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第34話

「それでは阿月様。お腹の休憩も終わったみたいなので、これからお勉強をしますでち」 「うん。よろしくお願いします」  きなこくんが、長い傘のようなステッキを手に握っている。ステッキの先端にはお星様がついている。  ホワイトボードを僕の部屋に持ってきて、そこに色々とペンで書いて説明してくれるらしい。 「シュカ王子のほうから阿月様は、シュカ王子の運命の番だと聞いていますでち。まずは、巡り合わせに感謝でち。阿月様。おめでとうございますでち」  きなこくんは深々と僕に頭を下げる。僕もつられて頭を下げた。 「シュカ王子もとても喜んでる様子でち。これから、フォリーヌ王国について簡単に説明するでち」  きなこくんは地図をホワイトボードに貼りつけて、つんつんと持っている星のステッキで僕の頬っぺをつつく。 「ぼんやりしちゃダメでちよ」 「あ、ご、ごめん……」  きなこくん細かいところまでしっかり見てる……! 先生みたいだ。 「フォリーヌ王国は、約1000年続く王国でち。北を氷の大地に、東は大きな海に守られ、西に領土を広げている国でち。フォリーヌ王国の西には獣人たちだけで暮らす王国や、太古から続く狩猟民族や、独自の宗教を信じる者達などの国があり、シュカ王子は他国とまずは対話で話をつけ、他国を吸収しているところでち。残念ながら対話では話が通じない場合は、フォリーヌ王国の誇る軍力で吸収していくのでち」  そうなんだ。対話、もしくは軍力で他国に侵攻しているんだな。ここまでの話はメビウスから少し聞いていたのと同じだ。 「シュカ王子は、流行病で亡くなられた父上、前国王の意志を継ぎ、国の頂点に君臨しておられるでち。そのような素晴らしい軍略家のシュカ王子に、国民たちは皆全幅の信頼を置いています。もれなく僕もでち」 「そうなんだね。シュカ王子は皆から愛される王子様なんだね」 「そうでち。そんなシュカ王子と添い遂げられる阿月様を妬む者も少なくありませんでち。シュカ王子が運命の番を見つけたという噂は、国境を越え他国にも広まっているでち」 「そんなに広まっているんだ」 「なので、僕がこうして阿月様をお守りするためにお世話をするんでち」 「ありがとう。きなこくん。とっても心強いよ」  僕の言葉が嬉しかったようで、きなこくんは星のついたステッキをぶんぶん回している。 「では、今日のお勉強はここまでとするでち。まだ王宮に来て少ししか経っていないから、今はゆっくり身体を休めて、少しづつフォリーヌ王国のことを知っていきましょうでち」  コロコロ、とホワイトボードを部屋の隅に置いてきなこくんは僕に一礼して部屋から出ていった。 「ふぅ」  一気に色んな話を聞いて、少し頭がぼーっとする。疲労がたまっているらしい。少し、昼寝でもしようかな。  ベッドの中に入り、瞳を閉じる。  きなこくんの説明からも、シュカ王子は暴政を国民に強いている様子はなかったな。本当にメビウスが言うように悪い王子様なのだろうか……。

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