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第1話
白いスーツの男がいる。逆光と、スーツと同じ白の帽子で鼻から上は見えないが、口元は見える。ゆるく弧を描いて微笑んでいる。
薄い唇は、ほのかに赤い。耳にセミの声が聞こえてくる。どんどんセミの鳴き声が近づき、劈くような音になる。
『ーーー』
目が覚める。
***
小さい頃から、変なものを見てた。黒い靄の様なもの。そんな俺を見た両親は、生きにくかろうと祖父母に頼った。俺はアレらが幽霊や妖怪という類のものだと、今ではわかっている。
この町に来て、衝撃を受けた覚えがある。その辺を歩けば普通にいるからだ。何なら、実体を持っているのか普通に会話をして笑っていたからだ。
ばぁちゃんが言うには、この町に昔からいるのだとか。害はないが、か弱いやつらだから優しくしてやれと言い聞かされて育った。
俺が気に入っている奴らもいる。黒くて、丸くて、ふわふわしたやつ。持ってみると感覚は曖昧だが柔らかく、雲を持つとこんな感じなのかと思う。
水と金平糖、砂糖水をあげると喜んでいるのか飛び跳ねて足元に擦り寄ってくる位には人懐っこい。
このふわふわを見える俺は、珍しいらしい。実体を持てないのか、元々持たないのかはよく知らない。
『昔はねぇ、見える人がいっぱいいたらしいのよぉ。』
ばぁちゃんはそう言っていた。だから、見える事を不安がるな。そう言われた。
「美味いか?」
黒いふわふわが俺の足元に寄ってくる。下駄を履く俺の足に触れる感触は曖昧。喜んではいるんだろう。
「ミオちゃん、朝ごはんが出来たわよ〜。」
「今行くよ、ばぁちゃん。」
ここは神様が腰を下ろし休む町。
ここは神様が坐り見守る箱庭。
神坐町
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