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ルーが帰ってきたと知らせを受けたのは、日付が変わったころだった。
あらかじめ帰ってきたら知らせてほしいと頼んでいたので、従者の一人が部屋に呼びに来てくれる。
俺は彼を連れて、ルーがいるという食堂へと向かう。食堂からはぼんやりとした灯りが漏れていた。
「ここまでありがとう。あとは一人で大丈夫だから、おやすみ」
従者は俺の言葉にしばらく迷っていたものの、最終的には折れてくれた。彼は頭を下げ、就寝のあいさつをして立ち去る。
残された俺は、扉を前にして深呼吸。わずかに間をおいて、ノックをした。
「ユーグです」
声をかけると、扉が開く。顔をのぞかせたのはアベラールさん。
アベラールさんにもこのことは伝えていたため、驚くことなく中に通してくれる。
室内ではルーが食事をしていた。テーブルに並ぶ料理は軽食ばかり。深夜だから、胃に優しいものを用意したのだろう。
「ルー、いきなり来ちゃってごめん」
向き合って、肩をすくめる。ルーは一瞬驚いたように目を見開いたものの、すぐにいつも通りの表情になる。
アベラールさんが椅子を引いてくれたので、そこに腰を下ろす。ルーは口元を拭いて、水を一口飲んでから俺を見た。
「こんな時間まで起きる必要はないだろ。明日だって仕事だろうし――」
「……それはそうだけどさ」
眉尻を下げた俺に、ルーはばつの悪そうな顔をした。
先ほどの言葉は、ルーからすると百パーセントの心配だ。けど、俺の態度に失敗を悟ったのかもしれない。
「ちょっと話したいことがあったから。ここのところ、きちんと話せてなかったし」
アベラールさんが俺の肩にブランケットをかけた。会釈をすると、彼は俺に勇気をくれるようにうなずいた。
「セザール坊ちゃん。私は一度失礼します。食器の片づけは後で行いますので、そのままで」
「……あぁ」
怪訝な気持ちを隠すことはなかったものの、ルーは素直に俺と二人きりになってくれた。
アベラールさんが部屋を出て、食堂内は静まり返る。時計の針の音が響く中、俺は笑みを作った。
「重い話じゃないから、食事の手を止めなくてもいいよ。俺が一方的に話すことになりそうだし」
「じゃあ、そうする」
ルーは食事を再開した。空腹だったんだろう。こんな時間まで働いていたのだから、当たり前だ。
「……今さらだけど、俺、寂しかった」
俺の言葉にルーの手が止まった。
何度も瞬きをして、俺の言葉の意味を理解しようとしているみたいだ。
「俺はルーの仕事の必要性について、理解はしてる。だから、仕方がないってことも、俺がわがままを言っちゃダメなこともわかってる」
ルーが怪我なく帰ってきてくれたら、それでいい。この気持ちは嘘じゃない。
「これは俺の勝手な望み。ルーは叶えなくていい。俺は自分の気持ちを言葉にして伝えたかっただけだから」
全部押し殺してきた。
感情や願いも全部抑え込んだ。だって、俺はしょせん他人だ。
相手は小さなころに面倒を見てくれた使用人でも、兄さんでもない。なら、伝えても迷惑なだけだって。
「少しずつ、少しずつ。俺は自分の気持ちを言葉にしたいって思ってる。ルーに隠し事はしたくない」
「……ユーグ」
「代わりにお願いがある。ルーも想っていること感じていることを話してほしい。仕事以外のことは、話してほしい」
俺は騎士団の関係者じゃないから、仕事のことは聞く権利がない。無理に聞いてルーに規則違反をさせたいわけじゃない。
「俺にできることは少ないよ。話を聞いてもろくなアドバイスだってできないと思う。……それでも、一緒に悩むことはできるから」
きっとルーの悩みは、俺なんかには想像もつかないくらい難しいことなのだろう。
侯爵家に生まれ、騎士団長という立場を持っているのだ。花屋のバイトで男爵家出身の俺とは大違い。
「ルーに頼ってばかりなのがいやなんだ。……俺もルーの力になりたい」
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