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『ままがぼくのことだいすきってわかる』 語尾が小さくなるのと共に頭が下がっていた時、ボードからそのような声が聞こえてきた。 思わず顔を上げると、こちらに向けていた大河と目が合った。 その瞬間、僅かに笑ったと思われる顔を見せた。 それから、ママと姫宮の耳にはそうと聞こえた大河の声と、『だいすき』と続けて押された。 瞳が揺れる。 気持ちが伝わった。 「大──」 「すみませーん、そこにもしかして大河さまいらっしゃいますー?」 廊下に繋がる扉の向こうから声が投げかけられた。 どきり、と心臓が跳ねた。 どうやって大河が小口から抜け出してきたのかは分からないが、ここにいることは確実だと踏んだのだろう。 いる、と言ってしまいそうになる。だが、大河が首を横に振った。 「⋯⋯あ、いません⋯⋯」 こんな言い方をしてしまっても絶対にいると気づかれているのだろう。 長く感じた沈黙の間、心臓が飛び出そうなぐらい激しく鳴っていた。 「分かりました。すみません、ようやく一人でゆっくり出来ている最中を邪魔してしまって」 「あ⋯⋯いえ⋯⋯」 心臓が喉元で出かかっているような息苦しさを覚えた姫宮は、消え入りそうな声で返した。 扉越しに足音が遠ざかるのが聞こえた瞬間、深いため息を吐いた。 いくら大河のためとはいえ、慣れない嘘を吐くのは心臓に悪い。 ひとまず、小口のことはどうにかなった。 あとは目の前のことを。 再び大河の方に目を向けた。 『いついっしょにはいれる?』 「いつ⋯⋯」 やはりどうしたって一緒に入りたい様子の大河に、しかし口ごもってしまった。 いつなんてはっきりと言えない。この傷がある限り、一緒に入ることなんてできない。 一生と言っても過言ではない、大河のその望みを叶えてあげることができない。 「⋯⋯いつ、になるか分からない。⋯⋯ごめんね」 今はそうとしか言えなかった。

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