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俺の言葉に、ルーはしばらく黙り込んだ。
拒否されたらどうしようか――という考えが頭をよぎる中、ルーが立ち上がったのが気配でわかった。
俺の傍まで来て、跪く。俺の顔を覗き込んでくる瞳に宿る感情は、いろいろなものがぐちゃぐちゃに混ざっていた。そして、ルー自身も自分の気持ちがわからない……のかも、しれない。
「ユーグがこの屋敷にいるだけで、俺にとってはなによりの力だ。それじゃ、ダメなのか」
視線を絡ませ、ルーが問いかけてくる。
それは、俺にはなにもしてほしくないということなのだろうか。……まぁ、そうだよな。
予想できていたじゃないか。はじめからわかっていたじゃないか。俺とルーじゃ住む世界も見ている世界も全然違う。
……俺なんかに、できることは一つもない。
「俺はユーグを守りたい。言い方は悪いが、俺はユーグと住んでいることで欲が満たせるんだ」
――それじゃあ、セフレだったころとなにも変わらないだろう。
喉元まで言葉が出かかったが、それよりも先にルーが言葉を続けた。
「ユーグがここに居ることで、俺は庇護欲を満たせるんだ。自分の中にある強すぎるなにかを守りたいという気持ちを、満たせるんだ」
俺の手を取り、指を絡め。ルーがはっきり言葉を紡いでいく。
庇護欲。守りたいという気持ち。予想もしていなかった欲望の種類。
「俺は侯爵家の三男だ。守られる立場として生まれた。だが、俺は人よりも庇護欲がずっと強かった」
「……ルー」
「だから騎士になった。この国を守ることで、自分の望みを果たせる気がした。でも、違った」
今にも泣きそうな表情をするルーの頬に、手を伸ばす。片方の手は指を絡め、もう片方の手はルーの頬に触れる。
じっと見つめ合う先の瞳には陰りなどなく。この人が本当に愛され、大切にされ、守られてきたことがわかった。
でも、同時にセザールという人物にとって、それは望んでいたことではなかったのだろう。
本当のセザールは、守られるよりも守りたい人だった。
「もちろん国は大事だ。民だって大切だ。けど、たった一人特別な人を守る。それが俺の本当の望みだった」
「……だったら、俺なんか選ぶなよ」
面倒くさくて、守られてばかりじゃ嫌だというような人間では、ルーの欲望を満たせない。
もっと大人しくて、従順で。触れたら折れてしまいそうな儚げな人。そういう人のほうが、ルーの欲望を満たせるはず。
(たとえば、あのときに見た人とか――)
訪れた騎士団の建物で見た美しい人。あの人だったら、ルーの欲望を本当の意味で満たせるんじゃないだろうか。
「もっと守りがいのあるやつを選べよ。俺みたいなやつより――」
最後まで告げるより先に、唇がふさがれた。気づくと俺は、ルーにキスをされていた。
大きく目を見開く俺の背中に、ルーの腕が回る。逃がさないというようにがっしりと抱きしめられる。
「――ユーグがいい」
かすれた声で名前を呼ばれると、心臓が大きな音を立てた。
頭の中が沸騰したみたいにぐちゃぐちゃで、顔は熱くてたまらない。
「ちょっと乱暴なところも、ツンケンしたところも。なんなら、そうやって守られてばかりじゃいやだ――というところが、いい」
「……矛盾してる」
「自分でも驚きだ。けどさ、守られて当然と振る舞われるより、ずっといいんだよ」
ルーの腕が移動して、両手で俺の頬を挟んだ。
「守られてばかりじゃいやだっていうやつを、強引に守る。それが一番、俺の欲望を満たせる。歪んでるだろ?」
「……うん、歪んでる」
他人が聞いたらなに言ってんだこいつ、と思うだろう。他人じゃない俺でも、思っているし。
「俺はユーグと一緒にいたい。危なっかしい生き物を守りたい」
「お前、見る目ないな」
悪態をつくと、ルーは挑発的に笑った。
「――それはお互いさまだ。こんな厄介な人間に目を付けられたユーグが、一番見る目ない」
それはまぁ、認める。
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