fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
鈴木さんちの家政夫 第10話 嵐のあと | ユキヤナギの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
鈴木さんちの家政夫
第10話 嵐のあと
作者:
ユキヤナギ
ビューワー設定
10 / 13
第10話 嵐のあと
彩葉
(
いろは
)
が取材で家を空け、
和葉
(
かずは
)
も仕事で留守にしている時間に、
梨花
(
りか
)
が一人で訪ねてきた。 「こんにちは。今日、
智樹
(
ともき
)
くんが家に一人だって聞いたから遊びに来たよ」 そう言って、梨花はケーキの箱を智樹に差し出す。 「はい、これお
土産
(
みやげ
)
」 「え、あ……どうもありがとうございます」 突然のことに困惑する智樹を尻目に、梨花はさっさと靴を脱いで家に上がりこむ。 智樹は慌てて後を追い、事情を尋ねる。 「すみません、あの……僕、和葉さんから何も聞いてないんですけど、今日ここに来るっていう話になってたんですか?」 「和葉には言ってない。私が勝手に来ただけ。今日はシフトが休みで暇だったし、彩葉もいないって聞いたから、この
隙
(
すき
)
に智樹くんと
親睦
(
しんぼく
)
を深めておこうかなと思って」 梨花は慣れた様子で廊下を進み、リビングに入るとソファへ腰掛けた。 「ケーキ食べながら、お茶しようよ。私、紅茶よりコーヒーがいいな」 すっかり梨花のペースに飲まれてしまった智樹は、戸惑いながらも言われたとおりにコーヒーを用意する。 お土産にもらったケーキを皿に載せ、コーヒーと一緒にダイニングテーブルへと運ぶ。 「お茶の用意ができましたよ」 声をかけると、梨花は 「ありがとう」 とお礼を言ってテーブルについた。 「ここのケーキ、スポンジがふわふわで美味しいんだよ。クリームも甘さ控えめで食べやすいし。ほら、智樹くんも早く座って」 梨花に
促
(
うなが
)
されて、智樹も椅子に座る。 「いただきます」 ケーキを口に入れると、ふわりとした優しい甘さが口の中に広がった。 「あっ、本当だ。すごく美味しい」 智樹の感想に、梨花が笑みをこぼす。 笑うと頬にえくぼが浮かんで、やわらかい雰囲気になる。 「和葉がね、『智樹くんが来てくれて凄く助かってる』って喜んでたよ。料理も上手なんだってね。今度、私にも教えてよ」 「そんな、上手ってほどじゃ……。簡単なものしか作れないしレパートリーも少ないんで、人に教えられるような腕前じゃないです」 そう返事をしてから、智樹は
躊躇
(
ためら
)
いがちに尋ねた。 「それで、あの……用件は何ですか?」 「だから、親睦を深めに来たって言ったじゃない」 「でも、わざわざ僕が一人の時に来るくらいだから、和葉さんと彩葉には知られたくない用件があるのかなと思って」 智樹の言葉に、梨花はふっと目を細めた。 「凄いね、その通りだよ。今日は智樹くんに聞きたいことがあって来たの」 そう言うと、梨花は少し間を置いてから口を開いた。 「あのさ、和葉と彩葉の関係って……智樹くんの目からは、どう見える?」 「どうって……普通に仲の良い兄弟だなって思いますけど」 「それだけ?」 「どういう意味ですか?」 「なんか……彩葉って、和葉に対して兄弟以上の気持ちを
抱
(
いだ
)
いてるんじゃないかなって……そんなふうに思う時があるんだよね」 「まさか……さすがにそれは、ありえないですよ」 答えながら、智樹の目が泳ぐ。 それを見て、梨花は笑い出した。 「智樹くんって、嘘をつくのがヘタだね」 動揺して赤面する智樹に、梨花が頼み込む。 「何か知ってることがあるなら教えて。またケーキ買ってきてあげるから」 「……何も知りません」 「ふーん、まぁいいや。彩葉に和葉を渡すつもりは無いし、もし結婚の邪魔をしてきたら返り討ちにしてやる」 和葉から愛されている自信があるのだろう。梨花は力強く宣言した。 そんな彼女が羨ましくて、少し意地悪を言いたくなる。 「いいですね、愛されてる人は余裕があって」 智樹の発言に、梨花は
