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第68話 わたしのほうが/俺のほうが阿月を愛している

 テルー城に戻った僕は、大広間の長テーブルの真ん中に座っている。右と左の端には、ジスとシュカ王子が座っている。 「シュカ王子。はじめまして。冥界を司る魔王のジスという」 「お前が魔王・ジス。くそ、俺と同じくらいの美男子だな。これは《《うち》》の阿月が懐くのも仕方がないな」  ぴく、とジスの尖り耳が動く。 「いえいえ、こちらこそ《《うち》》の阿月が大変お世話になったそうだ」  ビリビリ、と見えない雷がぶつかっている音が聞こえるような……。  僕は2人の動向を見守ることにした。 「そうしたら、どちらが阿月を愛しているか試そうではないか」  ジスの提案にシュカ王子が拳を突き上げて答える。 「はっ。受けて立とう」  なんだろう……何が始まるんだろう……。  僕は黙り込んでそわそわとする。 「まず、阿月の良いところはさらさらと風になびく髪の毛が麗しいな。声も少年のように優しく響き、手足が長くスタイルが抜群だ。加えて夜の顔も麗しいのだよ」  さらさらと説明しているが、ジスはとんでもない爆弾を落とした気がする。僕は頬を紅くさせながら、その場から立ち去りたくなった。 「そんなの当たり前だろ。阿月は俺が熱出したときも看病してくれたし、なにより抱き心地がたまらん。もう少し食べたほうがいいと伝えたが、今のほっそりとした体型も好みだ。夜の顔はひよこみたいに可愛かったぞ、俺のときは」  えっ。夜の顔ひよこなの……僕。  それより上を目指すようにジスがたたみかける。 「そのようなこと、阿月のかわいらしさの1部に過ぎぬ。笑った顔が幼子のように愛おしく、頬をつまみたくなってしまう。口が小さく、唇はぷるんとぷにぷにしていてかわいらしい」  や、やめてよ……恥ずかしいよ……ジス。  赤面しているとシュカ王子も会心の一撃を見せる。 「なにより俺と阿月は運命の番。印も付けた仲だ」  ま、待って。そのことはまだジスに伝えてないんだ……。 「運命の番……そうなのか? 阿月」  ようやく2人の視線が僕を捉えた。僕は小さく頷く。 「ごめん。隠してたわけじゃなくて、いつ伝えればいいのか迷ってて……黙ってて本当にごめんなさい」  ジス。怒ってるかな……。  ちら、とジスの顔を仰ぎみれば、 「ふぇ?」  ほのぼのとした表情を浮かべている。 「ふふ。人間の交わりには運命の番というものがあると聞くが、魔王にはそもそも運命の番という者はいない。古くからある言い伝えによれば、魔王は運命の番でなくても愛そうと思ったオメガこそが、生涯の伴侶と言われている。阿月。もちろん、異論はないな?」 「ぁ……ぇと……はい」  これって告白、だよね?    僕の返事を「うむ」と受け取ったジスは満足げに微笑んでいる。

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