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涼戦友情 1

俺の家のエアコンが壊れてから3日目。 業者が来るのは明後日だから、もう少しあの暑さをガマンしなければならない夏の日。 ゼミの研究資料と涼しさを求めて、大学の図書館に来ていた。 南は昨日から、柳たちクラスメイトと2泊3日の旅行に行っている。 海に行くと言っていたから、日焼けして帰ってくるんだろう。 そういえば南の水着姿を見たことない気がする…。 来年はプールか海に行くのもいいな、と思いながら資料を探していたら、隣にいる大也に肘で小突かれた。 「なんだよ」 「うっすらニヤけてる」 「大也、お前それ……俺のこと見すぎじゃね?」 「お前が表情を変えるときは9割悠太のこと考えてるときなんだよ」 「マジで?さすがお兄ちゃん」 「お前いちいち突っかかってくるのやめない?」 「いいだろ、俺とお前の仲なんだし」 「どんなだよ」 大也はうげっと顔をしかめる。 ただ、こうした軽口を叩ける人間っていうのはありがたいと思う。 俺だって大也とそういうつもりで言ったわけでは決してない。 気を遣わなくていいし、素の自分で接することができるし。 なにより大也は、俺と南両方のことをよくわかっている唯一の人間で。 大也に支えられているところは大きいし、親友でいられることに感謝してる。 こんなこと、絶対に言わないけど。 まあ言わなくてもたぶん、お互い感じ合ってると思う。 しばらく大也と事務的に資料を探し歩いく。 夏休みということもあって、図書館内はほぼ貸切状態だ。 つい1週間前までは、レポートや課題追い上げのために混雑していたのになんだか不思議な感じ。 集めた資料から必要なページだけを印刷して、集めていく。 今頃南はあのえろい身体を惜しみなく晒して海を満喫しているのかと思うと、微笑ましくなるし心配になる。 南に何かあったら助けに行けないから、柳によろしくなってメッセージを送ったけど…。 もし南の身に何かあったらと思ったら、つい身体が力んでしまって。 ――バキッ 「あ」 「は?」 メモを書き込むために握っていたシャーペンが折れた。 「え?待ってお前何してんの」 「いや…なんか南のこと考えてたら折れた」 「バ怪力やめろよ…さすがに引く」 大也は心底呆れました、というように大きい溜息をついた。 「心配なのはわかるけどさ」 「へえ、わかるんだお兄ちゃん?」 南兄弟はブラコンだ。 お互い俺に見せないようにしてるけど、2人のことを長く見てきた俺の目はごまかせない。 南はブラコンって言われても何も言い返さないけど、大也は恥ずかしいのかすごい否定してくる。 だから今みたいに少し煽れば…ほら。 恥ずかしいのか怒ってるのかよくわからない表情になる。 「その意地悪いニヤついた顔やめろ…」 「弟思いのいいお兄ちゃんじゃん」 「お前ほんといい性格してるわ」 「そう?ありがとう」 大也は言い返そうと口を開入いて、だけどそれは2度目の溜息となって消えた。 「まあ、でも…正直八雲ぐらいの人間じゃないと信頼できないし」 「なんだかんだ言って大也って俺のこと好きだよな」 「は?それは八雲のほうだろ」 口では嫌そうにしてても、その顔は満更でもなさそうだ。 「俺も南の兄弟が大也でよかったって思ってるよ」 本当にこんなこと言うつもりなかったのに、大也の流れでついぽろって言ってしまった。 こんなの恥ずかしくて今さら改めて言えないって思ってたのに。 南にはあれだけ甘い言葉をさ囁けるのに、どうも大也だと調子が狂う。 「……」 「……」 お互い時間差で恥ずかしくなって、空調の音だけを響かせる図書館の中。 時間が止まったかのように動くことができなかった。

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