貴方が、私に沢山の感情を教えてくれたから、今の私がいる」
アルフォルトの手を取り、薬指に口付けると、囁くようにライノアは言った。
「······愛してます、アルフォルト」
落ちた涙が、アルフォルトの頬を伝う。
そっと指を伸ばしてライノアの涙を拭い、アルフォルトもライノアの額に口付けた。
「僕も愛してるよ、ライノア」
嬉しくて、胸が締め付けられて、幸せで。
みっともないくらい声が震えてしまったけれど。
ライノアが幸せそうに笑うから、アルフォルトも声を上げて笑った。
(愛してる、誰よりも。······本当は離れたくない)
でも、それを言ってはいけない事くらい、アルフォルトにもわかる。
お互い、王子という立場を嫌という程理解している。好きだからという理由だけで、傍にはいられない。
だから、こうして忘れないように、肌に刻みつけようとしたのだ。
ライノアが、自分のものだった証を。
ライノアのものにして貰った痕跡を。
今だけは身分も何も関係なく、普通の恋人として肌を重ねて。
朝が来れば消える、泡沫のような恋に溺れている。
(幸せなのに、苦しいな)
──朝なんて、永遠に来なければいい。
「······そろそろ、動いても大丈夫ですか?」
ライノアの問いに、アルフォルトは頷いた。
「大丈夫──ライノアの、好きにして」
首に手を回して、ライノアを見つめると、膝を抱え直してライノアがゆるやかに抽挿を始めた。
「痛くないですか?」
「ぁあ、んっ、大丈、夫だけど······ぁっ、ライノアの、すごく熱い·····ッ」
思わず呟くと、ライノアが低く笑った。
「貴方の中も熱いですよ。溶けてしまいそうだ」
気遣うように動いていた腰の動きが徐々に早くなる。胎の中を穿つ熱い楔に、アルフォルトは圧迫感や苦しさ以外の感覚を覚えはじめた。
「あっ······そこ、さっきも、ッぁああっ」
指先で触れられた時にも感じた、腰が砕けるような感覚に、アルフォルトは悲鳴を上げる。指では届かなかった奥の方を擦られて、アルフォルトは思わずライノアの背に爪を立てた。
「ッ、気持ち、いいですか?」
腰を打ち付けられ、快感に震えながらアルフォルトは頷いた。
甘ったるい悲鳴は、間違いなく自分のもので、声を抑える事も出来ない。
さっきまであれ程痛くて苦しかったのが嘘のようで、全身が甘く痺れる。
「らぃのあ、も······あっ、気持ち、いぃ······ッ?」
先程までライノアも苦しそうだったのを思い出し、おずおずと尋ねれば、アルフォルトの耳に唇を寄せて囁いた。
「っ、気持ちいいですよ」
困ったように笑うと、アルフォルトの腰を抱え直した。そのまま性器が抜け出しそうなギリギリまで引くと、一気に突き上げられて、アルフォルトは頭が真っ白になり、視界がチカチカと弾けた。
「ひぁああっ───────ッ」
たまらず、アルフォルトは白濁を吐きだした。
びくびくと震える身体は脱力感に見舞われ、しかしアルフォルトの昂りはまだ衰えていなかった。
荒い呼吸を繰り返すアルフォルトの頭を撫でて、ライノアはまた反応し始めたアルフォルトの性器に手を伸ばし、指を絡めて動かしはじめる。
「やッ······一緒は、だめぇっ、ぁ······あたま、おかし、く、なるッ······ぅあっ」
後ろも前も同時に刺激され、アルフォルトは強すぎる快感に、言葉も途切れ途切れになる。
「っ、じゃあ·······一緒に、おかしくなりましょうか」
ライノアの声も上擦っていて、ライノアも気持ちいいのだと思うと、たまらなく嬉しくなった。
(このまま、時が止まればいいのに)
身体を揺さぶられる不安定さに、力の入らない手でシーツを握りしめると、ライノアはアルフォルトの手を取り、自分の指を絡めた。
背筋を突き抜ける快感に喉を逸らすと、ライノアが噛み付く。そのまま首筋や鎖骨を強く吸い、身体中に征服の痕を残していく。
「いっ······ぁあん······ッ」
痛みすら甘く、与えられ続ける刺激に内腿が震える。
先程出したばかりなのに、もうアルフォルトは限界が近かった。
「っ、はぁ······アルフォルトッ」
