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【番外編】ねにもつネコ
ふわ、と何かが顔を掠めて、そのくすぐったさで目が覚める。
昨日は金曜日だったから、八雲さんの部屋にお邪魔して遅くまで映画を観て……。
記憶がないから、たぶんそのまま寝落ちしたんだと思う。ベッドの上で寝てるから、寝落ちしたオレを運んでくれたんだ。優しい。大好き。
その八雲さんはというと、珍しいことにオレにくっつくようにして眠ってる。
オレの首元に顔を埋めるようにしてるから、八雲3の髪がくすぐったかったんだなと納得した。
身体を丸めて寝息をたてて眠る八雲さんを、起こさないようにそっと頭を撫でる。
ん、と小さな呻き声を漏らして身じろぐ姿がかわいい。
「ネコみたい」
小さく笑うと、ぴょこんと、黒い三角の形をした耳が、動いたように見えて。
心臓が一瞬止まった。
「えっ、」
布団をゆっくり捲って、もう一度八雲さんの頭を確認すると、そこにはちょっと垂れてるネコ耳が、ふたつ付いていた。
「ちょ、ちょっと!八雲さん!起きて!」
この緊急事態を早く伝えねばの一心で、八雲さんの肩を揺すって起こす。
「んー…なに…」
気持ちよく寝てたところを起こされた、ちょっと不機嫌そうな掠れ声。
この声に弱いオレはぐっ、と唸りそうになる。
「今すぐ鏡見たほうがいいです。洗面所に――」
ベッドから立ち上がろうとしたら、後ろから腕を引かれて仰向けに倒れ込む。
すぐに八雲さんから押し倒されたのだと気づいて、いつもと違う雰囲気にどぎまぎする。
「なんでどこか行こうとしたの」
「あの…驚かないで聞いてほしいんですけど、」
「なに」
「八雲さんの頭から」
「うん」
「ネコ耳が、はえてます」
…………。
しばらくの沈黙。
八雲さんが何もリアクションしないから、オレもなんだが反応しづらくて。
衝撃的すぎて言葉が出てこないんだなと思った矢先。
「今さら?」
と、超予想外の返事が返ってきた。
「は?」
「南って俺がネコだったこと知らないんだっけ」
「え」
「ねえ、撫でて」
「えっ」
何がなんだがまったく理解できず、理解できなさすぎて、理解することを放棄したオレの脳みそは、八雲さんの言う通りにするしかなくて。
「南の手、きもちいい」
「光栄ですう…」
ネコ八雲さんは、オレの腕の中でしばらくごろにゃんしていたのだった――。
「っていう夢をみたんですよ」
「うわ、もう最悪だよなんて夢を見てるんだお前」
「えっ夢に出てくるの嫌でした?」
「自分のその姿を想像したら誰だってこうなる」
「かわいかったのに」
「お前に可愛いって言われてもな…」
「はあ、いい夢だった」
「勘弁してくれ」
後日、ネコ耳カチューチャを買ってきた八雲さんににゃんにゃん鳴かされて学んだことは、俺の恋人はけっこう根に持つんだなということだった。
▽2月22日:猫の日
間が空いてしまいすみません…!
リハビリ番外編でした。
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