心外
(
しんがい
)
だという顔をする。 「余裕なんかないよ。『もし彩葉が和葉に想いを告げたら、私たちの結婚はダメになっちゃうかもしれない』って思うと、不安でたまらない」 「でも二人は兄弟だし、男同士じゃないですか。心配するようなことは、何も無いと思いますけど」 梨花は、信じられないという目で智樹を見る。 「何それ、私達のことバカにしてんの? 兄弟だろうが男同士だろうが、好きだっていう真剣な気持ちを、そんなふうに簡単に切り捨てないでよ。もし和葉が彩葉から告白されたら、きっと本気で受け止めるだろうし、真面目に考えて答えを出すはずだよ。私との婚約を解消して、彩葉を選ぶ可能性だってある。あの二人が長年
培
(
つちか
)
ってきた
絆
(
きずな
)
は、相当強いと思うもん」 梨花の
真
(
ま
)
っ
直
(
す
)
ぐな視線に射抜かれて、智樹は自分の軽率な発言を心から恥じた。 「……ごめんなさい」 素直に謝ると、梨花は表情を
緩
(
ゆる
)
めた。 「私も少し言い過ぎちゃった。ごめんね」 梨花の声を聞きながら、智樹は和葉の言葉を思い返していた。 “梨花は誤解されやすいけど、正直で裏表の無い、優しい人だよ” その通りだな、と思った。 梨花から放たれる言葉には、
時折
(
ときおり
)
鋭い
棘
(
とげ
)
がある。でも、その言葉の奥底には、優しさと
温
(
ぬく
)
もりが
潜
(
ひそ
)
んでいる。 ケーキを食べ終えてコーヒーのお
代
(
か
)
わりを用意していると、玄関の鍵を開ける音がした。 「ただいま」 という声と共に、彩葉がリビングに顔を出す。 そして梨花の顔を見た瞬間、
眉間
(
みけん
)
に
皺
(
しわ
)
を寄せた。 「お前、そこで何してんの?」 彩葉の不機嫌な声に、梨花は笑顔で言葉を返す。 「お茶しながら、智樹くんと親睦を深めてるの。彩葉も混ざる?」 「はあ? なんで智樹がお前なんかと親睦を深めなきゃいけないんだよ。智樹は俺の家政夫だぞ! 二度と近寄るな!」 「俺の? 何その言い方。智樹くんは物じゃないんですけど」 「いいから帰れよ!」 「はいはい、分かったわよ。帰ればいいんでしょ。またね、智樹くん」 梨花はゆっくりとした動作で立ち上がると、智樹に手を振って玄関に向かった。 「あっ、梨花さん!」 慌てて追いかけようとしたが、智樹に腕を
掴
(
つか
)
まれて足止めされる。 「なんであいつを家に上げたんだよ!」 「和葉さんの婚約者なんだから、追い返すわけにはいかないだろ」 「だけど、わざわざ和葉も俺もいない時に一人で来るなんて、おかしいじゃないか!」 「そんなこと僕に言ったってしょうがないだろ!」 「……二人で何を話してたんだよ」 「別に……たいした話じゃない」 「俺に言えないようなこと?」 「違うよ」 「あいつ、和葉と婚約してるくせに……智樹にも手を出すつもりなんじゃないのか?」 梨花を
貶
(
おとし
)
めるような彩葉の発言に、智樹は怒りを
露
(
あら
)
わにした。 「いいかげんにしろよ! 梨花さんはそんなことする人じゃない。あの人を悪く言うのはやめろ」 「なんだよそれ……智樹まで梨花の味方すんのかよ!」 そう吐き捨てると、彩葉は荒々しく足音を響かせながらリビングを出て行った。 それから大きな音を立てて玄関のドアを閉め、どこかへ出かけて行ってしまった。 嵐のあとのように静まり返った部屋の中で、智樹は深い深いため息をついた。
前へ
10 / 13
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
ユキヤナギ
ログイン
しおり一覧