先程よりも激しく腰を打ち付けられ、ばちゅんっと濡れた音に鼓膜まで犯される。
ライノアの呼吸も荒く、普段の澄ました顔からは想像出来ない程に艶めかしい。こんな姿を知ってるのは自分だけなのだと思うと、アルフォルトは息が出来なくなりそうだった。
一際強く最奥を穿つ熱い楔に、アルフォルトの背中が弓なりにしなった。
「ッ、ぁぁあああ──────ッ······」
「くっ······」
達したのは、ほぼ同時だったように思える。アルフォルトは胎の中が熱く濡れるのを感じ、身体が甘く震えた。
お互いに荒い呼吸を繰り返し、どちらともなく口付けた。
身体は甘い疲労感に包まれ、お互いに汗ばんだ身体で抱きしめ合う。
蒼い瞳は揺らめいていて、ずっと自分を捉えて離さない。全てをその目に焼き付けているようにも思えた。
──いつまでも、覚えていてくれるだろうか。この、幸せだった記憶を。
そうだったらいい、とアルフォルトは思った。
(······行かないで、ずっと、傍にいて。僕の、僕だけのライノアでいて)
そう、言えたらいいのに。
つい、口にしてしまいそうで、アルフォルトは決して言わないように、何度も何度もライノアに口付けた。
♢♢♢
「ルト、大丈夫ですか?」
ベッドの上でぐったりとしているアルフォルトを、ライノアは心配そうに覗き込んだ。
「ッ、誰の!せいで!······大丈夫なわけ無いだろ!!」
ライノアの腕の中でアルフォルトは吠えると、ライノアの顔に枕を押し付け──腰に痛みが走り唸った。
あの後、ライノアはアルフォルトを解放してくれなかった。
もう無理だと言っても「あと少しだけ」といってアルフォルトの身体を何度も貫き、快楽に溺れ続けていた。······最後の方は正直言って記憶がない。
「好きにして、とは言ったけど、僕一応初めてだったんだからね!?」
押し付けられた枕を元に戻し、ライノアは苦笑いした。倦怠感と疲労感と、身体のあらぬ所が痛い。
行為の後、指先一つ動かせなくなったアルフォルトを湯浴みさせ、着替えさせてくれたが、動けなくなった原因はライノアだ。
アルフォルトは頬を膨らませてライノアを睨む。
「······すみません、貴方が余りにも煽るから──興奮して箍が外れました」
明け透けな物言いに、アルフォルトは思わず赤面した。
「なっ······あ、煽ってない!!」
「いや、あれはどう考えても煽ってました」
「絶対違う!!ライノアの馬鹿!変態!」
「馬鹿で変態で結構。貴方がそうさせたんですから」
程度の低い言い争いをしている事に気づき──お互いに顔を見合わせて笑った。
少し気怠げなライノアが色っぽくて、アルフォルトは思わずドキリとする。洗いっぱなしの髪、全部閉じていないシャツのボタン。普段のかっちりしたライノアとは違う、アルフォルトだけが知る事後の甘い雰囲気。
(······大人の色気って感じ。ライノアじゃないみたい)
真っさらになったシーツに身体を沈ませ、温かいライノアの腕の中にいると、次第に瞼が重くなる。
「──ルト、眠いですか?」
優しい声が、アルフォルトの鼓膜を震わせる。首を振ると、苦笑いする気配がした。
「ねむく、ない······」
(だって、眠ってしまったら──)
次に目を開けたらそこにはもう、ライノアはいない。
「アルフォルト」
「やだ······ねたくない······」
抱かれた疲労感と、ライノアの腕の中にいる安心感で、瞼を開いていられない。
頭を撫でるライノアの指が気持ちいい。
アルフォルトはライノアのシャツを掴む。堪えていたのに、瞼から涙が零れ、意識がだんだんと遠のいていく。
(······ライノアのいない明日なんて来なければいい)
ライノアはアルフォルトの涙を拭うと、額に口付けた。
「愛してる、アルフォルト──······」
何か、大切な事を言っているような気がするが、聞き取れず──アルフォルトの意識はそこで途切れた。
朝、アルフォルトが目を覚ますと、ライノアはもう、どこにもいなかった。
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