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第84話 番外編|3人でピクニックデート(side 阿月)

 ある晴れた日のこと。空にはうろこ雲がかかり、ぽっかりと青空が浮かんでいる。ここはフォリーヌ王国の王都の端に位置する広大な自然公園だ。今日はここにジスとシュカ王子、阿月の3人でピクニックデートに来ていた。  事の発端はと言うと……。 「俺も阿月のお弁当食べたい」  むすっと不機嫌な様子のシュカ王子。こめかみに筋を浮かばせて、いつになく怖い顔。 「ずるい。ジスだけ阿月の手料理を食べるなんて。俺にも食わせろ」  これ、完全にジスに嫉妬してるよね……?   阿月はなんだか微笑ましい気持ちになりながらも、目の前でおこおこしている王子に声をかける。 「もちろん。僕のでよければ作るよ。どんなお弁当のおかずがいい?」  阿月はメモを取る準備をして羊皮紙と万年筆を手に取る。シュカ王子が買い与えてくれたものだ。自分にとっては宝物のようだった。 「んー。そうだな……。肉はマストだ。俺はA5ランクの牛肉しか食わない。あと、揚げ物も入れてくれ。今は身体に悪いものをすこぶる食べたい気分だからな」  ふん、と腕を組んで細かい注文をしてくる王子を阿月ははいはいと受け流してメモを取る。  A5ランクの牛肉を使って料理したことないけど大丈夫かな? 冥界に召喚される前の生活では普通の国産の牛肉しか調理したことがないから、一抹の不安は生まれた。 「逆に、絶対に入れて欲しくない苦手な食べ物は?」  阿月の質問に王子は少々ばつが悪そうに額に手をあてて呟いた。 「グリーンピースはNGだ。ピーマンも好かない」 「なんだか子どもみたいだね」 「なっ……! お前、なかなか言うようになったな」  素直な感想を伝えると王子はくすりと笑って、阿月の耳元に顔を寄せる。 「いいんだぞ。俺はお前自身がおかずでも全く困らない」 「……っ変態王子……」 「何か言ったか?」  阿月の精一杯の抵抗も虚しく、王子は余裕ありげにさっさと公務に戻ってしまった。 「……絶対にシュカ王子に美味いって言わせるお弁当を作る……!」  阿月の負けず嫌い精神がめらめらと燃え上がっていった。  その話を角のネックレスを通して聞いていたというジスが、その日の晩、阿月の夢に出てきた。むにゃむにゃと寝言を言う阿月の頬をジスがそっと撫でてくれる。なんて幸せな夢なんだろうと微睡んでいると……。  目の前ににこにこご機嫌な様子のジスが現れた。  こんな笑顔のジスを初めて見たかもしれない。  普段、どちらかといえば無表情に近くて笑ったとしてもほんのり口元を持ち上げる「微笑」レベルなのに。今は目を細めて口元もにんまりとしている。 「はあ。早くそなたに会いたい。もう数週間も会ってないだろう? それはさておき、昼間に話していたのは、王子に作る弁当の話か?」  くりくりとジスの指先が阿月の額を優しく撫でる。その心地良さにぽんやりとしていると、ジスはふふ、と笑いかけてくれる。 「夢の中だとそなたはいつもより素直だな。わたしにもそなたのお弁当を食べさせて欲しいのだが」 「お弁当……? いいよ。ジスのためならいくらでも作るよ。何のおかずが好き?」  阿月が惚けているのに気づいたジスは、胸元の黒衣から羊皮紙と万年筆を取り出すと自分で何かを書き始めた。阿月はその行動をじっーと観察する。 「この辺りだろう。目が覚めても手元にメモを残しておくから良ければ参考にしておくれ。わたしはそなたの手料理ならば何でも食べられるはずだ」  阿月はこくんと頷くと、さわさわと前髪を撫でてくれるジスの優しい手つきに溺れるように再び眠りについた。

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