57 / 58

5-4

 ルーが帰ってきたと知らせを受けたのは、日付が変わったころだった。  あらかじめ帰ってきたら知らせてほしいと頼んでいたので、従者の一人が部屋に呼びに来てくれる。  俺は彼を連れて、ルーがいるという食堂へと向かう。食堂からはぼんやりとした灯りが漏れていた。 「ここまでありがとう。あとは一人で大丈夫だから、おやすみ」  従者は俺の言葉にしばらく迷っていたものの、最終的には折れてくれた。彼は頭を下げ、就寝のあいさつをして立ち去る。  残された俺は、扉を前にして深呼吸。わずかに間をおいて、ノックをした。 「ユーグです」  声をかけると、扉が開く。顔をのぞかせたのはアベラールさん。  アベラールさんにもこのことは伝えていたため、驚くことなく中に通してくれる。  室内ではルーが食事をしていた。テーブルに並ぶ料理は軽食ばかり。深夜だから、胃に優しいものを用意したのだろう。 「ルー、いきなり来ちゃってごめん」  向き合って、肩をすくめる。ルーは一瞬驚いたように目を見開いたものの、すぐにいつも通りの表情になる。  アベラールさんが椅子を引いてくれたので、そこに腰を下ろす。ルーは口元を拭いて、水を一口飲んでから俺を見た。 「こんな時間まで起きる必要はないだろ。明日だって仕事だろうし――」 「……それはそうだけどさ」  眉尻を下げた俺に、ルーはばつの悪そうな顔をした。  先ほどの言葉は、ルーからすると百パーセントの心配だ。けど、俺の態度に失敗を悟ったのかもしれない。 「ちょっと話したいことがあったから。ここのところ、きちんと話せてなかったし」  アベラールさんが俺の肩にブランケットをかけた。会釈をすると、彼は俺に勇気をくれるようにうなずいた。 「セザール坊ちゃん。私は一度失礼します。食器の片づけは後で行いますので、そのままで」 「……あぁ」  怪訝な気持ちを隠すことはなかったものの、ルーは素直に俺と二人きりになってくれた。  アベラールさんが部屋を出て、食堂内は静まり返る。時計の針の音が響く中、俺は笑みを作った。 「重い話じゃないから、食事の手を止めなくてもいいよ。俺が一方的に話すことになりそうだし」 「じゃあ、そうする」  ルーは食事を再開した。空腹だったんだろう。こんな時間まで働いていたのだから、当たり前だ。 「……今さらだけど、俺、寂しかった」  俺の言葉にルーの手が止まった。  何度も瞬きをして、俺の言葉の意味を理解しようとしているみたいだ。 「俺はルーの仕事の必要性について、理解はしてる。だから、仕方がないってことも、俺がわがままを言っちゃダメなこともわかってる」  ルーが怪我なく帰ってきてくれたら、それでいい。この気持ちは嘘じゃない。 「これは俺の勝手な望み。ルーは叶えなくていい。俺は自分の気持ちを言葉にして伝えたかっただけだから」  全部押し殺してきた。  感情や願いも全部抑え込んだ。だって、俺はしょせん他人だ。  相手は小さなころに面倒を見てくれた使用人でも、兄さんでもない。なら、伝えても迷惑なだけだって。 「少しずつ、少しずつ。俺は自分の気持ちを言葉にしたいって思ってる。ルーに隠し事はしたくない」 「……ユーグ」 「代わりにお願いがある。ルーも想っていること感じていることを話してほしい。仕事以外のことは、話してほしい」  俺は騎士団の関係者じゃないから、仕事のことは聞く権利がない。無理に聞いてルーに規則違反をさせたいわけじゃない。 「俺にできることは少ないよ。話を聞いてもろくなアドバイスだってできないと思う。……それでも、一緒に悩むことはできるから」  きっとルーの悩みは、俺なんかには想像もつかないくらい難しいことなのだろう。  侯爵家に生まれ、騎士団長という立場を持っているのだ。花屋のバイトで男爵家出身の俺とは大違い。 「ルーに頼ってばかりなのがいやなんだ。……俺もルーの力になりたい」

ともだちにシェアしよう!