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第33話 きなこくんの熱血指導

 キュウ、キュウという鳴き声で目が覚めた。昨夜の温もりは消えていた。ベッドはもう冷えている。王子の姿はない。  不思議な鳴き声はベッドの足元から聞こえているらしかった。おそるおそる、ベッドの上から覗く。 「わぁ……ちっちゃい」  そこには、小さな白いアザラシがいた。絨毯の上に乗っかり、僕をそのつぶらな瞳でのぞいている。 「キュッ、キュウ」  手足をバタバタとさせて、アザラシは僕を見上げている。  かわいすぎる……!  僕は、アザラシを抱き上げようと手を伸ばした。その瞬間。 「かぷっ」 「えぇっ!?」  アザラシの姿がたちまち人型に変わり、その口が僕の手を噛んだのだ。本気で噛んでるわけではなさそうだが、細かな歯の先端が触れて少し痛い。  アザラシの見た目だったのに、今はもう小柄な青年がそこにおすわりして、ぼくの右手を噛んでいる。 「き、君はアザラシの獣人なの?」  その子の瞳は変わらずきゅるんとしている。キラキラと瞳の中が輝いていた。 「おはようございます。阿月様。そうです。僕はアザラシの獣人です。ふむふむ。阿月様のおててはなかなかに良い味がしますね。お出汁でも取れば美味しいスープが作れそうでち」  白髪のマッシュで、毛先だけ黒髪のその声の主は、かわいい見た目に反してとても怖い発言をする。  なんなの。この男の子……。 「本日からシュカ王子の命令にて、阿月様のお世話をすることになりました。きなこと申します。よろしくおねがいしますでち」 「僕のお世話をしてくれるんだ。きなこくんが」  テルー城でいうところの、ライアのような役割なのかな?  それにしても、名前がきなこってかわいい。アザラシの見た目のときもとってもほわほわの毛でかわいかったし。 「はい。きなこは何でもいたしますよ! お困りのときはきなこを呼んでください。どこへでも駆けつけます。まずは、朝ご飯を用意しますでち」  年齢はまだ高校生くらいかな?  きなこくんが部屋の外から台車を運んできてくれる。その上には、スープやパン、チーズのような食べ物が乗っていた。人間界の食べ物とよく似ている。 「こちらおかわりもあるので、その際はなんなりとご命令くださいでち」 「あ、ありがとう」  ふふ、っと微笑むときなこくんも、にこ、と笑ってくれる。 「朝ご飯を食べたら、阿月様はお勉強の時間になりますのでまたお呼びしますでち」  ん? 勉強? 「では失礼しますでち」  てちてち、ときなこくんが僕の部屋を出ていく。  なんかよくわかんないけど、すごい癒されたな……。 「いただきます」  よかった。きなこくん優しくて、しっかりしてそう。
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