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第2話
この町は、地理的には山の中腹でトンネルの先に位置する。麓の街から、大通りを道なりに進み山道に入る。そのまま道なりに整備された道を進みトンネルを通り抜けると、この町につく。
これといった目玉はないが、穏やかに生活出来るのは良いと思う。観光客も少しはいる。大体見える人で、この町に越してくる前提で観光に来るらしい。他に少数派観光客として、伝承や昔の話に興味があるとかいうもの好きが来る。フィールドワークとかも。会話してはテンション上がって、妖怪達がドン引きしてるとこを何度か見た。
なんだったら今、まさにその現場に遭遇した。
『助けておくれ澪 や!』
豪華な和装の女性が、俺に向かってくる。それを追いかけてくる同じ制服の誰か。
「何で隠れるの!?てかミオって誰!?」
『この子じゃ!!澪や、妾を追いかけてくるんじゃこの小童!!』
「落ち着け、朝露。」
威嚇する猫の様に呼吸する朝露を置き、正面の制服姿を見やる。同じ制服、バッジも同じ色だから同じ学年だろう。金髪で、カラフルなヘアピンがいくつも付いている。
「どちら様?朝露は、あまり男に慣れていないから追いかけたり声を掛けたりはやめて欲しい。」
俺がそう言うと、金髪の眉がへにょんと下がった。それを見た朝露は、俺の後ろから小声で言ってきた。
『この小童…犬みたいじゃな…。』
そういうお前は、チョロすぎるな。と思うに留めた。
「お、俺…最近越してきたから……知らなくてごめんね…」
これが演技だったら大したもんだな。と思ったが、とりあえず遅刻しそうなので分かればよろしい。と許した。
「朝露。朝露もそろそろ慣れろ。」
『ぐ…ぐぬ…』
ぐぬぐぬしながら踵を返し去った朝露を見てから、金髪に振り返る。まだ犬になってる。
「俺、嫌われたかな…」
「ない。」
「そ、そう?言い切っちゃう?凄いね?えっと、ミオ、くん。」
「澪で良い。お前誰だ?」
「えっと、俺ハジメ。基礎の基に、始まりって書くの。」
「ふぅーん。遅刻しそうだし、歩いていいか?」
「あっ!俺も行く!」
「うん。」
ハジメを連れて歩きながら、自分の名前が佐々木澪という事。お互い下の名前で呼び合う事。ハジメの事を聞いた。
基 始。童顔の金髪。身長は同じ位。両親が離婚し、父方に付いてきたらしい。母親は男と逃げたとか。
「とーちゃん、ここの出身でさ。あ、とーちゃんは絵本描いてんだ!!だから俺今も絵本好きでさーーー」
めっちゃ喋る。こいつ。話す事が苦手な俺には助かるが、朝露は確かに苦手なタイプではあるだろう。彼女は、静かで緩やかな空間を好む。だから朝方の散歩が好きだし、夕方も川沿いをのんびり歩いてるのを見掛ける。
「でさ…その…学校ってどこ…?」
「は?」
「俺、その、今日からなんだよ、ね…学校…」
「は、早く言え!!バカ!!」
勿論走った。
校門に辿り着く為の坂も走った。
説明があるから、早めに来いと言われて来たのは良いが。道に迷って誰かに聞こうと朝露に話しかけた結果が、アレだった。
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