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抱いて※

 清香を送り届け家に戻ると、壱斗は相変わらずの指定席にクッションを抱えて座っていた。  だがその表情は暗く、後悔し、憂いを帯びている。 「さっきは悪かった。折角送ってくれてたのに勘違いして…ありがとな」  暁義は壱斗の隣に並ぶように腰掛けながら、先刻のことを謝り、清香を送ってくれた礼を口にした。途端、壱斗は沈痛な表情を見せる。 「…お礼なんて言わなくていい……本当は、送りたくなんてなかったんだから」  話しながら少しずつ壱斗の表情が歪んでいく。  胸に抱えたクッションを爪先が白くなるほど強く握り締めていた。 「壱斗…?」  壱斗の様子がいつもと違うことに気づき、暁義はその表情を窺うように覗き見る。 「…嫌に決まってんじゃん、好きな人の好きな人なんて! 大っ嫌いに決まってんじゃんっ! 嫌いっ! 憎い!」 「いち…」 「本当…犯してやりたいくらい憎いっ。アキが触れたって、アキに好かれているって思うだけで嫌で堪らないっ! 今も嫉妬でおかしくなりそうっ……でも…でもアキの好きな人にそんなこと出来るわけないじゃんっ…出来ないよ……っこれ以上、アキに嫌われたくないもん…これ以上嫌われたら、俺、死んじゃう…っ」  その言葉に暁義は胸が痛くなった。  ――これが壱斗の抱えてる想い。  嫉妬で狂いそうになるほどの想いなら暁義も十分知っている。  腹の底から込み上げてくるようなドロドロとした醜い感情。  暁義自身も今まで壱斗に対して似たような感情を散々抱いていたが、暁義は壱斗にここまで自分の感情を曝け出すことは出来なかった。  出来るだけ気づかないように、傷つかないように…。  そうやって気持ちに蓋をして心の奥底に仕舞い込み、逃げ道を作っていた。 「壱斗…」 「ねぇ、アキぃ…これ以上嫌いにならないで…」  縋るような壱斗の目は、涙で濡れている。  掴んでくる手が震えている。  今までこんな姿を見たことがない。  織部壱斗とはこんなにも弱々しく脆い存在だっただろうか? 「うん…大丈夫だよ、壱斗。ごめんな」  暁義は落ち着かせるように壱斗の手を握り返し、そっとその背中を撫でた。  身を任せるかのように壱斗の頭が暁義の肩へと寄りかかる。  その幼子のような仕草に、愛しささえ湧いてきそうになる。  暫くすると、壱斗が落ち着いた声音で尋ねる。 「アキ…もう、あの人と付き合ってるの?」 「いや、まだ…って、ちょ、壱斗!?」  答えも途中だと言うのに、壱斗は暁義の膝の上へと跨り、更に暁義の服の中に手を入れ、引き締まった腹部へと指が這わせた。 「ねぇアキ、セックスしよ。まだ付き合ってないなら浮気じゃないし。それに俺ら、身体の相性いいじゃん」  まるで遊びに誘うかのような口調で壱斗が誘惑する。 「ちょっ、やめろ、壱斗っ」  今まで曝け出していた嫉妬心はまるで空言であったかのように、壱斗はいつもと変わらない動作で自ら服を脱ぎキスをしてくる。 「いいじゃん。しようよ」  暁義は吸い寄せられそうな心を必死に抑えた。 「やめろって言ってんだろ!」  両手で壱斗を押し遣る。 「っ…これで最後だからっ…アキが他の人抱く前に、最後に一回でいいから…っ最後に、頂戴っ」 「壱斗…」  そこには、涙を流しながらも必死に言葉を紡ぐ壱斗がいた。  それはプライドも何もかもを捨てて、ただ暁義が欲しいと強請ったあの日と同じ顔だった。  暁義は縋る壱斗の唇にそっと触れる。  それだけで壱斗は涙を浮かべながらも笑顔を見せた。 「アキのキスだ……っ」  肩口に頭を乗せ、きつくしがみつきながら嗚咽を漏らす。その背中を暁義はゆっくりと撫でた。 「壱斗」  名前を呼ぶと壱斗は顔を上げ、下着以外の身に着けているもの全てを脱いでいく。 「最後に、アキで俺の中、いっぱいにして」  その言葉に覚悟を決めたように暁義は壱斗の手を引き、ベッドへと移動する。  壱斗の気持ちと、壱斗への気持ち。その全てを胸の奥へ抱え込む。  それが正しいのかどうかなんていまの段階で分かるはずもないが、それでも自分が今決断した選択が後悔するものでない事は確かで、暁義は素直に添えられた手をギュッと握り締めた。  