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1夜

 男の子は目が覚めると、知らない場所にいました。  確かにベッドの上で眠っていたはずなのにここは外です。  空は素晴らしく青くて、お日さまが温かく、ふかふかと乾いた苔が体の下に敷き詰められていました。  黒い猫がふんふんと鼻を鳴らして男の子の顔の匂いを嗅いでひげがチクチクと頬を刺します。   おや?君はどなた様?  黒猫のお腹をぐんにゃりとさせながら抱き上げ、その(ひと)は尋ねました。   あ、気がついたらここにいました   ここはどこですか?  男の子はソロソロと起き上がり、男を見つめました。  背が高く、艶々とした長い黒髪を束ねた、とても綺麗な顔の人です。  その(ひと)は自分と同じ艶々の黒い毛の猫を男の子の膝にそっと乗せてくれました。   ここは私の庭ですよ   あなたの庭?  男の子はそっと黒猫の背中を撫でながら尋ねます。   ええ、そうです   ああ、わかった   私に会いに来てくれたんですね   君は僕の花嫁さんでしょう?  その男は嬉しそうにそう言います。  黒猫も嬉しそうに尻尾をピンと立て、男の子の顎に頭を擦りつけます。  男の子はうふふ、と笑いました。   花嫁さんじゃありません   僕、男の子ですよ     男の子だとお嫁さんにはなれませんか?   なれません   どうして?   え?えっと、だって、お母さんになれないもの   子供のいないお嫁さんもたくさんいますよ?   あ、そうか・・   えっと、えっと、だって僕、まだ子供ですから   では大人になれば私のお嫁さんになってくれますか?   えっと、えっと、それは大人になってみないとわかりません     わかりました、では君が大人になるまで待つとしましょう   君のお名前は?   名前?あら、そういえば、僕の名前は何だろう?   おや、忘れてしまったのですね   大丈夫、この庭に来る人は色んなことを忘れてしまうものなんです  男の子の腕の中から黒猫が飛び出してトンと地面に降り、グンと伸びをします。   では、君のことを、そうだな、ヒカリとよぶのはどうかな?   君はまるで光に溢れているように美しいからね   はい   あなたのお名前は?   私ですか?そうですね、カミニシ、とでも名乗っておきましょうか   カミニシさん   はい  男の子はすぐにカミニシと名乗ったこの男のことが好きになってにっこりと笑いかけました。   カミニシさん、はじめまして   はじめまして、ヒカル  ヒカルと名付けられた男の子は黒猫にもはじめまして、と挨拶をすると黒猫はフワリと欠伸をしました。

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