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「うーん、そう思っちゃう?」  デヴィットさんが目を細める。意地悪な雰囲気に、もしかしたら余計なスイッチを押したのかも――と、不安になった。 「だけどね、ユーグ。情報ってとっても大切なんだよ」  しかし、俺の不安とは裏腹に、デヴィットさんは真剣な面持ちになる。まるで説教をされているんじゃないかと錯覚してしまう。 「貴族としても、騎士としても。情報は欲しいんだ。それに、適材適所だよ」  組んだ手の上に顎を置いて、彼は笑う。先ほどの意地悪さはどこへやら。今はとても楽しそうな表情だ。  ……もしかしたら、彼は俺のことを弟分かなにかだと思っているのかもしれない。 「団長はあのビジュアルだから、諜報活動には向いてないよね。でも、その分存在感がある。いるだけである程度の犯罪の抑制力になる」  デヴィットさんの瞳にわずかに影が差した。  俺の知るデヴィットさんは、常に明るい。もちろん、そこまで深く知っているわけじゃない。  ただ、やっぱり。――ちょっと、意外だった。 「俺は、犯罪で苦しむ人を減らしたいんだ。だから、騎士になった」  彼の姿が、どうしてだろうか。兄さんに重なる。兄さんの影を振り払うように頭を横に振る。  だって、兄さんとデヴィットさんは似ていない――はずだから。 「犯罪を減らすための努力は惜しまないよ。俺にできることは、全部やってやる」 「デヴィットさん」 「――なんて、センチメンタルな空気になっちゃったね」  顔をあげて、デヴィットさんは肩をすくめた。困ったように笑う彼の瞳が、寂しそうに見えた。  ……あぁ、ダメだ。兄さんとデヴィットさんを、やっぱり重ねてしまう。 「話を戻そうか。団長との関係っていつから?」 「だからって、その話に戻さないでください」  センチメンタルな空気は辛いけど、そこには戻さないでほしかった。だって、回答に困るし。 「そもそも、俺とルー……セザールさまの関係がいつからだったとしても、デヴィットさんには関係ないでしょう」  むっとして返すと、彼はポリポリと頬を掻く。それから、嬉しそうに笑った。 「まぁ、そうだね。俺には関係ない」  意味ありげな言い方だ。言葉の続きを促すような視線を向けると、デヴィットさんは小首をかしげた。  本当に表情豊かな人だ。 「ただ、この仕事が特殊だっていうことは、自覚しておいて。この仕事は国の平和を守るためにある。そのためだったら――身内にだって隠し事をしなくちゃならないんだ」 「それくらい、知っています」  国の防衛にかかわっているのだ。身内だからといって、易々と情報を渡すわけにはいかない。 「……ユーグは、これが示す本当の意味を分かっていないよ」  唇を噛んだデヴィットさんが、俺を見据える。瞳の奥に責めるような感情を宿した彼はなにを考えているのだろうか。  この状況に困る俺をよそに、デヴィットさんは立ち上がった。 「身内に隠し事をされるって、案外つらいことなんだよ。……仕事だってわかってても、受け入れられないことはある」  彼は仕切りの布を手でぐしゃっと握った。しわになるのもお構いなしと言いたげな態度に、俺は不安を抱く。 「隠し事をするほうもつらい。でも、隠されるほうがもっとずっとつらいんだよ。覚えておいて」  振り返ったデヴィットさんの表情は、いっそ恐ろしく思えるほど美しい。さみしそうに笑った瞳に、魅入られてしまう。 「さぁ、そろそろお茶が来るよ。この後も仕事だろうから、たっぷり休憩を取っていってね」  ウィンクを飛ばしてくるデヴィットさんに向かって、うなずく。  彼が一体なにを言いたかったのか。それがわかるのは――もう少し先。

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