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第7話 魔王様とのお話会
「阿月様。お待たせしました」
ドアノブをくるりと静かに回して、ライアが部屋に入ってきた。僕は準備万端で、呼吸を整えているところだった。
「どうぞ。こちらに」
「わ……」
阿月が案内されたのは、天井が高くそびえる大広間だった。紅い絨毯の端々には、蔦の柄模様が入っている。正方形の形をした白い机の前に、椅子が2つ向かいあわせで並んでいる。
既にその1つの席には魔王ジスが座っている。書物を読んでいた様子だったが、僕とライアが広間に足を踏み入れた途端、書物を置いて僕を見ている。緋色の瞳。まるで異国の宝石のような……。ジスの瞳に吸い込まれるようにして、僕も席に座る。
「では。失礼します」
ライアが一礼し、広間を出ていく。僕は気づけば魔王ジスと2人きりになってしまった。心臓がドキドキと高なり、手汗が滲みそうなほどの緊張が身体に走る。
「阿月」
「ふぁいっ」
しまった。声が裏返ってしまった。かかぁと頬に熱が集まる。しかし魔王ジスはそれを気にする様子もなく、僕に向けて微笑を浮かべるだけ。幼き我が子の成長を見守るようなそれに、少しずつ緊張がほぐれてきた頃だった。
「阿月はオメガだね?」
「はい……」
オメガであることを確認された。少し気分が落ち込む。だって、オメガを良い要素として見てくれる人なんて誰もいないもの。
「よかった。そなたの容姿はあまりオメガらしくないからね。初めて見たときは、ベータかと思ったんだ」
「あ……」
にこ、と雑念のない笑みを魔王ジスは浮かべる。「ベータかと思った」という言葉に阿月の意識の全てが注がれる。
そうなんだ。僕は、僕がオメガであることを隠したくて、オメガとバレないように頑張ってベータのフリをして社会で生きてきたんだ。
職場では、僕はオメガ雇用のアルバイトだと見られていても、コンビニや歯医者さんでは僕はベータとしてカウントされていたように思う。自分で求めて、なれっこしないものに憧れて擬態した結果だった。それを、初めて認めてくれる人がいた。その事実に胸がつかえてしまう。ぶわっと溢れそうになる涙を堪えて、魔王ジスに問いかける。
「ジスはアルファだよね?」
体格、知性、魔王という階級から彼はアルファ以外はありえないと阿月は踏んでいた。
「ああ。わたしは、アルファの中でも生粋のアルファという自負を持っているよ」
「そうですか……」
やはりアルファ。オメガを組み敷く者たち。僕はこれからどうなるんだろうという恐怖で身体が震えてしまう。
「ああ、そんなに震えて。怖がらせてしまってすまないね。アルファだからとか魔王という肩書きだからわたしが怖いというわけではないのだね」
「どうして、それを?」
考えていること全てを見透かされているような心地がした。
「そなたの心は優しい。だからこそ、オメガに害のあるようなものから守りたいんだろう。そなたは自分と同じ第2の性のオメガの者を大切にしているようだから」
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