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「⋯⋯⋯」 何か言いたげに口を少し開いたかと思えば、閉じ、代わりにボードを押した。 『いっしょにねて』 「あ、うん、それはいいよ。一緒に寝よう」 食い気味に返事すると、綺麗な目がきらりと光った。 大河がそれで喜ぶのはそういう意味でもあるが、一緒に寝ることも毎日ではないからだ。 やはりそれも姫宮のことを気遣ってのことだ。 風呂と同じく、一人でゆっくりとしたい時があるのだからそうしてあげないとと小口がそう言って、大河と一緒に寝てあげようとしていた。 しかし、大河にとってはそれも不服なことで、そのことについても一悶着がある。 姫宮は寝ることに関しては別に問題ない、と言いたいところだが、先ほどのように性風俗での記憶が不意に甦ってしまう時がある。 それで大河の前で変なことをしてしまったら、それこそいたたまれなくなる。 だから、小口の言うように、一人で寝る時もあれば、ごくたまに大河と一緒に寝る時もあった。 風呂は一緒に入れなくても、寝ることは一緒にできたらいいのに。 「⋯⋯ところで、え⋯⋯と、ママにまだ用があるのかな⋯⋯」 ふるふると首を横に振った。 「じゃあ、そこいいかな。着替えたいのだけど⋯⋯」 すると大河は、ちょっとずれてどうぞとさっきいた場所を手のひらで差し出した。 親の着替えてるところを見ているつもりなのか。どちらにしても、そこにいつまでもいられても困るのだが⋯⋯。 「ママの着替えているところを見ていても、面白くないと思うんだけど⋯⋯」 『おもしろい』 「えぇ⋯⋯」 そういうのが好きなのか。年頃でこのようなことをしたがるのだろうか。 「着替えを見ているよりもお絵描きしたり、アニメ観たりとか⋯⋯」 『ままがいい』 「えぇ⋯⋯」 こうなってくるとてこでも動かないだろう。 どうしたものか。 しかし、さすがに寒気を覚えてきたから、さっさと着替えたいところなのだが。 なんとか大河を退けたい姫宮と母親の着替えているところを見たい大河の攻防戦は、しばらく続いたのであった。

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