ベッドに上がると、二人分の体重を受けギシリと音を立てた。  僅かに紅潮する壱斗の頬に手を添え、口付ける。  そっと口を開くよう舌先で突くと、慣れた様子で壱斗が舌を絡めてきた。  今までも散々繰り返してきた行為。  上顎をなぞると壱斗の身体がピクリと反応を見せ、それを堪能するように暁義の背へと壱斗の腕が回る。  暁義は角度を変え、何度もその口内を味わうように優しくなぞった。 「んっ……はぁ、ぁ」  合間、合間に甘い吐息が耳を擽る。  久しぶりに聞くその声を更に聞きたくて、キスをより深いものへと変えていく。  晒された上半身へと指を這わせると、ピクッピクッと期待するかのように身体が反応した。 「ん、ぅんっ…あ……ふっ、ぁ」  ちゅくちゅくという水音と壱斗の喘ぎが耳を犯す。  桃色に色付く胸の突起に指で触れると、そこを突き出すように壱斗の身体が揺れた。 「あ……んっ……もっと」  潤んだ瞳で強請るように甘い声を漏らす壱斗。 「もっと? どうして欲しいの?」  どうして欲しいかなんて分かっているし、望む以上のことをすることだって出来るが、暁義は敢えて壱斗に言わせたかった。  確実な刺激を避けるように突起の周りを撫でる。 「言って。どうして欲しい?」  今までも多少意地悪な言い方をしたことはあったが、ここまでしつこく責めたことはない。 「あっ……キュッて、摘んで」  慣れないからか、少し恥ずかしそうに目元を赤らめ、視線を外しながら壱斗が答える。 「摘むだけでいいの?」  壱斗に言われたとおりに暁義は乳首を摘んだ。 「ああっ、や、もっと…舐めて、噛んでぇ」  それだけじゃ嫌だと弱々しく首を横に振り、暁義の手に自らの手を添えながら艶を帯びた瞳でもっとと強請る。 「噛んで欲しいの? 強く?」 「つ、よく…」  欲情で瞳を潤ませる壱斗。扇情的な姿に暁義は更に壱斗の欲望を引き出そうと口を開いた。 「壱斗は痛いのが好きなんだ?」 「や、ちが…んっはぁあああ」  敢えて壱斗が恥ずかしがる言葉を選ぶ。  言葉通り乳首を舐め上げ歯を立てると、羞恥心も合わさり、壱斗は更なる嬌声を漏らした。  それでも止めることなく、暁義は舐めては噛みを繰り返す。  反対の乳首も指で捏ね、きつく摘んだり、捩ったりと刺激を与える。  ぷっくりと腫れたように赤く色付く乳首。暁義の唾液で濡れたそこは、いやらしく光っている。 「違わないじゃん」 「あっ、あっだめ、痛っ……や、いつもと、違っ」 「だって…抱いて欲しかったんでしょ?」  暁義は意地の悪い笑みを浮かべると呟いた。 「そう、だけどっ……う゛っ」  何か言おうと口を開いたところで胸の突起を摘む力を強くすると、壱斗は刺激の強さに何も言えなくなる。 「今日は……特別だから。思いっきり気持ちよくしてやる」  そう呟くと、特別という言葉に反応したのか壱斗は顔を歪ませ、涙を流した。 「もう…何も考えさせないで…」  腕で目元を隠すように覆う壱斗の仕草に、暁義は壱斗の望むまま快感を与えようとする。  壱斗のものに下着の上から触れた。  硬くなったそこは、既に我慢出来ずに溢れた汁で布が薄っすらと湿っている。  窮屈そうに頭を擡げているそれを出そうと下着をずらすと、ぷるん、と勢い良く飛び出した。  外気に触れ、ピクピクッと脈打つように揺れる。  先端は思った通り溢れた汁でしっとりと濡れていた。 「相変わらず可愛いな」  暁義の指がその形をなぞるように撫でていく。  裏筋を付け根から先端へと摘むように刺激すれば、甘い声と新たな汁が漏れる。  掬い取るように舌で舐めると、次から次へと溢れてきた。 「気持ち良いんだ?」 「い、い…ぁ」  付け根から先端へと、舌全体を使ってねっとりと舐め上げる。  先端まで辿り着くと、唇で食むようにしながら亀頭を刺激し、暁義は一気に咥え込んだ。 「ああっ………ん、やぁ…はぁん」  竿の部分を唇で扱き、先端の窪みに舌先を押し付ける。 「アキ…いぃ、いいっあ、あ」  壱斗は艶めかしい声を上げながら暁義の頭に手を添え、もっともっとと強請るように腰を揺らす。 「や、だめっ……あ、あ、出る……っあ゛あ!」  強く吸い上げると壱斗は身体を仰け反らせ嬌声を上げながら、呆気なく果てた。  暁義は口内に出された精液を躊躇いもなく飲み込むと漸く顔を上げる。  