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第83話 番外編|待っていた。この時を──。※ (side ジス)

 はじめてだった。  自分の胸が高鳴ったのは何百年ぶりだろう。  召喚の儀において、一瞬息を吸うのを躊躇い、瞬きもせずに《《彼》》を凝視する。彼はきょとんとした顔でわたしを見つめている。まるで初めて外の世界に放り出された赤子のように無垢な瞳で。わたしのことを見上げている。  彼の名前は阿月というらしい。冥界では珍しい名前だった。しかし、響きがよかった。しっくりとくる。彼に相応しい名前だと思った。  阿月に幾度となくちょっかいといたずらを施した。彼の反応が余りにも初なものだから、やりすぎてしまうことも多々ある。  今日は阿月はライアと料理を作る日だった。ライアからわたしは厨房出禁の命を受けている。以前に阿月のためにレアチーズケーキを作ろうとしたところ、料理に不慣れなわたしが厨房をめちゃくちゃにし、焦げレアチーズケーキを作ってしまったのをこっぴどくライアに叱られたためだった。しょげるわたしを見た阿月は、わたしにこう言った。 「こころのこもったレアチーズケーキをありがとうございます。こんがりしてるところ、バスクチーズケーキみたいでほろ苦くておいしいです。今度は僕に作らせてください」  なんていい子なんだろう。わたしは思わず彼を抱きしめたい衝動に駆られた。しかし、ライアがぷんぷんと怒っている最中にそのようなことはできなかった。2人に厨房を任せ、寝室に戻る。ベッドに横になると、胸がどくんどくんと打つ音が身体に響いた。 ──こんな気持ち、初めてだ。  下衣をずり落とし、下着の中に手を入れる。ふだん滅多に反応しないそこが痛いほどに昂っていた。阿月のせいだ。彼があんなに優しいから……。自分の興奮している身体に素直に従うことにした。抜かないとおさまりそうにない。ぷっくりと主張する先端をぐりぐりと指の腹で撫でる。つうっと糸を引くほどにそこは濡れている。それを滑りにして、くちゅくちゅとはしたない音を立て自分を慰める。 ──きもちいい。阿月……。  竿を手筒に挿れ、激しく腰を振る。まるで彼のことを犯すように。悪いとは思いながらもその想像をやめることができなかった。彼に軽蔑されたらどうしよう。それは嫌だ。でも──。 「……うっ」  ぱたた、と手のひらに白蜜が吹き散る。はーっ、はーっと荒い息がベッドに落ちた。白蜜の匂いに頭がクラクラとする。手を洗おうとベッドから立ち上がったとき。 「コンコン」 「っ」 「ジス。今入っていい?」  阿月の声だった。わたしはおろおろとして、平然を装い返事をする。 「すまない。今、仕事で手が離せない。どうした?」  扉越しに阿月の声を聞いただけで、身体がふつふつと熱を帯びる。 「レアチーズケーキ、今冷やしてるところだから後で持ってこようと思って……」 「ああ。すまないな。ありがとう」 「うん。じゃあまた、夕食のデザートにしようね」 「ああ。楽しみにしてる」  ドアの前から彼がいなくなったことを確認し、再度ベッドに雪崩込む。 ──ダメだ。限界。阿月が健気で可愛すぎる。  その後、ジスは1人で慰め続けた。 「阿月……す、き……だ」  自分のこころの中の本音に気づく。もう何百年も感じたことのない密かな恋心だった。 「絶対にわたしのものにしてみせる」  誰よりも阿月を愛することを誓う。

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