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涼戦友情 2
先に沈黙を破ったのは、大也のほうだった。
「あー…さっさと終わらせて早く帰ろうぜ」
頭をガシガシ掻いて、そう言ってくる大也の顔は少し赤い。
話の逸らし方は下手だったけど、俺は何も言えなかったからありがたい。
「ん…」
いつまでもこうしてるわけにもいかないし、そらしてた顔を戻して大也を見る。
「はっ、八雲お前…」
「なんだよ…」
「顔、耳まで真っ赤じゃん」
「っ!?」
慌てて耳を両手で隠す。
大也は新しい遊びを見つけた子どもみたいな、にやついた笑顔をしている。
「バカ、見るな茶化すな何も言うな」
「へぇ~いつも余裕綽々とした八雲がねぇ」
「息もするなバカ」
これまでにないってぐらいニヤニヤした顔を向けてくるから、もう耐えきれなくなって大也の目を手で覆った。
本棚に押し付けるようにしたから、傍から見れば俺が大也のことを壁ドンしてるように見えるかもしれない。
「八雲ってけっこうダイタンなんだな?」
「大也がしつこいからだろ」
「しかも天然なところもある」
「……うるさい」
南の前ではかっこいい恋人でありたいから、こういう天然なところは見せられなくて。
大也は昔から口がうまいから、こうして俺が後手後手になることがたまにある。
こんなところ、南が知ったら驚くんだろうなぁ。
大也は俺の考えてることがわかるかのように、余裕な態度を崩さないで続ける。
「悠太の知らない一面だよな、八雲?」
「ねえもうほんとに黙ってお前…」
大也は昔からどこか食えないところがあって、そこが俺にとっては苦手。
「隙あり」
「なっ、」
一瞬抜けた力を見逃さず、大也は俺の手首を掴んで目から離した。
そして、くるっと素早く俺の後に回り込んで、今度はこっちが壁ドンされる体勢になる。
もがいても両手首はしっかり握られ、力はそんなに変わらないはずなのに動けない。
「待って、お前まじで何してるの?」
「押さえられた仕返し?」
「いや俺に聞くなよ」
抵抗するのがムダだだと思った俺は、全身から力を抜いた。
「なんだ、八雲ってば素直じゃん」
「バカかよ…いいからさっさと帰ろう」
「お前ってさ、悠太とどんなキスするわけ?」
「………はあ?」
なにバカなこと言ってるんだと思って睨みをきかせたら、けっこう真面目な顔をしてて。
え?本気で言ってるのか大也は…弟のキス事情気になるとかブラコンすぎ。
「暑さで頭湧いてんじゃない?」
「俺からすれば悠太のキスも気になるけど、あの八雲がリードしてるってことがまだ新鮮なんだわ」
「大也、バカにするのもいい加減に――」
「ちょっと黙ってろ」
俺が言い終わる前に、大也は唇を重ねて口を封じてくる。
突然のことで頭が真っ白になって、身体も硬直して、反応がかなり遅れた。
「んっ、ふ…バカ、ァ…」
気づいたときには舌を絡め取られてて、いいように弄ばれてた。
「やめ…ぁ、ふぁ…」
すごいムカつくことに意外と嫌悪感がないことと、大也のキスがうまい。
押さえられた手首を解こうとしても全然動かなくて、疲れとキスの気持ちよさで脱力していくのがわかる。
「ふぅん?可愛いとこあんじゃん」
ほんとに、余裕綽々なこの態度ムカつく…!
完全にリードされたキスを受け、正直腰がちょっとヤバイ。
手遅れになる前になんとか抜け出そうと、身体をじりじりと動かす。
「なに、それで逃げれると思ってる?」
「言って、ろ…んぅ…!?」
思いっきり舌を吸われて、脳がビリビリしてきた。
俺は全身ありったけの力を使って、大屋の股間目がけて膝を振り上げた。
「いっ――!」
さすがの大也も男の急所は人並みに効くようで。
涙目でキッと俺を睨んできた。
「おま…チンコはやめろ!」
「お前こそ急にキスしてくんな、バカか」
図書館ということも忘れてそこそこ大きい声で言い放ったあと、シン…と静まりかえる空間に耐え切れず、2人で小さく吹きだした。
「いや、でもまじでもうするなよ。キス」
「どうかなー可愛い弟と親友が気になってしちゃうかもなー」
「冗談に聞こえないんだよ」
「でも、お前がえろ可愛かったのはホント」
大也が耳元でコソっとしゃべってきて、背筋がゾクリとした。
「死ね!」
囁かれた耳を手で隠して、距離をとる。
自分でもわかるぐらい顔と耳が熱くて、絶対怖くない「死ね」だなって思う。
大也はくすくすと笑ったあと、もうちょっかいを出してくることはなかった。
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