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結局、車内ではろくに会話もなく、目的地にたどり着いた。
奏輔が俺を連れてきたのは、ホテルの最上階にあるフレンチレストラン。出迎えてくれたウェイターは奏輔の顔を見ると、一礼をした。
「上月さま。お待ちしておりました」
「うん。予約した通りでよろしく」
「かしこまりました。こちらにどうぞ」
ウェイターはレストランの奥にある個室に俺と奏輔を案内する。
席に着くと、奏輔は俺にメニュー表を手渡してきた。
「料理は予約してるけど、飲み物は好きなものを選んで。おすすめは赤ワインかな」
「……じゃあ、それで」
こういう場にふさわしい飲み物など、わからない。だが、少なくともビールやチューハイ、ハイボールなどではないはず。
ワインなんて飲んだこともないけど、この場合は仕方がない。
「飲みやすいやつと、いつも俺が頼んでるやつ、お願いね」
「かしこまりました」
奏輔が注文を済ませると、ウェイターは一礼をして下がっていく。
個室なので当然、俺と奏輔の二人きりだ。
レストランの中では、小さなBGMが流れている。けど、それくらいではこの場の空気をごまかすことはできない。
考えた末に、俺は当たり障りのない話題を振ることにした。
「奏輔は……よく、こういうところに来るのか?」
たまに忘れそうになるが、奏輔も亜玲も御曹司なのだ。こういうところに慣れていてもおかしくはない。
「ん? 俺に興味があるの?」
「……そういうわけじゃない」
俺が顔を背けたタイミングで、先ほどと違うウェイターが入ってくる。
彼はグラスにワインを注いで、いくつかワインの説明をして退室した。
「とにかく、乾杯しようよ。こんな機会、めったにないんだから」
目の前に腰かける奏輔に、内心で舌打ちをしてグラスを掲げる。奏輔もグラスを掲げて、流れるようにグラスに口を付けた。
「さっきの質問に答えようか。俺はよくこういうところに来るのか――ということだけど」
グラスを戻して、奏輔は俺を見つめる。
「答えはイエス。こういう場にはよく来るよ」
人が好きそうな笑みを浮かべた奏輔の顔は、まさに絶世の美男子といっても過言じゃない。……男子という年齢では、ないけどさ。
「……どういう目的で?」
「そんなこと聞いてどうするの? あ、もしかして――俺がどんなやつを連れてきてるのか、気になるの?」
気になるか気にならないか。気にならないといえば、嘘になる。だって実際――俺は、気になっている。
首を縦に振ると、奏輔は声をあげて笑った。
「素直な祈は可愛いね。いい子いい子」
手を伸ばして、俺の頭を撫でようとする奏輔。咄嗟に手を振り払うものの、奏輔は気にするそぶりも見せない。
そのまま頬杖をついて、にやっとした笑みを向けてくる。
「言っとくけど、恋人とかを連れてきてるわけじゃない。俺は接待にこういう場を使っているんだよ」
「そういうものなのか?」
俺は接待についてよく知らないけど、こういうところには恋人と来るというイメージがあった。
接待で――なんて、想像もしていなかった。
「ここは個室もあるし、『接待』という名目で頼んでおいたら、いい感じにまとめてくれるしね」
「全部丸投げかよ」
奏輔の話術は巧みで、気づくと俺の緊張はほぐれていた。
グラスに口を付けて、ワインを一口飲んでみる。慣れない味だけど、飲みやすくて美味しい。
本当のところ、頭のどこかで「亜玲に悪い」という考えがずっとあった。なのに、美味しいワインと次々出てくる最高の料理。あと、場の雰囲気に呑まれたんだろう。
一時間もする頃には、俺は奏輔のペースに乗せられていた。
「じゃあ、そろそろ行こうか。俺もお酒飲んじゃったし、今日はここに泊まろう」
奏輔が立ち上がる。ウェイターを呼び寄せ、個室を出た。……入口付近が、なにやら騒がしい。
「上月 奏輔を呼べ!」
聞こえてきた声は、馴染みのあるものだった。
ぽかんとする俺をよそに、奏輔は俺の肩に腕を回す。
「行こう」
ささやくような声量だった。けど、俺はこの言葉にうなずけない。
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