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鈴木さんちの家政夫 第11話 もう少しだけ | ユキヤナギの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
鈴木さんちの家政夫
第11話 もう少しだけ
作者:
ユキヤナギ
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第11話 もう少しだけ
彩葉
(
いろは
)
は夜になっても戻らず、仕事を終えた
和葉
(
かずは
)
の方が先に帰宅した。 彩葉が出て行ったきり帰ってこないことを伝えると 「ついさっき彩葉から連絡がきて、『遅くなるから夕飯は外で食べてくる』って言ってたよ」 と教えてくれた。 「
智樹
(
ともき
)
くんには連絡きてないの?」 和葉に聞かれて 「はい……ちょっと喧嘩しちゃって……」 と、智樹は気まずい表情で答える。 梨花が訪ねてきたことを話した方がいいのかどうか迷っていると 「そういえば今日、梨花が家に来たんだってね」 と和葉の方から話を振ってくれた。 「そうなんですよ。すみません、僕しかいない時なのに上がってもらっちゃって……」 「全然
構
(
かま
)
わないよ。むしろ申し訳なかったね。事前に何の連絡もなかったんでしょ? 彩葉に怒られたよ。『智樹しか家にいない日は、絶対に梨花を来させるな』って。本当にごめんね」 「いや、そんな……僕の方は全然大丈夫です」 「梨花からも連絡があって、『また遊びに行くって伝えといて』って頼まれたんだ。もし智樹くんが迷惑じゃなければ、時々梨花の相手をしてもらえると嬉しいな」 「でも……嫌じゃないですか?」 「何が?」 「自分の婚約者が他の男と二人きりで会ってるなんて……」 「うーん、そうだなぁ。他の男性と二人きりで会うって言われたら嫌かもしれないけど、智樹くんなら大丈夫だよ。信用してるし、誰かを傷つけるようなことはしない人だって分かってるから」 和葉と梨花は、似ている。 表面的には正反対の性格に見えるけれど、二人とも透き通った
心根
(
こころね
)
の持ち主で、言葉に嘘が無い。 そんなことを考えていると、智樹の携帯の着信音が鳴る。画面を見ると、友人の田中からだった。 「もしもし?」 電話に出ると、耳慣れた田中の声が智樹の耳へと流れ込んでくる。 「あー、佐藤? 今さぁ、ゲイが集まる店で飲んでるんだけど、彩葉が酔い潰れて寝ちゃったんだよね。一人じゃ帰れそうもないから、迎えに来てくんない?」 「あー、どうしよう。今日、彩葉と喧嘩しちゃってさ……ちょっと気まずいんだよね。どうしても迎えに行かなくちゃダメ?」 智樹が渋ると、田中は声を尖らせた。 「お前さぁ、彩葉のこと好きなんだろ? だったら、こういう時には駆けつけてやれよ。酔い潰れた状態で放っておくと、誰かにお持ち帰りされちゃうかもしれないぞ」 「……分かった。すぐ行く」 電話を切ると、智樹は急ぎ足で彩葉のいる店に向かった。 智樹が店に着くと、彩葉はテーブルに
突
(
つ
)
っ
伏
(
ぷ
)
して寝ており、いくら揺さぶっても起きようとしなかった。 仕方なく田中や周囲にいた人達にも手を借りて、なんとか彩葉をタクシーに押し込む。 手伝ってくれた人達にお礼を言って、智樹もタクシーに乗ろうとしたところで、田中から声をかけられた。 「彩葉の奴、お前のことばっかり話してたぞ」 「どうせ悪口だろ」 「悪口っていうより、やきもちって感じだったけどな。お前が和葉さんの婚約者と仲良くしてるのを見て、頭に来たんだってさ。あの様子は脈ありっぽいぞ。彩葉も佐藤のこと、気になり始めてるんじゃないか?」 「そんなはずない。彩葉には好きな人がいるんだから」 「知ってるよ。和葉さんだろ? でもさ、気持ちは変わるもんだし……毎日一緒にいるうちに、佐藤のことを少しずつ好きになってるのかもしれないじゃん。彩葉のことを本気で好きなら、もうちょっと積極的に頑張ってみろよ」 何も答えずにいる智樹に、田中はまだ何か言いたそうな顔をしていたが 「お客さん、そろそろ出発してもいいですか」 とタクシーの運転手から
急
(
せ
)
かされて、二人は話を切り上げた。 智樹も車内に乗り込み、彩葉の隣に座る。 運転手に目的地を告げると、タクシーは滑らかに夜の町を走り出した。 鈴木家の玄関前に到着し、和葉を呼んで手伝ってもらいながら、彩葉をベッドまで運んだ。 「あとは僕がやっておくので」 と和葉に告げて、智樹は彩葉に布団をかける。 うっすらと目を開けた彩葉が 「水……」 と
呟
(
つぶや
)
いたので、急いでキッチンまで行ってグラスに水を注ぎ、彩葉の部屋へと戻る。 「大丈夫か? 水持ってきたぞ」 智樹が声をかけると、彩葉は目を開けて弱々しい声を出した。 「一人じゃ起きられない。手伝って」 智樹はサイドテーブルにグラスを置き、彩葉の体を
抱
(
かか
)
え起こす。 「ほら、飲みな」 左腕で彩葉の体を支えながら、右手でグラスを差し出した。 「自分じゃ飲めない。飲ませて」 智樹にもたれかかりながら、彩葉が甘えてくる。 グラスを口元へ運んでやると、彩葉は喉を鳴らして水を飲み干した。 これ以上そばにいると理性が保てない気がして、智樹は彩葉から体を離す。 すると、彩葉が智樹の服を
掴
(
つか
)
んで引き留めた。 「もう少しだけ、そばにいて」 その言葉に、ぷつりと音を立てて理性の糸が切れる。 気がついた時には彩葉の体をきつく抱きしめていた。 首筋に彩葉の息遣いを感じて、心臓が早鐘を打つ。 思わず腕に力を込めると、彩葉が苦しげに
呻
(
うめ
)
いた。 「……痛い」 彩葉が智樹の体を押し返す。 目が合い、智樹は正気を取り戻すと同時に
羞恥
(
しゅうち
)
を覚え、
居
(
い
)
た
堪
(
たま
)
れない気持ちになる。 「ごめん」 それだけ言うのが精一杯だった。 智樹は立ち上がり、彩葉の部屋を出て扉を閉めると、
目眩
(
めまい
)
を感じて廊下にしゃがみ込んだ。 明日から、どんな顔をして彩葉に会えばいいんだろう。 好きだという気持ちが、もうこれ以上は抑えられそうもない。 腕に残る、彩葉の体温すらも愛おしい。 この想いを告げたら、そばにはいられなくなるかもしれない。 それでも気持ちを伝えたい。想いを届けたい。そう思ってしまう。 智樹は夜の
静寂
(
しじま
)
に包まれながら、いつまでもその場に
佇
(
たたず
)
んでいた。
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ユキヤナギ
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