唾液と壱斗が出したもので濡れた唇を見せ付けるように親指で拭った。 「……多い」 「はぁ…はぁ…アキ……やらし…」 「もっと、気持ちよくしてやる…」 「あっ」  壱斗の蕾を指でゆっくりと撫でる。そこは固く閉じながらも、期待するかのようにヒクついている。  暁義はサイドテーブルに手を伸ばし、もう必要もないと思っていたローションを取ると中身を手に出した。  それを手の平で温めるように伸ばし、再度蕾に指を這わせる。  周囲の緊張を解すように撫で、気紛れに蕾の中心を押した。  つぽっと指先が入るか入らないかのところで抜き、また周囲を撫でる。それを繰り返すと壱斗から甘い声が漏れ、そこが少しづつほころび始めた。 「んんっ……ふぁ」  ゆっくりと人差し指を挿入する。  きゅっ、きゅっと締め付ける間隔に合わせ、指を奥へと進めていく。  慣れた身体は指一本など直ぐにのみ込み、すぐさま続けて中指を添え挿入する。  その指を締め付ける感覚すらまるで愛撫されているように気持ちよく、暁義は自身を挿入した時の快感を思い出した。  きゅっきゅうっと等間隔で締めつけながらも快感を得る場所を抉った時にはきつい締め付けに変わり、翻弄するように収縮し、その欲に濡れた顔はあざとさを感じさせるほどに魅せる。  たった数週間では忘れることなど出来るはずがない。  思い出すだけで直ぐにでもその快感を味わいたくなる。 「壱斗……いい?」  耳元で囁くと、一瞬にして全身が赤く染まった。  まるで生娘のような反応を見せる壱斗。  思わず暁義は、その色付く肌に唇を這わせた。  首筋、鎖骨、乳首の脇、臍の上、足の付け根…きつく吸い上げあちこちに赤い跡を散らす。  出来るだけ長く色付けと願いを込め、吸う力を強くする。 「あ……んっ……ぁ、ねぇ…ア、キぃ」  強請るような声音に暁義は壱斗の足を抱えると、自分のものを濡れそぼった蕾へと宛がった。  今から入れることを知らせるように緩く突き、慣れ親しんだ合図を送る。  グッと壱斗の腰を掴み、ゆっくりと隘路を穿っていく。  ローションの滑りを借りじわじわと飲み込まれていく様子はどことなく淫靡で、壱斗も大きな瞳を潤ませ艶やかな表情を見せる。  徐々に狭い内壁を暴くように奥へ奥へと侵入していく。  壱斗が大きく息を吐くと同時に、締め付けるようにきゅっきゅっと蕾が窄まる。  久しぶりに感じた欲望に、絡みつくような感触に、暁義のものが更に怒張した。 「はぁ…はぁ、あ……んっ…アキ」 「気持ち、いい?」 「ん…っい、い…ぁ…いい、気持ち、いっ」  その言葉に暁義は入り口近くまで陰茎を抜くと一気に奥へと押し入り大きく腰を動かす。  激しくなった抽送に、壱斗が暁義の腕をしっかりと掴んだ。  軽く立てられた爪が浅く皮膚へと食い込むが、痛みはない。  正確には、痛みとして認識しているが、得ている快感が大きく、また、壱斗の意識的なのか無意識なのか図りきれない行動に、少なくとも不快に通じる感情は湧かなかった。 「アキ…ア、キ……っ…気持ち…いい?」  快感の中、必死に言葉を紡ぐ壱斗は、汗なのか唾液なのか、それとも涙なのか、分からないくらい顔をぐしゃぐしゃにしている。 「いいよっ」  そう暁義が素直に答えると、壱斗の蕾がキュッと締まる。 「っ……壱、斗」 「ア、キ……アキ、好き……ごめん、っ……ごめん…す、き」  壱斗の身体をグッと押し曲げ、腰を浮かせると、上から抉るように勢いよく貫いた。  貫いた最奥が、僅かに痙攣する。  壱斗自身からビュクッと白い液体が吐き出されるのを視界の端で捉えた。 「…っく」  壱斗がイッた瞬間暁義のものから精液を搾り取るように蕾がギュッと締まり、堪らず暁義は壱斗の中へと欲望を吐き出す。 「…き……好き…アキ、ごめん………好きで…ごめん…っ」  涙を流しながらまるで譫言のように呟き、潤ませた瞳を瞼で隠した壱斗は静かに意識を手放した。 その顔は眉間を寄せ悲しげに眉尻を下げた表情のままで。 「……ごめんな、壱斗…」  暁義はそんな壱斗の柔らかな髪にそっと触れ、割れ物を扱うように優しく撫で続けた。

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